第7話 夏の脅威

文字数 8,230文字

「香織ー準備できた?」
「できましたー」 
 鏡のかけら探しの日がやってきた。昼ごはんを食べ終わり十二時に家を出ると暑すぎるので午後四時くらいに家を出る。だがこの時間でも少し外に出たら太陽から容赦なく光を浴びせられ、もう家に帰りたいと思ってしまうほど暑い。お母さんに車を出してもらおうかとも思ったが、忙しそうだ。香織には塩飴とポカリスエットを持たした。
「暑いねー今日も」
「暑いですね」
 香織はこの暑さに耐えることができるのだろうか。不安だ。
「きつそうなら俺一人で探しに行ってもいいよ」
「いや、さすがに申し訳ないです。私も行きます」
 香織は真面目だな。
「そうかーじゃあ無理しないで、キツかったら言ってね」
「はい」
 今日行く神社はスマホのマップで調べたところで、七箇所行く予定だ。あまりバスが通っていなく、一回だけバスに乗ろうと思っている。他はギリ歩きで行ける距離だ。まずは家から一番近くの神社から行く。
 数分畑がある道を歩き、着いた時見た神社は小さかった。まずお賽銭を入れようと思ったが入れる場所がなかった。こういう神社もあるのだな。とりあえず二拝二拍手一拝をする。
 本殿の後ろを見たが神主が言っていた鏡らしいものはなかった。
 その後はまぁまぁ歩き二箇所目に着いた。ここはさっきと比べて少し大きく林の中にあり空気が良い。だが、ここも無かった。
 次の場所まではバスに乗る。バスが来るのに少し待つので、バス停のベンチに二人で座った。
「バス乗るから、来るまでここで待とう」
「バスってテレビで見たことあります、車の大きい版みたいな感じですよね」
「そうそう、そんな感じ」
 やはりテレビは偉大だ。テレビから得る知識はこれからもっと多くなるだろう。
「暑いなー香織平気か?ポカリ飲んでる?」
「平気です。飲みます」
「無理しないでね」
 香織はかなり汗をかいている。俺もけっこう汗をかいていた。
「このポカリという飲み物不思議な味をしていますね」
「塩分と糖分が入っているはずだよ、暑い時は塩分必要だからね」
「そうなんですね」
「香織の時代ってこんなに暑いか?」
「こんなには暑くないですよ・・・・この時代は何が起こってるんですか?」
「地球温暖化だな」
「地球温暖化?」
「地球温暖化は世界レベルの話で、環境が人間によって破壊されていってだんだん地球が熱くなっているんだよ」
「ひどいですね・・・」
 珍しく香織が怒り気味になった。
「よくないよなー」
「神様は自然にいることがよくあり、私たちは自然の恵みをいただいています。それを破壊するなんて・・・・」
 香織は悲しい顔をした。
 そんな中バスが来た、中は涼しくて快適だ。
 数分後・・・・
 もう着いたのか、もうちょっとエアコンに当たりたかったな・・・
 三箇所目は降りたバス停の近くある。ここの神社は小さく、本殿の背後を見たがかけらはなかった。
 四箇所目はすぐ近くにあり、周りは畑なのにここだけ木に覆われていて神秘的だ。
「ここは少し涼しいですね」
「そうだね」
 ここも背後に鏡は無かった。
 五箇所目はかなり遠く、結構歩く。香織ちゃんは大丈夫だろうか。
「体調は大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫です・・」
 ちょっと不安だ。
 数十分歩いた頃には団地が見えた。もうすぐ着くだろう。
 五箇所目は周りが比較的家が多いが、かなり静かな場所だ。
 ここもかけらは無かった。ここら辺には無いのだろうか・・・
 普通に神社巡りしているだけになっている。
 六箇所目は最寄りの駅の近くにあり、ここの神社は何回か行ったことがある。少し高い階段がありその奥に拝殿がある。さすがにここにはある予感がする。
 いつも通り参拝して裏付近を見たが・・・・かけらは無さそうだ。これから行くところは後もう一箇所だけだ。
「なかなか無いですね」
「そうね次で今日は最後だよ」
「あることを願います」
「そうだね」
 もう香織の顔は疲れ切っているように見えた。
 最後の箇所はなんと自分が通っている高校の校庭の近くだ。こんなところに神社があったのかと思いながら行ってみると、赤色の神社があり、竹が周りに生えている。そこにちょうど夕日の光が差し込んでいて風情がある。参拝して神社の裏を見ると・・・・
「お!!!これじゃないか!?」
「それっぽいですね!」
 俺は鏡のかけらを持ち上げた。
 リーン・・・・・・・・・鈴の音が聞こえた。
 ここはどこだ? 
 周りを見渡すと・・・
 ここはさっきと違う神社か?・・・・なんか見たことがあるような景色だな。
 タッタッタッタ
 幼女が鳥居の方から勢いよく走ってきた。そしてお父さんらしき人も出てきた。
 この子は香織か・・・?幼女は香織に似ている
「ちちー!早くー!」
「はいはい、すぐ行くよー今日はどこ行こうか?」
「すなはま!」
「好きだなー砂浜。じゃあ行こっか!」
「うん!」
「その前にちょっとやることあるからねー」
「わかった!待ってるね!」
「お利口さんだなーよしよし」
 そう言ってお父さんらしき人は幼女の頭を撫で、お父さんらしき人は神社の中に入って行った。
 リーン・・・・・・・・・また鈴の音が聞こえた。
 ミーンミーンミミッミーン
 蝉が忙しなく鳴いている。
「大丈夫ですか?湊さん!!」
「はっ・・・・大丈夫・・・・」
 元の場所に戻ってきたらしい。香織は体を揺さってくれていて、心配してくれた。
「鏡のかけら持ってからずっと立ち止まっていて、呼びかけにも反応しませんでしたよ!?」
 香織は不安そうな顔をしていた。
「なんか意識が違う場所にいってた」
「違う場所?」
「こことは違う神社が見えて、香織に似ている幼女が走ってきて、その後その幼女のお父さんが来る風景を見たんだ」
「・・小さい頃の私と父ですか、奇妙ですね・・・・私が幼少期にお父さんと一緒に鏡心神社に居る風景じゃないですか?」
「そうかもね」
「この鏡には何か不思議な力があるのでしょうか」
「たぶんそうだろうね。実際、神隠しに関連するものだからありえる」
「信介さんに聞いてみましょう」
「そうだね」
 よくわからない現象に戸惑いつつも、鏡のかけらを神主さんから貰ったクッション材の入れ物に入れて、それをリュックに入れて大事に持って帰る。ちなみに鏡のかけらは普通の鏡とは違い、反射するガラスはなく、錆びたような緑がかっていて、模様が入っている。重さは少しあり、大きさはそこまで大きくない。
 夕方は少し涼しくなり、なんとか家にありついた。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「おかえりー」
 杏果はもう部活から帰っていた。
 ガタッ
「大丈夫!?香織ちゃん!?」
「大丈夫!?」
 香織が急にフラついて壁によっかかった。顔が赤く、おでこを触ってみると熱がある。たぶん熱中症だ。
 香織をおんぶして、冷房の効いているリビングまで運んで、服を緩めた。そして氷枕や保冷剤で両側の首筋や脇、足の付け根などを冷やし、扇風機で風を当てて体を冷やした。さらにポカリを飲ましてしばらく様子見だ。
 三十分後・・・・ 
 おでこを触ってみると熱が下がっていそうだ。体温計でも体温を測ってみたがやはり下がっていた。
「良かった・・・・」
 俺はホッとした。
「本当だよ・・・・」
 杏果も安心したようだ。
「体調はどうか?」
 俺は香織に聞いた。
「すこし体がだるいです」
「そうか・・・」
「ちゃんとポカリ飲んで、しばらくここでゆっくりしてね」
 とても優しい顔で杏果は言った。
「わかりました」
 やはり香織をこの暑い中で外に長時間歩かせるべきでは無かった。バスを一回使ったとはいえ、ダメだった。普通に考えて、香織は今回で初めてこの高温度で長時間外に出たのだから、耐えられないに決まっている。香織本人は移動している間はずっと大丈夫だと言っていたが、我慢していたのだろう。俺は判断ミスしてしまった・・・・今後、香織に外でてもらうのは怖い、もう少し慎重になるべきだ。
 今日の夜はずっと反省していた。もう二度とこういうことが起こらないように。
 
 翌日・・・
「おはよう」
 香織の部屋に行ったら香織はもう起きていた。
「体調は平気なのか?」
「少し良くなりました」
「それはよかった」
 少し体調は良くなったらしいが、香織は夏バテになっていて、まだまだ安静にしてもらったほうがいい。今日の食事は香織担当だったが、俺が代わりに担当する。今日も香織は自分の部屋でずっと寝てもらう。
「今食べれるか?」
「少しなら」
 香織はあまり食べられなくなっている。
「あたたかいうどん作ったから」
「ありがとうございます」
 こういう時は食べやすいうどんとかを作ってあげたほうがいい。
「りんご剥いといたよー」
 杏果が剥いたりんごを持ってきた。
「ありがとうございます」
「ビタミン大事らしいからね、昼はゼリー買ってきてあげる」
 杏果は今日部活休みで、杏果も香織を看病してくれるらしい。
 香織にうどんを食べてもらった後食器を洗った。その後神主さんに昨日の不思議な現象を話すために、いつ電話をかけていいかルインのメールで聞いた。文章だと伝わりにくいのと、話が長くなりそうなので電話にしたい。
 ブーブー
 今か電話かけてきていいですよと返事が返ってきた。
 てててててんっててててててん
「もしもし、湊です。お久しぶりです」
「お久しぶりです。お元気でしたか」
「元気です」
「それはよかった。鏡のかけらひとつ見つかったのですね?」
「はい、見つかりました」
「よく見つかりましたね!結構神社まわりました?」
「七箇所ほど。あと・・・香織さんが熱中症になってしまいまして・・・すぐに処置して今安静にしてもらっています」
「そうですか・・・本当に最近暑いですから気をつけてくださいね。最悪死に至りますので」
「すみません、気をつけます」
「それで不思議な現象とはなんですか」
「かけらを持った瞬間、香織さんの過去であろう風景が見えたのです」
「え・・・・・?どういうことですか?」
「意識が飛んで、自分自身が違う世界に飛ばされたようなことが起きるんです」
「はあ・・・・そんなことが起きるんですね、かけらを持つと」
「はい」
「それが過去の風景ですか・・・どんな感じでしたか?」
「鏡心神社であると思われる所で、幼少期の香織であろう幼女が出てきて、その幼女のお父さんも出てくるという風景です」
「そのお二人は神社の前でなにをされていましたか?」
「んー遊んでいたというか、じゃれていたような感じですね」
「そうですか・・・そんな風景が見られるなんて不思議ですね」
「かけらの影響でしょうか・・」
「多分そうでしょうね・・今のところはわかりませんので、それに関する書類を見つけ次第また連絡しますね」
「わかりました」
「それで、私からも報告がありまして、鏡のかけらを集めるのにこのままだとものすごく時間かかるじゃないですか」
「はい」
「そこでかけらがある場所の共通点自体はないのだろうかと思い、時間ある時に書類をよく見ていたのですよ。そうしたら神隠しにあっていた人の内容で、五個のかけらがある場所について書かれていたのですよ」
「はい」
「その場所が全部陸内で大きい神社なのです。他の人の話を見ると全部稲荷神社にまつわる所だったのです。つまり場所の共通点はあるのですよ」
「それは朗報ですね」
「そして、神隠しの時代ごとの、かけらの場所の共通点の何個かは被っています。パターンがちゃんとあるのです。つまり今回のかけらの場所の共通点が昔の共通点と一緒になれば、場所の共通点は確実になり、かけらを探す場所が絞られるということですね」
「あーなるほど」
 俺は頭の中を整理した。
「それでは共通点を見つけ出すには、最低でももう一つは見つけなければいけないという事ですか」
「そういうことです」
「かなりいい情報を聞きました、ありがとうございます」
「もうひとつ見つけたら教えてください。共通点を見つけるので」
「わかりました」
「それでは、これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「あと香織さんにはお大事にとお伝えください」
「わかりました、伝えてきます」
「それでは失礼します」
 電話を切った。
 デカい情報が手に入った。共通点が確定すればかけら探しも楽になる、喜ばしいことだ。
 自室でお茶を飲みながら座っていた香織にこの情報を伝えた。
「まだ楽に探せるのですね。信介さんには感謝しかないです」
 香織はほっとしていた。
「本当にそうだね、何かお礼しなきゃな」
「考えておきますね」
 杏果にも伝えよう。杏果は自室にいた。先ほどの説明をすると杏果は・・・
「じゃあ共通点見つけるまでの辛抱だね、私も部活ない時に手伝うよ」
 と言い、拳をグッとした。
「助かるよ」
 杏果にもまたお礼しなきゃな・・・・
 この後は俺がお昼を作った。香織にはさっぱり塩そうめんを作り、とても好評だった。
 俺も昼ごはんを食べた後はバイトに行き、帰ったらすぐご飯をつくらなきゃいけない。
 数時間後・・・
「ご飯できたよー」
「はーい」
 杏果は元気よく返事した。
 俺はバイトから帰ってきて、夕食を作った。献立はピーマンの肉詰めとトマトときゅうりの中華風ツナサラダと味噌汁だ。
「おいしいです」
 香織はなんでも美味しいと言ってくれる。ありがたい。
「ピーマンの肉詰め肉汁がすごいね。おいしー」
 杏果も同様になんでもおいしいと言ってくれる。
「今週の日曜日、長井の方の神社巡りしてくるわ」
「日曜日だったら部活ないし空いているから私も行くよ」
「いやー助かる。香織はまだ休んでいてね、熱中症は最低一週間休んだほうがいいらしいから」
「私のことなのに・・・申し訳ないです」
「また熱中症になったらやばいし、今は少しずつ家を出て体に慣れてもらうほうが先だよ」
「わかりました・・・・」
「あと今回、香織が熱中症になってしまったのは俺のせいだ、本当に申し訳ないと思っている。配慮が足りていなかった」
「いや、私が弱かっただけで湊さんのせいじゃ・・・・」
「弱いとか関係ないよ、熱中症はほとんどの人がなってしまう可能性があるんだよ・・・・あともう一つ、これから辛いことは辛いと言ってほしい、体調だけじゃなくて気持ちの面でも。もちろん今回みたいなことが起きないように気を付けるけど、言ってもらわないとわからないこともあるから」
「・・・・」
「香織になにかあったら俺たちは悲しむぞ」
「そうだよ、ちゃんと言ってほしいな」
 杏果は諭すように言った。
「わかりました・・なるべく言うようにします」
 香織は腑に落ちないような顔をしている。
 なぜかけら探しを少し早いペースでやっているのかというと、ゆっくりやっていてもふたつめさえもなかなか見つからない場合があり、そんなことが起きてしまったら、三ヶ月過ぎてしまう。だが、だからと言って無理はしないようにしようと思う。
「日曜日は最近ほど暑くならないらしいけど、相当暑くなったら中止で」
「わかった」
 実は長井の方の近くにはお母さんが教師として働いている高校があるのだ。お母さんはそこで研究もしている。そしてそこで寝泊まりしているので家に帰ってこない。
 今度はいつ戻ってくるのだろうか・・・・
  

 翌日、今日は午後四時からバイトがあるだけなので午前からはゲームをする。
 香織はもうすっかり具合は良くなったらしく、食事当番は予定通りそのまま香織にやってもらう。香織が作ってくれた朝ごはんを食べて、すぐにゲームに取り掛かる。この瞬間がとても幸せだ。
 ちなみに杏果は俺たちと朝飯を食べた後、部活に行った。学校の休みに入ってからの朝ごはんはいつもより遅い。学校の休み中の部活の開始時間はそこまで早くないみたいだ。テニスは今でも楽しそうにやっている。
 コンコン
「はーい」
 一時間くらいゲームをしていたら部屋に香織がやってきた。
「どうしたの?」
「一緒にゲームがやりたくて・・・・」
「いいよ、やろやろ」
「ありがとうございます」
「そういえばマリウはどこまでいったの?」
「今八ステージを終えました」
「はや」
 香織にはマリウのカセットが入っている携帯ゲーム機を貸している。いくらマリウとはいえゲーム初心者が一週間半くらいでクリアしてくるとは・・・・やるな。
「もう終わったのかすごいな」
「少しずつやっていたら終わっていました」
「ゲームの才能あるかもな」
「いやいやそんな」
「あると思うんだけどなー」
 そんなことを言いながらゲームカセットを漁っている。なんのゲームをしようか。協力ゲーム?対戦ゲーム?二人でできてすこし簡単なゲーム何かあっただろうか。うーん・・・・そういえばマリウパーティがあったな。
 昔の備え付けゲーム機のソフトにマリウパーティというゲームがあり、基本複数人でやるゲームだ。そのソフトを持っており、家族で何回か遊んだことがある。今回は二人だが十分楽しめるだろう。備え付けのゲーム機をセットし、ゲームを起動した。
「これはマリウパーティといって、マリウの派生ゲームで、ミニゲームや、すごろくをするゲームだよ」
「やってみます」
 まずミニゲームから始めた。操作はいったって簡単で、香織でもできるだろう。
「勝ちました!」
 香織はニコニコしている。
「おおーやるなー」
 回数を重ねていくうちに香織は俺に何回か勝つようになっていた。確実に前よりもゲームの操作が上手くなっている気がする。
「すごろくやってみるか」
「はい」
 最初はルールを覚えることからなので香織は負けていたが、ルールを覚えたら俺といい勝負になっていて、香織は楽しそうだった。
 香織は昼ごはんを作るのに一度ゲームをやめたが、昼ごはんを作り、昼ごはんを食べ終わり、皿洗いをし終わったら、すぐにゲームをやりに俺の部屋に来た。それほど香織はこのゲームにハマっているようだ。
「これが最後ね、もうバイト行かなきゃいけないから」
「わかりました・・」
 香織はしょんぼりしている。
 午後は三時間ほどゲームをやり、最後の一ゲームが終わった。
「そうだ、マリウをもうやらなそうだったら、次はこれをやってみなよ」
 俺はカーフィーのカセットを見せて勧めた。
「このキャラクターかわいいですね。やってみます!」
 キャラクターの見た目は気に入ったようだ。
「じゃ、バイト行ってくるね」
「いってらっしゃい」
 三時間後・・・・今日のバイトは時間が短いので、バイトが終わっても疲れてはいなかった。
「ただいまー」
「おかえりー!」
「え?」
「帰ってきました」
 家に帰ってくると、玄関前廊下に笑顔の母親が出てきた。どうやら帰ってきていたらしい。
「帰ってくるなら連絡してよー」
「ごめんごめん、忘れてたよ」
「お母さんの分の夜ご飯どうするのさ」
「夜ご飯は私が作っといたよ」
「え?香織じゃなくてお母さんが?」
「帰ってきたら流石に作るよー」
 にっこりしながらお母さんはそう言った。久しぶりに母親の料理を食べられる。
「「いただきまーす」」
「「いただきます」」
 お母さんが作ったのはハンバーグとスープだ。
「うまいよ」
 と俺は言った。
「おいしいです!」
 杏果はニコニコしている。
「おいしいですね!」
 香織もご満悦だ。
「よかったーお口にあって!杏果ちゃんも香織ちゃんも美味しそうに食べてもらって、作ったかいあったわー」
 お母さんは満足そうだ。久しぶりにお母さんが作ったご飯を食べたが、やっぱりこの味が一番落ち着く。
「そういえば、香織ちゃん熱中症になったってさっき聞いたけど、湊、夏の暑さを侮っちゃダメだよ」
「それは申し訳ないと思ってる」
「気をつけてよー後、私に話すことあるでしょ?」
「あっ」
 すっかり忘れていた。家出した少女を家に置いているという嘘のことをお母さんに伝えたままで、本当の事を伝えていなかった。しかしなんで知っているのだろうか、お母さんが家に帰ってきた時に杏果や香織が話したのだろうか。
「後でちゃんと聞かせてもらうからね」
「わかったよ・・・」
 怖いなー
「明後日、長井の方行くんだっけ」
「そうだよ」
「車出してあげるよ」
「いいの!?」
「また熱中症になっても困るしね、それにあの神社の量回るなら流石に車は必要でしょー?」
「うん、必要。ありがとう」
「ありがとうございます」
 香織も感謝した。
 車で行けるなんて助かったなー
 食べ終わった後、お母さんに熱中症のことも含めてしっかりと叱られた。そして神隠しについて細い事まで伝えた。
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