第6話 報告の夜

文字数 538文字

 二年目の五月になっていた。俺は個人資産管理課という外回りの課に異動していた。当然残業が増え、ムシュド会議への参加もまばらになっていた。その日も十七時ギリギリに支店へ戻った。大きな銀行員鞄を床に置き、ATMにお客様から預かった札束を入金していた。すると営業一課の斎藤さんが近付いてきた。
「難波くん、今日は時間ある?」
 十八時半には何とか終わるだろう、と答えると、ムシュドではなく駅ビル内の、ちょっと高級感のあるカフェバーで待っている、とのこと。おそらくカードが使えるので、大丈夫だろう、と咄嗟に思う俺。今の口ぶりは、斎藤さんだけだろうか? やっぱりいつも通り三人いるのだろうか? ああ、たかりに慣れ過ぎである。



 それぞれのカクテルを片手に、杯を合わせる。小さめの音量でジャズが流れる店内。何で四人一緒なんだろう……。

 沈黙を破ったのは石井さんだった。
「実は、私たち、結婚することに……」
 私たち? えっ、同性婚? でも三人でしょ?
「偶然にも、同じタイミングで」と斎藤さん。
「六月の式まで一緒なんだよね、びっくり」と目を見開いて喋る鈴木さん。
「それで、六月に三人とも辞めるんだ……」鈴木さんがうつむき加減で続ける。
「でも、お式は見事にズレていて」斎藤さんの声だろう。多分……。
 
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