死神ジュンの葛藤 第3話

文字数 1,005文字

老婦人の家は古い一軒家だった。
しかし年老いた女性が一人で住むには広すぎる。
そんな感じに見受けられた。



「なんで(わたくし)が猫なんかのために…」

ジュンは家の周りを飛びながらぶつくさとボヤいていた。

すると……



「これは珍しい客人がやって来たものだ。だが生憎と今この家の主人は不在だぞ!」

という声が下から聞こえてきた。

見るとそれは一匹の年老いた猫だった。

どうやら探していた張本人のようだ



「ええ、知ってますわ。(わたくし)は死神ジュン。(わたくし)は貴方のご主人の依頼でここに来たんですもの。 貴方があの人の飼い猫ね?」



「いかにも! しかし依頼とは何だ? あの人は息災なのか? どうか教えてほしい、小さき死神よ」



「いや、あなたに小さいとか言われる筋合いはないんですけどね! それと残念なお話ですけれど、貴方の飼い主はもってあと一日といったところですわ」



「なんと! そこまで健康を害していたというのか!?」

そう言うと、猫は何やら神妙な面持ちでしばらく考え込んでいた。そして意を決したかのようにこう言った。



「では死神よ、私の命をくれてやる! くれてやるから代わりにあの人を助けてやってはもらえまいか?」



「そんなこと出来るわけありませんわ! それにもし出来たとしても、その……」

そこでジュンは言い淀んだ。

すると猫が…



「儂の寿命も残り少ない、そう言いたいのだな?」



「そ、そうですわ… 知ってらしたのかしら?」



「ああ、自分の事だからな。では重ねて問う。一週間! 一週間で良い! あの人の寿命を延ばしてやってはくれまいか!?」



「無理ですわ、そんなこと! そもそもあの人自身がこれ以上生きることを望んでいませんの。 そんな人に延命の魔法なんて効きませんわ」



「そうか、あの人がそんなことを………」

猫は深いため息をつきながら目を閉じた。



「あの、どうして一週間なのかしら? 一応教えて下さる?」



「そうだな、一週間… 一週間もすれば桜が咲く。私はあの人に最後に満開の桜を見せてやりたいんだよ……」



「桜? なぜ桜なのかしら?」



「なぜかと問われれば、儂にもなぜだか解らぬ。ただ桜には何か大切な思い出があったような気がするのだ。あの人に桜を見てもらいたい、そう思える何かが……」



「なんか貴方、人間みたいなこと仰るのね? (わたくし)にはよくわかりませんわ」



「死神に人の情緒は理解できぬか? ならばこれ以上は言っても詮無き事かもな………」

そう言った猫はどことなく寂しげな表情を浮かべていた。



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