文字数 1,433文字

 「姉さん、この間、ちょっと面白いものを手に入れたんだけど」
 受話器の向こうで女がクスッと笑った。
「何だと思う?」
 シンドウマリコは自室でシャンパングラスを傾けていた。
「何よ美華、もったいぶらないで言いなさいよ」
「姉さんが欲しがってたものよ」
 女が再び笑った。
「何かしら? 私が欲しがってたものって」
「でも姉さんにはあげない。私が欲しかったものでもあるから。それにユウジにもね。姉さんはいつも、私たちが持っていないものをたくさん持ってる。生まれた時からそうだった。ズルイわ、姉さんが太陽だとしたら、私は月。姉さんが光なら、私は影」
「ちょっと美華、酔ってるの? もうやめなさい」
「嘘よ、姉さん。実はね、この前ウチの店の女の子がね、日本の警察にとって大切な情報を記録したカードを持ってたの」
「何なの? その大切な情報って」
「大切なと言うより、ひた隠しにしたい情報かもね。警察の失態を記録したものだから。これがマスコミに流れたら警察の人事、大きく変わるわよ。姉さんとこも困ってたじゃない? 警察の目が厳しいって。ウチもそうだし、ユウジの商売だってそう。だけどこの情報を握っていれば、いざと言う時に警察を黙らせることができる」
「凄いのね、一体どんな情報かしら?」
「実はね、外部に漏れないように警察上層部が動いたようなんだけど、二年前、ある警察独身寮で、一人の警官が首を吊って自殺したの。その警官はイジメを受けていたらしいんだけど、その警官を自殺に追いやった犯人が、実は警察庁の大物の甥っ子で、これが明るみにでるとその大物の首が飛ぶって話よ。その証拠が映像でSDカードに記録されていて、何故か今、私の手元にあるってわけ」
「へえ、凄いじゃないのアンタ。それで、その大物って誰かしら?」
 女が一呼吸おいた。
「警視庁現第五方面本部長、警視長のオニズカイチロウよ」
「本当なんでしょうね? その情報」
「本当よ、私がこの目でSDカードを再生して確認したから」
「第五方面って言ったら池袋方面よね、アンタのところもドンピシャじゃない」
「まあね、これ以上の面白いネタはないわ。池袋署が私の思い通りに動くのが目に見えるもの。姉さんやユウジの商売にだって圧力かけることだってできるのよ。だって私、警察の首根っこ掴んでるんですもの」
「悪い子ね、オニズカイチロウって言ったら、近い将来警視総監って噂されるほどの大物。これでオニズカ警視長も終わりね」
 シンドウマリコが鼻を鳴らした。
「ところで姉さんの商売は順調のようね、最近はテレビで姉さんとこの女優を見ない日はないもの」
「美華ちゃん、これもアンタのおかげよ。アンタのところから女の子いただくようになってからだもの。近頃はDVDが売れない時代になったじゃない? やっぱり女優も売り方考えないとね。私たち姉妹と弟のユウジとで手を組めば恐いもの無しよ。アンタが女の子を見つけてきて、私が世間に売り出す。そして人気が落ちてきたらユウジの店で働かせる。女なんて所詮は使い捨ての道具なのだからね、ましてや芸能人になりたがる女なんて掃いて捨てるほどいるのだから」
 シンドウマリコが笑った。
「姉さんって恐い人ね、つくづくそう思うわ。ユウジも昔からそう言ってた。でもね、私は姉さんにはいつも感謝しているのよ。子供の頃に受けた傷をずっと姉さんに癒してもらってきたんですもの。だから姉さんがどんなに酷いことをしたって、受け入れることができる。私には姉さんしかいないのだから」
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