死神ジュンの葛藤 第2話

文字数 916文字

ジュンが死神レーダーを頼りに、辿り着いたのは大きな病院だった。

もうすぐ死ぬ反応が出ていたのはその病院の一室からだった。

そこにはどことなく気品を感じさせる老婦人が寝かされていた。



ベッドの周りには親族と思われる者たちが立っていて…
病院代や葬式代はどうするだの…
財産分与をどうするだの…
墓は誰が建てるだの…
そんなことを皆口々に話していた。



「まだ死んでもいないというのに、人という生き物はなんて自分勝手で浅ましい生き物なのかしら!」

ジュンは思わず一人ごちた。
すると…



「良いんですよ、私が皆の厄介になってきたのは事実なんですから」



という声が聞こえてきた。

声の主は老婦人だった。



通常、人間は死神を見ることは出来ないが、稀に死を間近に迎えた者は、死神ジュンのような超常の者を見ることが出来るようになることもある。

別段珍しいことでもないので、ジュンは老婦人に向き直って訊ねた。



「さっきから聞いていれば誰もあなたの心配をしていませんわ。あなたはそれでも構わないと仰るの?」



「ですからね、天使さん。私は早くあの世に召されて、もう誰の迷惑にもならないで過ごせるようになりたいんですよ」



「誰かの手を煩わせるくらいなら、さっさと死にたいってことかしら? てか、(わたくし)は天使なんかじゃありませんわ! (わたくし)は死神ですの! そこんとこお間違えにならないで頂けるかしら!」



「あら? ごめんなさいね小さな死神さん。あなたは私をお迎えにきてくれたのでしょ? だったら早く私をあの世に連れて行って下さいな」



「言われなくてもそうしますわ! あなたの命はあと一日かそこらってとこでしょうから、そのあとで」



「あらまぁ、まだ一日あるの? じゃあ最後に一つだけ頼まれ事して下さるかしら、死神さん?」



「死神をパシらそうとか、全く良い度胸をしていらっしゃるわね? で、何かしら? 聞くだけは聞いて差し上げますわ」



「あのね、私が一人で住んでた家に猫がいたんだけど、私がこうなってから誰も世話してくれてないと思うのね。それだけが心配でね。ねぇ死神さん? ちょっと私の家まで行って、猫の様子を見てきてくれないかしら?」



「はぁ、猫? 四本足でニャーと鳴く、あの猫?」



「そう、四本足でニャーと鳴く猫よ」


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