死神ジュンの葛藤 第1話

文字数 762文字

『お…お加代… し…死ぬ前に、せめて…お前の花嫁姿…だけは見た…かった……』

ガクッ………

『お父っつぁん死なないで!お父っつぁああん!』



今日の『暴れん坊上様』は、娘思いの父親が娘の結婚資金を稼ぐために、一夜限りの泥棒家業に戻るものの、仲間に騙されて金を横取りされた挙げ句、口封じのため殺される…というストーリーだ。
実は裏で糸を引いているのは悪代官と悪徳商人なのだが、ラストでは暴れん坊上様の華麗な裁きで全ての悪は滅びる。



「はぁ、 美しいですわぁ!」

などと、うっとりしながら夕方の暴れん坊上様(再放送)を観ているのはジュン…
これでもれっきとした死神である。



ジュンは時代劇が大好きだった。
何よりも一見ワンパターンに思える時代劇の『予定調和』を美しいと感じていた。



暴れん坊上様の『成敗!!

御老公世直し旅の『印籠』

遊び人金さんの『桜吹雪』

これらは全て予定調和だ。



物事は全てあるべき方向に流れ、また収まるべき方向へと終息する。

万物はかくあるべきだとジュンは考えていた。



それはジュンの仕事っぷりにも如実に現れていた。



ミミズだって…
オケラだって…
アメンボだって…

刈り取れる魂は全て刈り取る。



例外などあり得ない。

生きとし生けるもの全てに死は訪れる。

死んだ肉体から魂を刈り取り、冥界に持ち帰る。



単純だが明快…
実に美しいシステムだ。



ジュンはそんな死神の仕事に誇りと、人間でいうところのやりがいのようなものさえ感じていたのだった。



「おや、どこかで誰かが死にそうですね?」



どうやらジュンの『死神レーダー』に反応があったようだ。



ジュンが小さく呪文詠唱すると、いつものジャージ姿から死神の装束へ一瞬にしてコスプレ…もとい変化(へんげ)した。

普通の人間にはこの姿のジュンを見ることは出来ない。



ジュンは窓を開けると、六畳一間の木造アパート(借家)を飛び出して行った。



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