死神ジュンの葛藤 第6話

文字数 698文字

最初に目に飛び込んできたのは光の洪水だった

やがて真っ白な視界に少しずつ色が加わり、一つの景色が浮かび上がる…



それはついぞ15年ほど前…

宅地開発の名のもとに行われた自然破壊により、永遠に失われてしまった景色だった



大昔でもなければ最近でもない…

手を伸ばせば届くようで届かない…

そんな懐かしい景色だった



そこでは春になると怖いくらいの桜が咲き乱れ、辺りを一面桜色に染め上げた


そんな桜色の中心に『あの人』はいた………



そう、ちょうど私が初めてあの人と出会った頃だろうか?

あの人は今よりも少し若く見えた



気が付くと、私自身も若返っていた

まだ全身を産毛に覆われ…
足取りもおぼつかなかったあの頃の私に…



あの人が私に気付いた



「まぁまぁ、玉三郎さんも此処に来ていたの? こっちにいらっしゃい? 一緒にお花見しましょ!」



私は促されるままにあの人の膝の上に乗せられた



思えばこんなことは何年ぶりだろう?



優しい午後の日射しを浴びながら、あの人と私はよく縁側でうたた寝をしたものだ



あの頃は何もかもがキラキラしていて…



桜の花びらはひらひらと舞い落ちて…



こんな満ち足りた幸せな時間がずっと続けばいい…



そう思っていたんだ…



そうか…
『あの人に桜を見せてやりたい』などと死神の小娘に言ったが…



最後にあの人と一緒に花見をしたかったのは、実は私の方だったのかもしれないな



あの人が問いかけてくる…



「玉三郎さんも私と一緒に来る?」



「ああ、もちろんだとも…」



そう、これが私の願い…



あの死神の小娘には、いつか礼を言わねばなるまい…



最後に…



キラキラで…



ひらひらで…



満ち足りた世界を見せてくれてありがとうと…



じゃあ、一足先に失敬させてもらうとするかな………



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