第3話 幼馴染

文字数 12,762文字

 翌日 
 もう六月の最後の週でもうすぐ夏休みだ。最近までは雨はよく降っていたが、今日は晴れだ。今日もいつもどおり学校に行く。学校に着き、教室に入ると教室内はいつも通り賑わっていた。
「おはよう」
 山内が話しかけて来た。
「おはよう!最近は遅刻しないな!」
「まぁね、ここ最近はよく眠れてるからな」
「今日の放課後は空いているか?」
「空いてるよ」
「久しぶりに一緒にゲームでもするか、てか最近忙しそうだったけどなにかしてたのか?」
「家の用事でな」
「そうか、いや、そんなこと言って本当は彼女でも作って遊んでるんじゃないか?笑」
「俺に限ってそんなことがあると思うか?」
「ない・・か」
「なんか悲しいな」
「あはは・・」

 キーンコーンカーンコーン
 昼休みになった。ん?何か視線を感じるな・・
 振り返ってみると廊下から教室を覗いている女の子がいる。この女の子は黒髪のポニーテイルの髪型をしている。名前は相澤杏果といい俺の家の近所に住んでいて、幼馴染だ。
「どうした?そんなとこ居て」
「ちょっと来なさい!」
「お、おう」
 なんだかよくわからないが呼び出され、屋上に続く階段付近に連れられた。
 そういえば杏果と話すのは久しぶりだな・・
「最近何かあったでしょ」
 杏果は威圧的に言った。
「いや、特に・・」
「私、女の子と一緒に住んでいるのを知っているよ!近所の人の噂になっているもん」
「いや、あれは・・」
 他の近所にも何も言ってなかったし、まわりに怪しまれてもしょうがないよな・・何て説明しようかな・・・
「あの子はなによ」
「まぁ人助け?みたいな」
「ちゃんと説明して!」
「わ、わかったよ、信じられないと思うけど・・」
 今まであった事を全部話した。
「信じられない話だね」
「そうだよね・・」
「今日本人に合わせてよ、それから本当かどうか確かめる」
「今日はちょっと・・・」
「・・・・・・」
 杏果は怖い顔をしている。
「・・・わかったよ、今日ね」
 杏果は僕にいつも厳しめだ、でもいつも僕を気にかけてくれる。
 昼ごはんは珍しく杏果と食べた。まだ怒っている様子だったので、杏果は黙って昼ごはんを食べていた。ちなみに圭と放課後遊ぶ約束は、申し訳ないが違う日にしてもらった。
 午後の授業を終え、京香と一緒に家に帰った。
「最近はどうなの」
 杏果は機嫌を直したのか、話しかけてきた。
「どうって?」
「元気なの?」
「うん、元気だよ」
「家帰って何してるの?」
「家事をしたり、ゲームしたり」
「へー」
「ゲームって何のゲームやってるの?」
「fpsとかやってる」
「へー」
「テニスの調子はどう?」
 杏果はテニス部に入っている。
「まぁまぁかなーでもこの前の試合でいいところまで行ったんだよ!」
「おーすごいじゃん!」
「ふふ」
 杏果は照れた顔をしている。
 久しぶりに喋ったから、少しぎこちない会話になった。杏果とは小学生の時によく遊んでいたが、中学に上がってから現在まで一緒に帰る機会も減り、喋る機会も減っていた。そして今久しぶりに喋れて、自分は嬉しい気持ちになっている。
 杏果と話し込んでいたら、いつのまにか家に着いていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
 香織ちゃんが玄関まで来てお出迎えしてくれた。
「そちらの方は・・」
「近所に住んでいる幼馴染だよ」
「相澤杏果です、よろしく」
「赤松香織です、よろしくお願いします」
「さっそくだけど単刀直入に言う、あなた本当は何者?」
 杏果は腕を組みながら圧をかけて言った。
「本当とは?」
 香織ちゃんは困惑している。
「すまん説明不足だった、今日杏果に香織ちゃんのこと聞かれて迫られたものだから、今まであったこと話したんだけど、杏果は香織ちゃんの事信じてなくて」
 俺は慌てて言った。
「なるほど・・わたしは本当に明治時代から来た者です」
「本当?」
「証拠は私が居た鏡心神社に聞けばわかります」
「そうなの?・・・まだ完全には信じられないけど、一応信じてあげる。でも男女二人っきりで住むのは見逃せないよ!?」
「と、言われてもな・・・とりあえず玄関で立ち話はなんだから上がってよ」?
「おじゃまします」
 杏果を客間に通した、客間は畳で座布団に低いテーブルがある。三人はテーブルを囲って座布団に座った。
「俺は香織ちゃんが過去に戻れるように協力してあげたいんだよ」
「でも、二人だけでいるって・・・」
 杏果は納得のいかない様子だ。
「そんなに俺が節操もないやつに見えるか?」
「見えないけど・・・」
「どっちにせよ、香織ちゃんを世話見てくれるところは、今のところないんだから。それか杏果の家で世話見てくれるのか?」
「ごめん、それも考えたけど弟が今年受験するからうちは無理だわ・・・」
「ならもう、うちしかないよ」
 ・・・・・・・・
 シーンとした空気になった。
「わかった!私がこの家で一緒に住んで監視する!」
 杏果は声量を上げて言った。
「え、・・・・・それ本気で言ってるの?どこで寝るの?」
「本気だよ、確か空き部屋あったでしょ?」
「まぁあるけどさ」
「香織ちゃんは杏果と一緒に住んでもいいのか?」
「私は構わないですよ、私は居候の身なので何も言えません」
「いや、嫌なら嫌って言っていいんだよ?」
「嫌じゃないです、湊さんのご友人だとするならばいい人だと思っているので一緒に住んでもいいと思っています」
「そうか」
 杏果がそういうなら・・でも俺の親が許可するかな、いや親は軽く許可を出しそうだ。
「親に杏果のこと聞いてみる」
「お願い」
 杏果は切実そうだ。
 親に電話をかけた、意外とすんなり電話に出てくれて、やはり思った通り許可を出してくれた。親は逆に杏果が居てくれて安心すると言っていた。
 まじかよ・・
「てか生活費はどうすんだよ」
「親からもらう」
「もらうって・・・杏果の親には許可もらっているのか?」
「これからもらう、今電話して許可取る」
「今から!?」
 杏果は親と電話し始めた。
 数分後・・
「許可でたよ、『湊と湊の家族がいいというなら娘をよろしくお願いします。杏果分の生活費は払います』って言ってた」
「まじかよ」
「じゃあ決定ね、よろしく」
「おう・・・」
 杏果と過ごすことを断れば杏果に嫌われそうだし、むしろ二人っきりの方がいいのかとも言われそうだし、まぁ仕方がないか・・・・騒がしくなりそうだな・・・・
「じゃあこの三人で暮らそう」
「やった!!」
 杏果はものすごくうれしそうだ。
「杏果さん、これからよろしくお願いします」
 香織ちゃんは挨拶をした。
「いやこちらこそこれからよろしくお願いします!」
 杏果と香織ちゃんは仲良く暮らしてもらえるだろうか、少し不安だ。
「あした学校終わったら着替えとか持ってくるから運ぶの手伝ってよ」
「明日はバイトだから無理」
 俺はコンビニのバイトをしている。
「じゃあ明後日」
「それなら空いてる」
「部活はどうするんだ?」
「部活は休む」
「そうか、手伝うよ」
「私も手伝います」
「助かるよ!」
 二日後・・・
 今日も晴れで、雲ひとつない青空だ。学校が終わり杏果と一緒に帰ってきて、一旦香織ちゃんを呼んできてから、予定通り荷物運びが始まった。久しぶりに杏果の家に来た。
「綺麗なお屋敷ですね」と香織ちゃんは言った。
「たしかにそうだね」
 一般的な家だと思うが明治時代から比べるとそりゃ綺麗で立派な家だよな。
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
「どうぞー今日はよろしく、今日やることは荷物を車に詰め込んで、湊の家まで私のお母さんに運転してもらって、そして家に荷物を下ろすよ、湊、部屋は覚えているよね?」
「なんとなく」
「先に部屋にある段ボール運んで欲しい」
「わかった」
「香織ちゃんは私と一緒にここにある段ボール運んで欲しいな」
「わかりました」
 もちろん部屋に入るのも久しぶりだ、多分重いものを運ぶことになるだろう。筋肉痛にならなければいいが・・
「あ、そうだクローゼットの中は開けないでね!絶対に!」
「わかったよ」
 なんでクローゼットを開けてはいけないと釘を刺されたのかなぞだ。
 杏果の部屋は2階にある、階段を上がって部屋を開けると段ボールが四つくらい置いてあり、 少し持ち上げてみるとやっぱり相当重い。
 数分経ったくらいで3つの段ボールを車に運んだ。ちなみに相澤家の車は黒のミニバンだ。
 ペラっ
 ん?なんだこれは?
 最後の段ボールを運ぼうとしたら、クローゼットの隙間から俺だけが映った写真が三枚ほど出てきた。なんで俺だけ映っている写真が三枚も出てくるんだ?
 クローゼットの中が気になるのだが、開けたら人として最低だ、我慢しよう・・・
 そして最後の一つを運んだ、香織ちゃんと杏果の作業もちょうど終わったようだ。
「二階の段ボール四つ全部、車に運び終わった?」
「運んだよ」
「ありがとう」
「荷物はこれで全部運び終わったかな、香織ちゃんと湊は先に車に乗ってて、私は一回部屋にいって忘れ物ないか見てくる」
「わかった」
 僕たちは車の後部席に乗った。杏果の母親はまだ乗っていなかった。
「疲れたなー」
「お疲れ様です」
「香織ちゃんは疲れてないの?」
「そこまで疲れてないですね、あまり重たいものも持っていませんし」
「そうか、ならよかった。今日の夜ご飯俺が作るね」
「いや、私が作りますよ」
「交代交代でって約束でしょ?」
「わかりました」
 香織ちゃんは料理するのが好きなのかな・・・それだったらやらせてあげたいけど・・・
 ガチャ
 杏果の母親が車の運転席に乗り込んだ。
「久しぶりね湊くん」
「お久しぶりです」
「杏果から色々聞いててね、その子が香織ちゃんでしょ?」
「はい、そうです」
「はじめまして、赤松香織ですよろしくお願いします。」
「よろしくね」
「随分大変になことになってるね。私が保護してあげたいと思ってたのだけど、忙しくてねーごめんねー」
「いえいえ、その気持ちだけでありがたいです」
 香織ちゃんは謙遜している。
「その代わりにといったらなんだけど、娘が協力するから、まぁ湊くん香織ちゃんには急かもしれないけど、こういうときは助け合ったほうがいいと思うのよねー」
「私は協力してくれる人が増えて本当にありがたいです」
「それならよかった」
 杏果の母親は笑顔でそう言った。
「時間が空いてれば、私も協力できるから何か困ったら言ってね」
「わかりました、ありがとうございます!」
 俺は元気にそう言った。
「頑張ってね!」
「三人で解決できるように頑張ります!」
「娘をよろしくね!」
「はい!」
 杏果の母親は俺たちのことを心配してくれてたらしい。今だけではなく小さい頃からお   世話になっていて頭が上がらない、本当にいい人だなぁ。
 杏果の母親と話してるうちに、杏果が車に乗ってきた。
「お待たせ」
「忘れ物はとりあえずないね?」
 杏果の母親は少し心配そうに言った。
「うん、ないと思うよ」
 車は動き出した、俺の家までは少し離れてるくらいでそんなに遠くはない。窓の外を見ると 夕暮れ時で、空は赤く染まっていた。
 僕の家に着いた。荷物を下ろす作業も少し大変だ、十五分くらいで荷物を下ろし終わると、杏果の母親は車で帰っていった。
「今日はありがとう、私一人だったらもっと時間かかってたよ」
 杏果は笑顔で言った。
「どういたしまして」
 俺も笑顔で言った。
「これからよろしくお願いします」
 杏果は人が変わったように真剣に言った。
「なんだよー改まってー・・・・よろしく!」
「私からもよろしくお願いします」
 こうして杏果と香織ちゃんと僕三人の生活が始まった。

 二日後
「杏果さん起きてくださーい、朝ですよ!」
 香織ちゃんの声が家中に響いた。俺はその声で起こされ、今日当番の香織ちゃんが作ったご飯を食べる。ここ二日は起きる時間は早くなっている。なぜかと言うと杏果が部活の朝練があり、朝早くに杏果を起こす声で俺も起きてしまうからだ。そして朝ごはんを一緒に食べることになる。香織ちゃんの作るご飯に、いつのまにかメニューが追加されていて、卵焼きを作るようになっていた。
「「いただきます」」
「いただきます」
 香織ちゃんの声だけが元気がない。
「どうしたの?元気がなさそうだけど」
「すみません、卵焼きというのをつくってみたのですが、失敗してしまいました・・・」
 卵焼きは少し黒焦げになっていた。
「大丈夫だよ」
 俺は卵焼きを口に運んだ。少し苦い味がした。
「おいしいよ」
「そうですか?焦げてしまったのですが・・・」
「最初からうまくできないことくらいあるよ、またつくってみればいい」
「そうだよー練習あるのみだからね!」
 杏果はそう言った。
「がんばります」
「明治時代って卵焼きなかったのか?」
 俺は質問した。
「なかったですね、そもそも卵を使う料理は卵が高級品なのであまり食べられません。私も久しぶりに卵を食べますよ」
「卵があまり食べれないなんて・・すごい時代だな。今では卵が普通に買えるから、遠慮なく使っていいよ」
「普通に買えるんですね・・・また卵焼き作ります」
 香織ちゃんの表情は少し柔らかくなった。
「楽しみにしてるね」
 そう俺は言って、味噌汁を飲んだ。
「香織ちゃんの味噌汁美味いよな」
「そうだよね、私たちの味噌汁とは少し違うような気がするんだけど、何が違うのかな?」
「お二人のいつも作っているお味噌汁と作り方は変わらないと思うのですが・・」
「いややっぱ俺たちのとは違うな、特別な感じがするよ」
「そう言ってくれて嬉しいです・・・そうだ、今度私に今風の料理を教えてください」
「いいよ、どんな料理教えて欲しいの?」と俺は聞いた。
「この前作ってもらったカレー?の作り方を教えて欲しいです」
「わかった、今日学校から帰ってきたら教えるよ」
「ありがとうございます!」
「私は味見役で」
「それ食べるだけの人でしょ!」
「ふふっ」
 香織ちゃんは少し笑った。香織ちゃんの笑顔を初めて見た、かわいいな・・・
 みんなで朝ご飯を食べた後、杏果は朝練に行くために家を出た。
「行ってきまーす」
「「行ってらっしゃい」」
 俺は杏果が家を出てから一時間後に家を出て、午前中の授業を受け昼休みになった。今日の昼ごはんは香織ちゃんが作ってくれた弁当があり、杏果の分の弁当も作ってくれたのだ、昼の弁当を作ってくれたことは今回が初めてだ。とてもありがたいが、量が多そうでとても食べれそうにないな。
「いただきます」
 弁当の中身は和風で出汁が効いていてとてもおいしい。
「お、すごい量の弁当だなー自分で作ってきたのか?」圭は話しかけてきた。
「いや、自分では作ってはいないのだけどね、自分では食べきれなさそうなんだよ、少し食べる?」
「いいの?」
「いいよ」
「それじゃあ、ありがたくいただくよ」
 圭は芋の煮付けを食べた。
「うまいなー誰に作ってもらったんだ?」
「・・・・・・・」
「え、彼女?」
「いや、彼女はいない」
「じゃ、親か?」
「親じゃない」
「俺が知らない人だとしても・・・どうゆうことだ?」
「まぁいろいろあったんだよ」
「え?めちゃくちゃ気になるなーやっぱ彼女だろ?」
「違うよー」
「弁当を作ってくれる人なんて親か彼女くらいしかないだろ」
「それは偏見だよ」
「そうかー?」
 自分が圭に香織ちゃんのことを話したくない理由は、香織ちゃんのことをあまり他言したくないからだ。
 単純に香織ちゃんのこと説明しづらいのもあるが、自分と一緒に住んでいる人が過去から来た人なんてことが万が一噂として広がれば大変なことになる。圭を信じていないというわけではないのだが、もし圭に話して圭が言いふらしてしまったら大変だ。
 お昼を終えた後午後の授業を受ける、午後の授業はとても眠く何回も寝そうになった。

 キーンコーンカーンコーン
 放課後になった。放課後になってもとても暑くて体が溶けそうな気温だ。外に出たくない気持ちでいっぱいだが香織ちゃんにカレーを教えるためにも早く帰らなきゃな。そう思って帰ろうと思った時、杏果が走ってきた。
「一緒に帰ろうよ」
「おう」
 杏果は部活が今日はなかったらしい。
 杏果と一緒に住み始めたからだろうけど前よりもよく会って話すようになった。
「少し香織ちゃんと暮らして思ったんだけど香織ちゃんはいい子だよねーすごく礼儀正しいしさ」
「そうだよね、いい子なんだけど・・・なんか子供の無邪気さがない気がするよ」
「いくつだっけ」
「あ、聞いたことなかった」
「会ってから何日か経ってるよね!?」
「うん」
「聞いた方がいいんじゃない?誕生日がきたら祝ってあげられるでしょ?」
「確かにそうだよな、帰ったら聞いてみるよ」
 そんな会話をしながら帰っていると、いつのまにか家に着いていた。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい」
「もうカレー作るでしょ?」
「はい、お願いします!」
 香織ちゃんは笑顔で答えた。
 俺は二階の自分の部屋に入り、すぐに制服を脱いで、エプロンに着替えた。そして2階から降りて台所に行ったら、すでに香織ちゃんが居た。
「香織ちゃんはいつも着物なんだね」
「着物が一番落ち着くので・・」
「明治時代は着物着ていることが普通なの?」
「そうですね、着物を着ることが一般的で、洋服を着ている人は一部ですね」
「なるほどね」
 今頃かもしれないが香織ちゃんの着物の着こなしはとても美しい。香織ちゃんが普段から着物を着ているから美しく見えるのだろう。
「よし、カレーを作ろう!まずはカレーのルー、鳥肉、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、サラダ油を用意しよう」
「わかりました」
 香織ちゃんは冷蔵庫と棚から食料を取り出した。野菜は多めに使う。
「用意できたら、具材を切ろう」
 香織ちゃんは自分が指示したように、綺麗に具材を切った。
「切り終えたら、切った具材を炒めよう」
「はい」
「炒める時は焦げ付かないように、火加減を調節してね」
「わかりました」
 ジュージュー
 玉ねぎがしんなりするまで焼いていく。
「炒め終わったら、水を入れて煮ていくんだけど、ここでローリエっていう香辛料を入れる」
 暗い青みの緑の葉っぱを香織ちゃんに見せた。
「これがろーりえですか」
「そうローリエ、嗅いでみて?いい香りだから」
「嗅いでみます」
 香織ちゃんはローリエを鼻に近づけた。
「すごくいい香りですね!嗅いだことない香りです」
「やっぱり明治にはなかったか」
「多分ないと思います、でも私が知らないだけで、横浜とかだったらあったかもしれないです」
「横浜かーあそこは都会だもんなー」
「横浜に西洋品がたくさんあって、横浜に行ったらなんでもあるといわれますね」
「そんなに横浜すごいんだ」
「すごいです」
「まぁ明治時代にカレーがあるんだか知らないけど、カレーは香りが大事だからね」
「なるほど、香りですか」
 そして鍋が煮立った時、あくが出るのでそれを取っていく。
 15分後・・・
 にんじんが柔らかくなってきたくらいで、ルウを入れて煮込む。
「ここで一旦火を止めてルウを入れるよ」
「ルウってこの茶色の塊のことですか?」
「そうだよ、それが香辛料であり、味の元となる魔法の調味料だよ」
「まほうの調味料・・・」
 香織ちゃんは目を輝かせた。
  ルウが溶けてきたら、弱火で時々かきませながら、とろみがつくまで10分ほど煮込む。
「味見させてよ!」
 杏果がタイミングを見計らったように二階から降りてきて味見を要求してきた。
「ちょうだい!」
「どうぞ」
「ふむふむ、うまい!あっさりしていてうまいよ!」
「それはよかったです!」
 香織ちゃんは嬉しそうだ。
 野菜がたっぷり入っており、あっさりとしたカレーができた。
「「「いただきまーす!」」」
「うん!うまくできたな!」
「おかわり!」
「ちょっとはやくないか」
「いやーおいしくてすぐに食べ終わっちゃった」
 杏果はよく食べる子だ。
「ごちそうさま、俺と杏果で皿洗いするね」
「そんな、私が片付けますよ」
「疲れただろ、俺らがやるよ」
「ありがとうございます」
 食べ終わった後、杏果と俺で皿洗いをしている中、香織ちゃんはお風呂を沸かしにいった。そして、香織ちゃんが風呂を沸かし終え、少し経って俺たちは皿洗いを終わらせた。
「香織ちゃん、ちょっといい?」
「なんですか?」
「失礼かもしれないけど、香織ちゃんていくつなの?」
「十三歳ですよ」
 !!まじか・・・もっと子供かと思ったけど、中学生くらいの歳だったか・・
「誕生日は?」
「十月十五日です、湊さんはいくつですか?」
「十六歳で誕生日は九月十九日」
「ちなみに私は湊と一緒の十六歳で誕生日は十一月二十一日だよ!」
 杏果も答えた。
「やっぱり歳上だったのですね」
「歳上だけどいつもどおり接してくれればいいよ」
 俺は微笑んで言った。
「私はおねえさんとして頼ってもらえるとうれしいな!」
 杏果は笑顔で言った。
「わかりました。私からも言いたいことがあって・・・・」
「何?」
 と俺は聞いた。
「香織ちゃんはちょっと・・・」
「どういうこと?」
「ちゃんは・・・」
「あっ、だめだった?」
「はい・・・」
「じゃあ香織さん?」
「・・・・香織でお願いします」
「わかった」
「私は”香織ちゃん”のままででいい?」
「いやいや杏果からも、ちゃん付けは嫌だろー」
 俺はふざけて言った。
「そんなことないよー私にとっては”香織ちゃん”がしっくりくるのよ」
「杏果さんはいいですよ」
「ありがとう!」
 杏果は笑顔だ。
「まじかよ・・・・」
 ???なんで俺だけちゃんづけはダメなんだ?よくわからない・・・まぁ香織って呼ぶけどさ・・・
 このことを考えていたら、いつの間にか今日が終わった。

 翌日朝・・・・
 今日は休日で暇だ。朝食を済ました後、香織はテレビに夢中である。最近テレビにとても興味があるらしい。
 そうだ、気分転換に香織をどこか連れて行こう・・・・久里浜あたりでいいか。
 香織には外に出る時は、自分か杏果がついてないと外に出ないでほしいと言ってあり、香織はあまり外に出られない。だからたまには外に出たほうがいいだろう。
「香織ー街に出ないか?」
「いいですよ」
 杏果も誘おう。二階に上がり杏果の部屋のドアをノックした。
 コンコン
「ちょっといいか?」
「なにー?」
 杏果はピンクのパジャマ姿で扉を少し開けている。
「香織と久里浜まで行くけど杏果も行く?」
「行く!」
 即答かよ。
 数分後、杏果は着替えて部屋から出てきた。ベージュのミニスカートに白のラグランTシャツを着ている。そして杏果は化粧をした。ただ、化粧と言っても薄化粧であった。
 扉を開けて俺たちは外に出た。
「ん?」
 香織が着物のままでいた。そうだ、洋服をあげていなかったか・・これじゃ目立つな・・・まぁ本人がいいならいいのだが、一応聞いてみるか。
「香織、着物のままでいいのか?」
「確かにテレビで見た人々は着物を着ていませんでしたね、洋服を着てみたいのですが、ないもので・・・」
「私のお下がりでもいいなら前着てたのをあげるけど、今から私の家から取ってくるのも少し時間かかるから・・・」
「じゃあ買いに行くか」
「いいね!そうしよう!」
 杏果はわくわくしている。
「お金は・・・」
 香織は心配そうに言った。
「大丈夫お金はある」
「いいのですか?」
「まぁ外出る時、着物は目立つと思うから、買っといた方がいいよ」
「ありがとうございます」
 香織は申し訳なさそうに言った。
 服を買うと言っても、自分の住んでいる所におしゃれな服は売ってはいない。電車で三駅先の久里浜くらいまで行かないとない。ちょうどよく久里浜に行こうとしたからちょうどいい。 駅に向かい、青砥行きの電車に乗った。
「・・・・・・・」
 香織はあまり話さず景色を見つめていた。まだ電車に慣れていないようだった。
 三駅先の駅に着いた。駅から出たら目の前にいくつかビルが立っている。ここら辺は比較的に店が多く、大きな商業施設もある。大抵地元の人が大きな買い物をするならここだ。
「わぁーーーー!!」
 香織は目の前のビルに見とれている。
「ここはすごい場所ですね!高い建物が多いです!」
「お店が多いから人も多いよ」
 ここら辺のお店を香織に全部紹介するのは時間かかるが、大抵のお店は紹介しようと思う。
 まずは行くつもりだった服屋からだ。
「どこの服屋行くの?」
 杏果に聞いた。
「エオンに行けば大抵のものあるし、エオンでいいんじゃない?」
「了解」
 俺たちはエオンに向かった。エオンは駅の近くにある。
「ものすごく大きな建物ですねーー」
 エオンに着いた時、香織は圧倒されていた。
「ここら辺じゃあ一番でかい建物だね。杏果、どこから行く?」
「まずは下着からかな、3階にあるよ」
「わかった」
 エスカレーターがある場所に行った。
「なんですか?これ」
「あーエスカレーターといってね、なんて言えばいいんだろう」
「楽に上の階と下の階を行き来するための装置だよ」
 杏果が説明してくれた。
「なるほど」
 香織はエスカレーターに乗ろうとしたが、なかなか乗ってくれない。
「怖いです」
 そうか、初見だったらそりゃ怖いよな。
「俺と一緒に乗ろう」
「はい」
 俺は香織の手をとり、一緒のタイミングで乗ることにした。
「行くよ、せーのっ」
 香織はうまくエスカレーターに乗れた。
「乗れたな」
「はい」
「そのうち慣れるから、それまで俺と一緒に乗ろうか」
「お願いします・・・」
 香織は少し不安そうになっている。
 もう一回香織と一緒にエスカレーターに乗り、三階の下着が売っている店に着いた。自分は流石に入らないので購入は杏果に任せよう。
 数十分後、香織と杏果は店から出てきた。香織は商品が入った袋を持っていた。
「お金は後で払う」
「いいよ、私からのプレゼント」
「いいのか?」
「お世話になっているしね」
「ありがとうございます」
 香織はうれしいそうな反面、申し訳ないような表情でそう言った。
 次のお店に行った。ここは俺も一緒に入れる。
「さあ、どういうモチーフにしようかな」
 杏果は楽しそうだ。
「見たことのない服ばかりです」
 香織は興味津々だ。
「昔からしたら全然違うデザインでしょうね。こういう組み合わせどうかなー着てみて」
「はい」
 ・・・・・・
「どうやって着ればいいのかわかりません」
「ああ、今行くよ」
 杏果は香織が入っている試着室に入った。
 シャー
 着替えた香織が出てきた。茶色のプリーツスカートと、少し花柄が入ったシャツを着ている。
「いいね、似合ってるよ」
「そうだよね、やっぱ元がいいからなんでも似合うと思う」
「そんなことないですよ・・・」
 香織は自分に自信がなさそうだ。
「いや、自信持っていいよ!かわいい!」
 杏果はグッドした。
「・・・・」
 香織は少し照れた。
「これも着てみてー」
 数十分後・・・
 何着か試着させて、最終的に香織がいいと思う服を3セット買うことにした。
「私も少し試着してみようかなー」
 杏果は二着の服を持って試着室に入って行った。杏果も服を買うのだろうか。
「どう?」
 白いブラウスに黒っぽいスカートを着ている。
「似合ってるよ」
「そう?」
 杏果は少し不満げで、更衣室にまた入った。
「どう?」
 次は青のブラウスに、白っぽいスカートを着ている。
「似合ってるよ」
「・・・・・」
 まだ杏果は不満げで、また更衣室に入った。
「どう!?」
 デニム色のワンピースを着ている。
「似合うと思うよ」
「もっとなんかないの?」
 もっとなんか?・・・・
「かわいいよ」
「ふふっ」
 杏果はご機嫌だ。
 杏果はデニム色のワンピースを一着買った。
「こんなに買っていただいてありがとうございます」
「絶対この先必要になってくると思うからね、いい買い物だよ」
「そうだよ!おしゃれというのも覚えた方がいいと思うよ!」
 杏果は興奮して言った。
「そうですか・・・これから覚えますね」
 今いる店を出て、エオンを数時間ぶらぶらして、外に出たらもう夕方になっていた。
 ブーブーブー
 神主からルイン電話がかかってきた。
 なんだろうか。
「ちょっと電話してくる」
「わかった」と杏果は言った。
 俺は人がいない場所に移動した。
「もしもし」
「神主の赤松信介です、今お時間よろしいですか?」
「大丈夫です」
「香織さんは元気ですか?」
「元気ですよ」
「それは良かったです、調べていた神隠しについてですが、わかったことがあります」
「進展があったのですね!」
「はい、それで話の内容が長くなることと、渡したいものがあるので一度香織さんと神社のほうに来ていただきたいのですが」
「わかりました、自分の友人も来るかもしれないのですが、一緒に連れてきてもいいですか?
 神隠しの話を知っていて、いろいろ協力してもらっているのですが」
「いいですよ、いつ頃に来れそうですか?」
「そうですね、友人に予定聞くのですこし待っていてもらってもいいですか」
「はい」
 電話をミュートにして香織達がいるところに戻った。
「今神主さんから電話きてて、神隠しについて進展があったらしいんだけど、その話をしたいのと、渡したいものがあるから神社にきてほしいって言われたんだよ、香織は来るでしょ?」
「はい、行きます」
「杏果は?行く?」
「私も行く」
「わかった」
「明日空いてる?」
「空いてるよ」
 杏果はそう言った
「私も空いてます」
「わかった」
 また電話していたところに戻り神主との電話を再開した。
「もしもし、明日って平気ですか?」
「明日は・・・十九時ごろに来てもらえます?」
「わかりました、十九時に行きます」
「それでは引き続き香織さんをお願いしますね」
「はい」
「それでは失礼します」
「失礼します」
 電話が切れた。
「おまたせ」
「神隠しの情報がやっとわかるね」
「そうだね、でも渡したいものってなんだろう」
「想像つかないですね」と香織は言った。
 このまま帰ろうかと思ったが、かなり暗くなってきて夜ご飯時で帰っても食べるのが遅くなりそうだからこのまま外食しようと思う。
「もう遅くなるから外食しようか」
「いいね」
「外食?」
「お食事どころみたいな所に食べ行くことだよ」
「なるほど」
「何食べようか」
「私はラーメン食べたいな」
「いいね、そうしよう」
「ラーメンってなんですか?」
「食べてみた方が早いよ」
「そうですか」
「最初だからあっさり系にするか」
「そうだね、本当はコッテリ系食べたかったけど」
「まぁ今度食べよう」
 近くのラーメン屋をスマホで探した。
「ここでいいかな?」
 俺はスマホの地図で良さそうなお店を見つけて杏果に見せた。
「いいんじゃない?」
 少し歩いてラーメン屋に入った。醤油ラーメンのお店で、昔ながらの古めかしいお店だ。
「ここで券を買ってラーメンを食べるんだよ」
 醤油ラーメンの券を買うのを香織に見せた。
「やってみて」
「はい」
 香織にお金を渡して、香織は醤油ラーメンの券をスムーズに券を買った。ちなみに杏果も同じのを買っていた。
 そういえばお金の価値や使い方を教えていなかったな・・・帰ったら教えよう。
 席について数分後、三人ほぼ同時にラーメンがきた。
「「「いただきます」」」
 香織はラーメン初めてらしいがどうだろうか。
「おいしい?」
「すごくおいしいです!」
 香織はものすごく美味しそうに食べていた。
 連れてきてよかったな。
 醤油ラーメンは鶏ガラベースの昔ながらのラーメンといった味だった。
 ラーメンを食べ終わり、お店を出て駅まで歩く。暑さは落ち着いてきて、あたりはもう暗く、建物の明かりが輝いている。
電車に乗り、三人で並んで座っていたら、香織は俺の肩で寝てしまっていた。
 寝顔がとても可愛らしい。
「外に出たのは正解だったな」
「そうだね、香織ちゃんにはいろんなことを知ってもらいたいよね」
「またどこか行くか」
「うん、行こう」
 電車は真っ暗な線路を駆け抜けていった。
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