第6話 吾輩は牛である

文字数 820文字

吾輩は牛である

 吾輩は、牛である。名前はまだ無い、といいたい所なのだが、生憎と「ゴロベエ」という名がついているらしい。

 勿論、自分の親がつけたモノでは無い。「人間」という上層部が勝手につけて、「ほら、ゴロベエもっと働け、働かないと屠ってやるぞー」と脅す時の枕言葉みたいなものだ。

 私の仕事は、毎日畑に出ては土地を耕す力仕事だ。朝早くからなので、昼頃には疲れてやめたくなるのだが、サボると「ご主人様」から容赦ない鞭が飛び、「この野郎!夕飯は抜きだ!」とばかりに飼い葉を与えられなくなる。
とても、悲しい。

 私も年頃の雄なので、雌牛ことにオッパイの大きい娘にはことさらに興味を惹かれる。しかし、こういう魅力的な娘は檻に入れられて、文字通り「箱入り娘」となって乳を毎朝搾り取られる。可哀想だ。

 また、グルメな仲間もいる。やはり、檻に入れられて「ビール」なぞをたらふく呑み、美味い飼料をたっぷりと与えられるのである。そして、マッサージまでしてもらえる。側から見て、大変に羨ましいのであるが、彼らの目は絶望的な悲壮感に満ちている。そして、いい加減に肥えてくると一頭、また一頭と消えて行くのだ。

 私は、歳を取った。畑仕事も辛く、はかどらなくなった。
 「仕様がねえな。そろそろ処分してやるか」
 (処分?)
 私は、翌朝トラックに乗せられ、ある所に連れて来られた。
 周りには、グルメな連中が屯しており。皆一様に絶望的な目をしている。
 私は、自分の運命を悟った。終わりなのだ。

 そして、私の番が巡って来た。
 私は、10ポンドハンマーで頭を強かに殴られて、心臓に強烈な電流を流された。

 私は、断末魔の薄れていく意識の中で「ご主人様」の声を聴いた。 

 「ゴロベエ、オメエは本当によく働いてくれた。おまえが屠られた後は、家族皆で有難く頂戴すっから、成仏してくんろ。今度生まれ変わって来たなら、今度は人として…」
 
 (冗談じゃない、オマエ達の仲間なんて…)
 
 
 
 
 
 

 
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