第3話 石井和歌子

文字数 681文字

 定例のムシュド会議を終え、俺は会計を済ませる。地下街に出てハッピーカードを見せた。六枚貰ったのだが、彼女たちが二枚ずつ受け取っていく。俺の取り分はない。まあ、別にアヒルの絵皿とか要らないのでいいのだが、何となく納得できない。そう思いながらも早く帰りたい俺。しかし、石井さんをチラ見してしまう。同い年で港南市出身の彼女。俺の高校の同級生が彼女と同じ中学だとか、そういう縁がある。だから何となく話が合った。まあでも、付き合いたいとかそういう気持ちはほぼ、ない。

 何かの話で、小学生時代にみなとスタジアムに行ったことを聞いていた。だから興味があるかもなと思い、試合に誘ったのだった。意外にもあっさりオーケーしてくれた。普段はライトスタンドに陣取る俺だが、この日は一塁側の指定席。実は法人営業課の景品の余り。法人営業課の石井さんはそれを知っていたこともあり、他の二人にバレないよう、こっそりと石井さんに声を掛けたのだった。背番号二十五のユニフォームを着るのは自粛したが、メガホンと応援バットは持参し、石井さんに手渡した。初回のチャンスは勝手に盛り上がり、彼女も笑顔だったように記憶している。その後光沢のある長い黒髪は全く揺れず、沈黙した。エラー絡みもあり、十三失点という惨敗のせいだ。いつも通り、外野席にいる応援団の女性部隊が晒す健康的な太腿に目が行った。ピンチ続きでやることがないので、同じ売り子さんからユウヒビールを四杯買った。試合後あっさりと解散になったのは、それらのせいではないと思っている。そして石井さんはこの日のことを、俺の前では一度も振り返ってくれない。
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