第1話 着物を着た少女
文字数 6,511文字
今日は驚いたことに早い時間に目が覚めた。朝からゆっくりできる、寝起きも自然といい。だがそうこうしているうちに高校に行く時間になった。
時間が過ぎるのが早いな・・・家を出る準備も整っていなかったから急いで支度をした、
せっかく早く起きたのに・・・遅刻しそうだ。階段を降り急いで外に出た。
ザーー
雨の中走らなければいけないのか・・・
「はぁはぁ うっ!」
「いった」
ちょっとした下り道の排水溝の鉄の部分でおもいっきり転んだ。腕が血だらけになりながら起き上がると・・・
「え?」
いつのまにか目の前に知らない少女がいた。少女の髪は黒で短くショートボブのような髪型で、服は白っぽい着物のようなものを身につけていて、傘を持っていなくびしょ濡れだ。
「血だらけじゃないですか!腕見せてください」
と言った少女に自分の腕を差し出すと、少女は手慣れた手つきで応急処置をしていく。
「はい、できました、足元に気をつけてくださいね」
この子やさしい子だな・・・しかし、この時代に着物を着るのは珍しい、それに傘を持っていないのはなんでだろう。
・・・・そうだ、怪我を手当してくれたお礼にこの傘を貸してあげよう。なんならビニール傘だし、あげてもいいか。
「あるがとう!この傘あげるよ!」
「え?ちょっと!」
そう言って俺は雨の中走って行った。
キーンコーンカーンコーン
昼休みになった。いつもどおり友達と昼ごはんを食べる。
「また遅刻したんか?これで何回目なんだよー」
友達は笑っている。
「いうてそんなに遅刻してないよーてか、来るとき派手に転んでさー」
「そうだよなーめっちゃ汚れているもんね。登校してる間にこんなに怪我するやついるか?まぁ大したことなくてよかったよ」
自分はかなり足を擦りむいた。今になってかなり痛みが出てきた。
ちなみに、俺といつも昼に一緒にご飯食べてくれる友人は山内圭といって、高校からの友達だ。
「いやーあの女の子に手当されてなかったら・・・あ、そうそう、ここら辺で古い着物?みたいのを着ている小さい女の子を見かけなかったか?」
「そのような女の子は見かけなかったけどなぁ、というか今の時代に着物を着ているなんて珍しいな」
「確かに、今になって考えると珍しいな、その女の子に怪我の手当てしてもらってさ」
「へー優しい子だなー、その子がまだ着物着てるなら目立つからまた会えるかもな」
「そうだな」
自分が住んでいる場所が少し田舎だから、遠くに行っていない限りはまた会えるかもしれない。
キーンコーンカーンコーン
放課後、いつも友達と帰るのだが、今日転んで制服が汚れたから早めにクリーニングを出さなければいけないので一人で早めに学校を出た。
登校の道と同じ道を歩く。今日はかなり雨が降っていて少し肌寒い。
あれ、着物着ている子がいる・・あの時の子だよね、にしてもなんで小屋の下で体育座りしているんだ?
少女はびしょ濡れな格好で、暗い顔をしていた。
「こんにちは、あの時手当てしてくれた子だよね?」
「あ、今朝の人!」
話しかけた途端少女は少しほっとしたような表情をしている。
「あの時は助かったよ、ありがとう」
「いえいえ、当たり前のことをしたまでです」
「ところでなんでこんな所に居るの?」
「ちょっといろいろあって・・」
「・・・・・」
なんか訳ありっぽいな。
「よかったら話聞くよ、朝の事の恩返ししたいし」
「ありがとうございます・・・でも・・こんな事を言っても信じないかもしれませんけど、私どうやら知らないところに来てしまったようです・・」
「それはどういう・・」
「というか全く知らない世界に来てしまったような・・周りの景色も人々の服装も私がいた所とはまったく違いますし・・・」
何を言っているんだこの子はと言いたい所だが、着物はコスプレっぽくないし、確かに違う世界あるいは過去の時代から来ている可能性もあるような気がする、アニメの見過ぎかもしれないけど。でもただの着物を普段着る迷子の可能性もあるしなぁ。
「とりあえず、もともといた場所の地名を教えてほしいな」
「私がいた所は三崎という場所です」
三崎か、案外ここから近いな。ということは異世界から来たという訳じゃないのか。
「ここは神奈川県だけど三浦市じゃなくて横須賀市だよ」
「!・・場所変わっている・・・・でも私がいた場所から移動しているとしても、ほとんど見たことないものばっかり・・・」
こうなるとタイムスリップしてきた人間の可能性があるかもしれない。
もう空は暗くなってきている。そろそろ帰らないとまずい、このまま話しているわけにはいけない。だが、この子はどうする?この子には行くあてがないのだろう、少女を濡れた格好で夜遅くまで一人にさせるのは可哀想だ。交番に連れていこうか・・・でもそれはちょっと可哀想かな・・・・
だとしても俺にどうにかできるかは微妙だ。どうすればいいんだ?
知り合いや友達はいつも忙しいから泊めてもらうように頼むわけはいけない。とりあえずうちに泊めさせるか?
「行くあてないんだよね?」
「はい・・」
「ちょっとまってて」
泊めさせるなら母親に連絡しないといけない。友達を泊める程にしとこう、今日友達泊めたいのだけどいいかな?と、ルインでメッセージを送った。少女を泊めると言ってもいいのだが誤解を生みそうだからやめた。母親が帰ってきた時にちゃんと説明しよう。ちなみに母親は仕事で大体は家に居なく、父親は単身赴任で家には居ない。
ピコーン 連絡が返ってきた、「「いいよ」」許可が降りた。
「暗くなってきたし、俺の家でよかったら・・」
「え、そんな・・迷惑かけられないですよ、そこらへんで野宿しますから大丈夫です」
「野宿なんてさせられないよ!平気、うちの家族は許してくれたから、まぁ今日俺一人しか居ないんだけど・・それでいいなら・・・もちろん何もしないよ!」
「・・・それではお言葉に甘えて」
少女は泣きそうになっていた。
家に帰るために今朝転んだ坂を上がっていく。雨はすっかり止んで、かなり暗くなっていてコオロギの鳴き声がしている。
ガラガラガラ
「どうぞ」
「お邪魔します」
「今日はさっき言った通り、俺一人で親が帰って来なくて、俺が家事をする。だから夜ご飯は少し待ってて。あと、お風呂は今沸かすから」
「ご飯とお風呂まで用意してくれるのですね・・・何かお手伝い出来ることはありますか?」
「あとでご飯ができたら運んでくれるだけでいいよ。とりあえずここの居間にいて。お風呂沸かして、タオル持ってくるから」
「わかりました」
少女は少し困惑気味な表情で言った。
「あーそれと、何か困ったことがあったら遠慮なく言っていいから」
「わかりました」
雨で濡れた少女のためにお風呂を沸かし、タオルを持っていった。
「このタオル使って」
「わかりました」
少女はタオルを手に取った。
「やわらかい・・・」
ぼそっと少女は言った。
「そうかな、普通のタオルだけど」
「肌触りがいいです」
「それならよかった」
やっぱり変わった子だ。少女はタオルで濡れた髪や体を軽く拭いた。
「そうだ、母親が明日の朝久しぶりに帰ってくるから、挨拶よろしくね。君のことは家出した子で、とりあえずうちに泊まらせているということにしているから、うまく俺に話合わせてね」
さっきお母さんから連絡がきて、急に帰ってくるらしい。このまま友達として突き通すのは厳しそうなので、家出した子を一時的に泊めていることにしよう。
「わかりました」
真剣に少女は答えた。
正直ものすごく緊張している、幼いとはいえ初めて女の子と二人で一つ屋根の下で夜を過ごすのだ。ちなみに今日の夜ご飯は餃子とシャケだ。
まず着替えるために二階にある自分の部屋に行った。そして制服を脱ぎ・・・あ、クリーニング出すのを忘れてた・・・
ものすごく汚れたままの制服だ。明日の朝クリーニング出そう。
お風呂が沸きました・・・
お風呂が沸いた音楽が鳴り、少女はビクッとした。
「沸いたから、お風呂入っていいよ。そこ曲がった所にあるから」
「わかりました」
寝巻きに着替えた後、すぐに下に降りて料理を始めた。献立は白米に味噌汁、餃子だ。
「すみませーん」
「はーい」
少女がお風呂場に行って、五分も経たないうちに呼ばれた。
「ここですよね?ここの扉どうやって開けるのですか?」
????どういうことだ?扉の開け方がわからない?この一般的な風呂の扉なのに・・・
俺は風呂のドアを開けた。
ガチャン
「こう押せばひらくよ」
「!!!!」
少女のお口はポカンと開いている。
「閉じるときはこう引いて・・・」
ガチャン
「変わった扉ですね・・・」
少女がお風呂に入り始めてから数十分たった頃、脱衣所の方からまた声が聞こえたので、自分は火を止め、脱衣所に向かった。
「どうしたの?」
「すみません、体を拭くものって・・さっきのタオルは・・・」
「あーごめんごめん、さっきのタオルじゃなくて、新しいタオルを用意するよ。入っていい?」
「いいですよ」
ガラガラガラ
扉を開けた。
「うぉっ」
そこには浴室のドアから顔だけ出した少女の姿があった。浴室の中にいて扉は完全に閉じていると思ったら、顔だけ出していて少しドキッとした。
脱衣所の棚からバスタオルを取り出した。
「ここ置いておくね」
「ありがとうございます」
「あーあと着替えが欲しいよね、ごめん少しだけ待ってて」
母親の服を着てもらおうと思ったが、サイズが合わなそうなので、とりあえず俺のティーシャツと中学校の時のジャージを着てもらうことにした。あ、下着はどうしたものか・・・俺のパンツか?・・・
俺は服一式を持って脱衣所にまた入った。
「着替え持ってきたんだけど、俺が中学の時着てたジャージとティーシャツと、下着は俺が前履いていたパンツで、今のところサイズが合いそうな服がこれらしかなくて・・・それでもいいかな?もちろん洗ってあるけど・・・」
「・・・・・」
少女からの返事が返ってこない。そりゃそうだろうな。嫌だよな・・・
「いいですけど、その服って私でも着れます?」
「ん?着れると思うけど・・・」
「そうですか、そうならありがたく着させてもらいます」
???どうゆうことだ?嫌というわけじゃないのか?
数分後・・・
少女が脱衣所から出た時には料理は作り終えた。餃子は冷凍のものを使ったので、簡単だった。
「ご飯できたから、居間に運んで」
「はい」
ん?まだこの子の髪の毛濡れてるな・・・ドライヤーも使ってよかったのに・・・
「結構髪の毛まだ濡れてるね」
「そうですか?結構水分は取ったのですが」
「ちょっと待ってて」
「はい」
俺は脱衣室からドライヤーを取ってきた。
「このドライヤー使っていいよ。コンセントはそこにある」
「どらいあ?こんせんと?」
少女は首を傾げた。
「え、ドライヤー知らないの!?」
「知らないです」
まじか。本当に異世界か違う時代から来た人なんじゃないか?
「ドライヤーっていうのはね・・・」
俺はドライヤーのプラグをコンセントに挿して、ドライヤーのスイッチを入れた。
ウイーン!!
「!!!」
少女はドライヤーの音にびっくりしている。俺は少女の髪にドライヤーをあてた。
「あったかい・・・」
「ドライヤーはあったかい風を起こして、すぐに髪を乾かせるんだよ」
ドライヤーの音に俺の声が負けないように少し大きな声で言った。
ウウン
一分くらいで乾かし終えた。
「ありがとうございます。こんな便利なものがあるんですね・・・」
「今の時代にドライヤーを知らない人なんていないと思ってたよ・・・」
「ドライヤーっていつからあるんですか?」
「相当前からあると思うよー昭和とかじゃない?」
「昭和?そんな時代ありませんよ?」
「え?ないって・・あったって聞いたけどな・・・」
この話かなり長くなりそうだ・・・
「とりあえずご飯食べてからにしようか」
「わかりました」
少女は居間の白テーブルに皿を並べた。その後、少女は椅子に正座で座った。
「え、正座はしなくてもいいよ」
「そうなのですか?正座するのが習慣なので正座してしまうのですよ」
「そうなんだ、椅子だからその上に正座は少しおかしい気がするけど、まぁ自由にしていいよ」
「わかりました」
「じゃあ、いただきます」
「いただきます・・・・この白いのはなんですか?」
え?餃子も知らないのか?
「それは餃子と言って、小麦粉で作った皮で細かく刻んだ肉とキャベツを包んで焼いたものだよ。」
「初めて見た料理ですね・・・・」
少女は餃子をゆっくり口に運んだ。
「・・・・美味しい!初めて食べた味です!しかも白米まで用意してくださるなんて・・・」
「流石に白米くらいは用意するよ」
俺は笑いながら言った。
「食べ終わったら聞きたいことあるんだ、いいかな?」
「いいですよ」
この子は餃子を知らない、それにドライヤーも知らない。正座するのが習慣というのもひと昔の人みたいだ、やはりこの子はこの時代、あるいはこの世界の人ではないのだろう。
しかしこの子は美味しそうに食べるなーいい笑顔だ。
「ごちそうさまでした、おいしかったです」
「それはよかった、じゃあ聞きたいことは、まず今の年、年号はなにかな?」
とりあえず年号聞くことが手っ取り早いだろう。
「明治十六年ですけど?」
明治!?・・・明治って昭和、大正、明治の明治だよな・・・違う世界というより過去から来た子なのか・・・
「今は令和四年。明治は過去の時代だよ」
「!!!!・・・・・・」
少女はひどく動揺している。
「タイムスリップしてきたのか・・・」
「・・・・たいむすりっぷってなんですか?」
「タイムスリップっていうのは過去や未来に移動してしまう現象のことをいうよ」
「たいむすりっぷ・・・・ここは未来なのですね・・・」
「そういうことになるね」
この時代の人でないと予想していたが、心のどこかでは冗談ではないかと思っていた。
だが今、この子の表情を見て確信に変わった、正直自分も動揺している。なぜこの時代に来られたのか、なぜタイムスリップしてきた場所がここなのか、いろいろ疑問があるが、もう夜も遅いしこの子の顔色が悪い、この話は明日にしよう。
「とりあえず疲れているだろうし、この話は明日にしようか」
「そうですね・・・」
「もう寝る?」
「はい、もう寝ようと思います」
「わかった、あそこの部屋に布団ひいといたからそこで寝ていいよ」
「ありがとうございます」
その後、自分は風呂に入った。そして少女が着ていた着物を外に干した。今は夜で乾かないだろうが干さないよりマシだろう。
「じゃあ俺は上の階の部屋で寝るから。まぁなんかあったら起こして」
「わかりました、おやすみなさい」
「おやすみ」
少女の服どうしようかな・・・早めに買いに行くか。少女についていろんなことをベッドで横になりながら考えていて、その夜はとても静かだったが自分の心は落ち着かなかった。
時間が過ぎるのが早いな・・・家を出る準備も整っていなかったから急いで支度をした、
せっかく早く起きたのに・・・遅刻しそうだ。階段を降り急いで外に出た。
ザーー
雨の中走らなければいけないのか・・・
「はぁはぁ うっ!」
「いった」
ちょっとした下り道の排水溝の鉄の部分でおもいっきり転んだ。腕が血だらけになりながら起き上がると・・・
「え?」
いつのまにか目の前に知らない少女がいた。少女の髪は黒で短くショートボブのような髪型で、服は白っぽい着物のようなものを身につけていて、傘を持っていなくびしょ濡れだ。
「血だらけじゃないですか!腕見せてください」
と言った少女に自分の腕を差し出すと、少女は手慣れた手つきで応急処置をしていく。
「はい、できました、足元に気をつけてくださいね」
この子やさしい子だな・・・しかし、この時代に着物を着るのは珍しい、それに傘を持っていないのはなんでだろう。
・・・・そうだ、怪我を手当してくれたお礼にこの傘を貸してあげよう。なんならビニール傘だし、あげてもいいか。
「あるがとう!この傘あげるよ!」
「え?ちょっと!」
そう言って俺は雨の中走って行った。
キーンコーンカーンコーン
昼休みになった。いつもどおり友達と昼ごはんを食べる。
「また遅刻したんか?これで何回目なんだよー」
友達は笑っている。
「いうてそんなに遅刻してないよーてか、来るとき派手に転んでさー」
「そうだよなーめっちゃ汚れているもんね。登校してる間にこんなに怪我するやついるか?まぁ大したことなくてよかったよ」
自分はかなり足を擦りむいた。今になってかなり痛みが出てきた。
ちなみに、俺といつも昼に一緒にご飯食べてくれる友人は山内圭といって、高校からの友達だ。
「いやーあの女の子に手当されてなかったら・・・あ、そうそう、ここら辺で古い着物?みたいのを着ている小さい女の子を見かけなかったか?」
「そのような女の子は見かけなかったけどなぁ、というか今の時代に着物を着ているなんて珍しいな」
「確かに、今になって考えると珍しいな、その女の子に怪我の手当てしてもらってさ」
「へー優しい子だなー、その子がまだ着物着てるなら目立つからまた会えるかもな」
「そうだな」
自分が住んでいる場所が少し田舎だから、遠くに行っていない限りはまた会えるかもしれない。
キーンコーンカーンコーン
放課後、いつも友達と帰るのだが、今日転んで制服が汚れたから早めにクリーニングを出さなければいけないので一人で早めに学校を出た。
登校の道と同じ道を歩く。今日はかなり雨が降っていて少し肌寒い。
あれ、着物着ている子がいる・・あの時の子だよね、にしてもなんで小屋の下で体育座りしているんだ?
少女はびしょ濡れな格好で、暗い顔をしていた。
「こんにちは、あの時手当てしてくれた子だよね?」
「あ、今朝の人!」
話しかけた途端少女は少しほっとしたような表情をしている。
「あの時は助かったよ、ありがとう」
「いえいえ、当たり前のことをしたまでです」
「ところでなんでこんな所に居るの?」
「ちょっといろいろあって・・」
「・・・・・」
なんか訳ありっぽいな。
「よかったら話聞くよ、朝の事の恩返ししたいし」
「ありがとうございます・・・でも・・こんな事を言っても信じないかもしれませんけど、私どうやら知らないところに来てしまったようです・・」
「それはどういう・・」
「というか全く知らない世界に来てしまったような・・周りの景色も人々の服装も私がいた所とはまったく違いますし・・・」
何を言っているんだこの子はと言いたい所だが、着物はコスプレっぽくないし、確かに違う世界あるいは過去の時代から来ている可能性もあるような気がする、アニメの見過ぎかもしれないけど。でもただの着物を普段着る迷子の可能性もあるしなぁ。
「とりあえず、もともといた場所の地名を教えてほしいな」
「私がいた所は三崎という場所です」
三崎か、案外ここから近いな。ということは異世界から来たという訳じゃないのか。
「ここは神奈川県だけど三浦市じゃなくて横須賀市だよ」
「!・・場所変わっている・・・・でも私がいた場所から移動しているとしても、ほとんど見たことないものばっかり・・・」
こうなるとタイムスリップしてきた人間の可能性があるかもしれない。
もう空は暗くなってきている。そろそろ帰らないとまずい、このまま話しているわけにはいけない。だが、この子はどうする?この子には行くあてがないのだろう、少女を濡れた格好で夜遅くまで一人にさせるのは可哀想だ。交番に連れていこうか・・・でもそれはちょっと可哀想かな・・・・
だとしても俺にどうにかできるかは微妙だ。どうすればいいんだ?
知り合いや友達はいつも忙しいから泊めてもらうように頼むわけはいけない。とりあえずうちに泊めさせるか?
「行くあてないんだよね?」
「はい・・」
「ちょっとまってて」
泊めさせるなら母親に連絡しないといけない。友達を泊める程にしとこう、今日友達泊めたいのだけどいいかな?と、ルインでメッセージを送った。少女を泊めると言ってもいいのだが誤解を生みそうだからやめた。母親が帰ってきた時にちゃんと説明しよう。ちなみに母親は仕事で大体は家に居なく、父親は単身赴任で家には居ない。
ピコーン 連絡が返ってきた、「「いいよ」」許可が降りた。
「暗くなってきたし、俺の家でよかったら・・」
「え、そんな・・迷惑かけられないですよ、そこらへんで野宿しますから大丈夫です」
「野宿なんてさせられないよ!平気、うちの家族は許してくれたから、まぁ今日俺一人しか居ないんだけど・・それでいいなら・・・もちろん何もしないよ!」
「・・・それではお言葉に甘えて」
少女は泣きそうになっていた。
家に帰るために今朝転んだ坂を上がっていく。雨はすっかり止んで、かなり暗くなっていてコオロギの鳴き声がしている。
ガラガラガラ
「どうぞ」
「お邪魔します」
「今日はさっき言った通り、俺一人で親が帰って来なくて、俺が家事をする。だから夜ご飯は少し待ってて。あと、お風呂は今沸かすから」
「ご飯とお風呂まで用意してくれるのですね・・・何かお手伝い出来ることはありますか?」
「あとでご飯ができたら運んでくれるだけでいいよ。とりあえずここの居間にいて。お風呂沸かして、タオル持ってくるから」
「わかりました」
少女は少し困惑気味な表情で言った。
「あーそれと、何か困ったことがあったら遠慮なく言っていいから」
「わかりました」
雨で濡れた少女のためにお風呂を沸かし、タオルを持っていった。
「このタオル使って」
「わかりました」
少女はタオルを手に取った。
「やわらかい・・・」
ぼそっと少女は言った。
「そうかな、普通のタオルだけど」
「肌触りがいいです」
「それならよかった」
やっぱり変わった子だ。少女はタオルで濡れた髪や体を軽く拭いた。
「そうだ、母親が明日の朝久しぶりに帰ってくるから、挨拶よろしくね。君のことは家出した子で、とりあえずうちに泊まらせているということにしているから、うまく俺に話合わせてね」
さっきお母さんから連絡がきて、急に帰ってくるらしい。このまま友達として突き通すのは厳しそうなので、家出した子を一時的に泊めていることにしよう。
「わかりました」
真剣に少女は答えた。
正直ものすごく緊張している、幼いとはいえ初めて女の子と二人で一つ屋根の下で夜を過ごすのだ。ちなみに今日の夜ご飯は餃子とシャケだ。
まず着替えるために二階にある自分の部屋に行った。そして制服を脱ぎ・・・あ、クリーニング出すのを忘れてた・・・
ものすごく汚れたままの制服だ。明日の朝クリーニング出そう。
お風呂が沸きました・・・
お風呂が沸いた音楽が鳴り、少女はビクッとした。
「沸いたから、お風呂入っていいよ。そこ曲がった所にあるから」
「わかりました」
寝巻きに着替えた後、すぐに下に降りて料理を始めた。献立は白米に味噌汁、餃子だ。
「すみませーん」
「はーい」
少女がお風呂場に行って、五分も経たないうちに呼ばれた。
「ここですよね?ここの扉どうやって開けるのですか?」
????どういうことだ?扉の開け方がわからない?この一般的な風呂の扉なのに・・・
俺は風呂のドアを開けた。
ガチャン
「こう押せばひらくよ」
「!!!!」
少女のお口はポカンと開いている。
「閉じるときはこう引いて・・・」
ガチャン
「変わった扉ですね・・・」
少女がお風呂に入り始めてから数十分たった頃、脱衣所の方からまた声が聞こえたので、自分は火を止め、脱衣所に向かった。
「どうしたの?」
「すみません、体を拭くものって・・さっきのタオルは・・・」
「あーごめんごめん、さっきのタオルじゃなくて、新しいタオルを用意するよ。入っていい?」
「いいですよ」
ガラガラガラ
扉を開けた。
「うぉっ」
そこには浴室のドアから顔だけ出した少女の姿があった。浴室の中にいて扉は完全に閉じていると思ったら、顔だけ出していて少しドキッとした。
脱衣所の棚からバスタオルを取り出した。
「ここ置いておくね」
「ありがとうございます」
「あーあと着替えが欲しいよね、ごめん少しだけ待ってて」
母親の服を着てもらおうと思ったが、サイズが合わなそうなので、とりあえず俺のティーシャツと中学校の時のジャージを着てもらうことにした。あ、下着はどうしたものか・・・俺のパンツか?・・・
俺は服一式を持って脱衣所にまた入った。
「着替え持ってきたんだけど、俺が中学の時着てたジャージとティーシャツと、下着は俺が前履いていたパンツで、今のところサイズが合いそうな服がこれらしかなくて・・・それでもいいかな?もちろん洗ってあるけど・・・」
「・・・・・」
少女からの返事が返ってこない。そりゃそうだろうな。嫌だよな・・・
「いいですけど、その服って私でも着れます?」
「ん?着れると思うけど・・・」
「そうですか、そうならありがたく着させてもらいます」
???どうゆうことだ?嫌というわけじゃないのか?
数分後・・・
少女が脱衣所から出た時には料理は作り終えた。餃子は冷凍のものを使ったので、簡単だった。
「ご飯できたから、居間に運んで」
「はい」
ん?まだこの子の髪の毛濡れてるな・・・ドライヤーも使ってよかったのに・・・
「結構髪の毛まだ濡れてるね」
「そうですか?結構水分は取ったのですが」
「ちょっと待ってて」
「はい」
俺は脱衣室からドライヤーを取ってきた。
「このドライヤー使っていいよ。コンセントはそこにある」
「どらいあ?こんせんと?」
少女は首を傾げた。
「え、ドライヤー知らないの!?」
「知らないです」
まじか。本当に異世界か違う時代から来た人なんじゃないか?
「ドライヤーっていうのはね・・・」
俺はドライヤーのプラグをコンセントに挿して、ドライヤーのスイッチを入れた。
ウイーン!!
「!!!」
少女はドライヤーの音にびっくりしている。俺は少女の髪にドライヤーをあてた。
「あったかい・・・」
「ドライヤーはあったかい風を起こして、すぐに髪を乾かせるんだよ」
ドライヤーの音に俺の声が負けないように少し大きな声で言った。
ウウン
一分くらいで乾かし終えた。
「ありがとうございます。こんな便利なものがあるんですね・・・」
「今の時代にドライヤーを知らない人なんていないと思ってたよ・・・」
「ドライヤーっていつからあるんですか?」
「相当前からあると思うよー昭和とかじゃない?」
「昭和?そんな時代ありませんよ?」
「え?ないって・・あったって聞いたけどな・・・」
この話かなり長くなりそうだ・・・
「とりあえずご飯食べてからにしようか」
「わかりました」
少女は居間の白テーブルに皿を並べた。その後、少女は椅子に正座で座った。
「え、正座はしなくてもいいよ」
「そうなのですか?正座するのが習慣なので正座してしまうのですよ」
「そうなんだ、椅子だからその上に正座は少しおかしい気がするけど、まぁ自由にしていいよ」
「わかりました」
「じゃあ、いただきます」
「いただきます・・・・この白いのはなんですか?」
え?餃子も知らないのか?
「それは餃子と言って、小麦粉で作った皮で細かく刻んだ肉とキャベツを包んで焼いたものだよ。」
「初めて見た料理ですね・・・・」
少女は餃子をゆっくり口に運んだ。
「・・・・美味しい!初めて食べた味です!しかも白米まで用意してくださるなんて・・・」
「流石に白米くらいは用意するよ」
俺は笑いながら言った。
「食べ終わったら聞きたいことあるんだ、いいかな?」
「いいですよ」
この子は餃子を知らない、それにドライヤーも知らない。正座するのが習慣というのもひと昔の人みたいだ、やはりこの子はこの時代、あるいはこの世界の人ではないのだろう。
しかしこの子は美味しそうに食べるなーいい笑顔だ。
「ごちそうさまでした、おいしかったです」
「それはよかった、じゃあ聞きたいことは、まず今の年、年号はなにかな?」
とりあえず年号聞くことが手っ取り早いだろう。
「明治十六年ですけど?」
明治!?・・・明治って昭和、大正、明治の明治だよな・・・違う世界というより過去から来た子なのか・・・
「今は令和四年。明治は過去の時代だよ」
「!!!!・・・・・・」
少女はひどく動揺している。
「タイムスリップしてきたのか・・・」
「・・・・たいむすりっぷってなんですか?」
「タイムスリップっていうのは過去や未来に移動してしまう現象のことをいうよ」
「たいむすりっぷ・・・・ここは未来なのですね・・・」
「そういうことになるね」
この時代の人でないと予想していたが、心のどこかでは冗談ではないかと思っていた。
だが今、この子の表情を見て確信に変わった、正直自分も動揺している。なぜこの時代に来られたのか、なぜタイムスリップしてきた場所がここなのか、いろいろ疑問があるが、もう夜も遅いしこの子の顔色が悪い、この話は明日にしよう。
「とりあえず疲れているだろうし、この話は明日にしようか」
「そうですね・・・」
「もう寝る?」
「はい、もう寝ようと思います」
「わかった、あそこの部屋に布団ひいといたからそこで寝ていいよ」
「ありがとうございます」
その後、自分は風呂に入った。そして少女が着ていた着物を外に干した。今は夜で乾かないだろうが干さないよりマシだろう。
「じゃあ俺は上の階の部屋で寝るから。まぁなんかあったら起こして」
「わかりました、おやすみなさい」
「おやすみ」
少女の服どうしようかな・・・早めに買いに行くか。少女についていろんなことをベッドで横になりながら考えていて、その夜はとても静かだったが自分の心は落ち着かなかった。