第6話 デート

文字数 6,659文字

 杏果とのデートとかいう日になった。今日も暑い日で、半袖半ズボンじゃないと外に出れないくらいだ。そしてなぞにわざわざ駅で一回集合する。まぁいいんだけど。
「いってきまーす」
「今日はどこ行くのですか」
「ああそうか、どこに行くのかわからないんだけど、杏果と出かける。」
 そうだった、杏果と出かけることを香織に言うのを忘れていた。俺は杏果にどこに行くか教えてもらっていない。
「そうなんですか」
「なんかあったら電話かけてきてね」
 なんかあった時用に家電から自分のスマホにかけられるように、俺の電話番号を教えてあるのだ。
「わかりました、何時ごろ帰ってきます?」
「あー夕飯までには帰ってくるよ、何か帰りに飯買ってくるから夕飯は作らなくていいからね。あと昼ごはんは自分で作ってほしい」
「わかりました」
「じゃあよろしくね!」
「はい、いってらっしゃい」
 香織が少し寂しそうにしていたのは気のせいだろうか。
 俺と杏果は違う時間に家を出ている。俺は少し早めに行き、早めに駅に着いた。少ししか動いてないはずなのに汗が滴る。
「待ったー?」
 杏果が時間ぴったりに少し小走りで来た。お決まりのあれをやりたいのだろうか。
「待ってないよ」
「それはよかったー、行こうか」
「おう、どこへ行くんだ?」
「それは着いてのお楽しみ」
「わかった」
 駅の中に入り、都会がある方の方面の電車に乗るらしい。
 当たり前かもしれないが電車はクーラーがよく効いていて快適だった。
「そういえば最後の学校で成績表配られるね」
 杏果から少し嫌な会話をふられた。
「あーそうね不安だわ」
「中間どうだったの?」
「まぁなんとか致命傷程度」
「あはは、それは大変だ、でも期末で巻き返せたんじゃない?」
「そうね、何となるかもね・・」
「バイトやってたでしょ?」
「うん」
「お金溜まった?」
「まぁまぁかな」
「じゃ今日はいっぱい遊べるね」
「え?奢れって?」
「いやーそんなことは言わないけどねーでも勉強教えてあげたから一つぐらいは・・・」
 杏果のおかげでいい点数取れたから一個くらいは奢るか。なんならもっと奢ってもいいくらいだけど。
「いいよ」
「まじで?ありがとう!」
 杏果はご機嫌だ。
 数十分後・・・
「まだ降りないの?」
「まだ降りないよ」
 これはもしや横浜まで行く気か?
「横浜まで行く気だろ」
「やっぱりわかっちゃう?」
「いやだってもう横須賀過ぎそうだし」
「横浜のどこ行くでしょうか?」
「うーん」
 横浜といってもあんまり行ってないんだよな。いつも引きこもってゲームしてるだけだし・・・
 行ったことがあるのは小学生ぐらいに一二回親に連れられたぐらいで、横浜のことはあまり
よく知らない。知っているのは横浜中華街と赤レンガ倉庫ぐらいだ。
「横浜中華街?」
「せいかーい」
 ど定番じゃないか。
「俺が横浜で知っている数少ない場所のひとつだな」
「そんなに沢山行ってない?」
「そうだね、昔に一回ぐらいしか」
「私、美味しいお店知ってるんだー」
「それは楽しみだ」
 さらに数十分たったぐらいで横浜に着き、違う電車に乗り換え、その電車は横浜中華街に行く電車で、横浜から十分も経たないで着いた。横浜中華街の入り口にはでかくて派手な門があり、その門をくぐると中国語で書かれた看板と、中国にありそうなお店が両側に並んでいる。
「着いたー」
 杏果は背伸びした。
「かなり時間かかったね」
「そうだねーここまで来ると流石に時間かかちゃうねー」
「結構人いるね」
「休日だからねー少し並ぶかも」
「それは平気」
「ならよかった、じゃあまずはー小籠包食べる?」
「いいよ」
「じゃあ行こ!」
「おう」
 杏果は手を出してきた。
「手繋ぐの?」
 俺は嫌そうな顔をした。
「いいじゃん、デートだから手繋ぐでしょ!」
杏果はふくれっ面をしている。
「わかったよ・・・」
 杏果が知っている小籠包が美味しい店は案外すぐ近くにあり、その店は出店だ。
「ここは焼き小籠包があってね、おいしいのよ」
「へー」
 やはりかなり並んでいた。
「テニスは楽しい?」
 俺は杏果が部活でやっているテニスについて聞いた。
「楽しいよ、部活仲間とラリーしたり、球出ししたり」
「へー、俺は卓球しかやってきてないから、テニスはどんな感じなんだ?」
「卓球と違うのは卓球のラケットと比べてテニスラケットは重いし大きいし、動きも違うね、縦、横移動の範囲が大きくなるし」
「かなり体力いるんじゃないのか?」
「どうだろ、卓球少し遊び程度にやったことあるけど、卓球もまぁまぁ疲れるよ」
「そうかーテニスちょっとやってみたいなー」
「やるとしても、家から近くて、最寄りから二駅先まで行ってまぁまぁ歩くとコートがあるくらいだね」
「そんなに遠いいのか」
「あんまりコートないんだよーそうだ、今度やりに行こ」
「いいよ」
 もう次の予定が決まった。
 いろいろ会話を続けていたら、やっと買えた。小籠包はできるまで時間がかかるんだな。
「いただきます」
 焼き小籠包は四つ入りのを買い、その名の通り焼いてあって焦げ目がついており、他の小籠包より大きい。
「あっつ!」
 俺は冷まさないで口に運んだ。
「あはは!そりゃ熱いよ、もっと冷ました方がいいよ」
「おう・・」
 肉汁が溢れ出し口の中を火傷した。
 少し待って食べてみると肉汁は結構なくなっているが肉にしっかり味がついており、生地が焼けていてパリッとしていてとてもうまい。もう一つ肉汁が飛び出してない方を食べると肉汁が口の中を満たし、満足が得られる。
「うまいでしょ?」
「うまい」
「焼いてあるのは珍しいよね」
「今まで食べたことない、新食感」
「よかったー」
 杏果は笑顔で食べている。
 うまいので焼き小籠包はすぐに食べ終わった。
「次は何食べるの?」
 俺は杏果に聞いた。
「次はねー豚まん」
「おっけ」
 また手を繋ぎ、豚まんを食べに移動する。
 杏果が行きたい店は少し歩き、ここも出店で、少し混んでいたが、すぐに買うことができた。豚まんも肉汁たっぷりで、生地もふわふわ、もちもちだ。
「おいしいな、肉汁すごいし」
「そうでしょ?ここも何回か来ているんだよね」
 結構ボリュームがあってまぁまぁお腹に溜まった。
「次は?」
「次はねー北京ダック」
「了解」
 手を繋ぎながらほんの少し歩き、着いた時には北京ダックは結構混んでいた。
「そういえばなんで高校は卓球やらなかったの?」
 杏果が聞いてきた。
「バイトやりたかったのと、家では俺一人のときが多くて、自分で家事しなきゃいけないから部活やる暇あんまりないかなって」
「そうなのね、お母さんは教授だよね」
「そう、研究に忙しいらしい」
「すごいね、教授って」
「そうなのかな・・・」
 空気が少し悪くなった。
 数分後、北京ダックを買えて、北京ダックは生春巻きで巻いてあり、甘辛い味噌タレとネギなどが和えてある。大きさはそこまで大きくなく食べやすい。
「タレがうまい」
「ここの甘辛いタレが好きなのよー」
 この北京ダックで俺はもうお腹いっぱいだ。
「じゃあ次はー」
「まだ食べるの?」
「え、もう終わり?まだ食べれない?」
「お腹いっぱいかな、杏果がまだ食べたいならついていくだけついていくけど」
「じゃあ後少しだけ食べる」
「わかった」
 杏果は結構食べる。いつもテニスをしているからかわからないけど、家でもかなり食べる。
 歩いては食べて、歩いては食べてを繰り返し、少しだけと言っていた時から三品ぐらい食べていた。毎回思うのだが香織の食べっぷりはとてもいい。不思議とお腹がいっぱいなのに杏果の食べている姿を見ると、ちょっと食べたいなと思ってしまう。
「じゃあデザートかなー」
「え、まじで?」
「うんデザート食べなきゃ、でも一品だけでいいかな」
「流石にお腹いっぱいだろ」
「まぁほどほどかな、湊は?デザートは?」
「食べようかな、デザートは少しくらいなら食べれる」
「わかった、杏仁豆腐はどう?喫茶店に売っているんだけど、そこで休めるし」
「いいよ」
 喫茶店は大通りの奥の角にあった。ここはあまり混んでいなかったためすぐに入れた。そして俺はメニューに書いてあったクリーム杏仁豆腐とアイスティー、杏果はクリーム杏仁豆腐だけを注文した。杏仁豆腐にクリーム?どういうことだ?
「どれだけ食べたんだっけ?」
「うーん六品?かな」
「いっぱい食べたな」
「幸せだよー」
「おまたせしましたークリーム杏仁豆腐です」
 クリーム杏仁豆腐がきた。見た目は普通の杏仁豆腐だが・・・・
「ん?アイスが入ってる!」
 俺は意表をつかれた。
「そう!杏仁豆腐自体も美味いけど、アイスが入っててさらに美味いの!」
「こういう組み合わせもあるんだな」
「新しいでしょ」
「うん」
 アイスティーとの相性もよく、ペロッと食べれた。
「あ、口周りにアイスついてるよ」
 杏果が俺の口に目掛けて手を出してきて、口の周りのアイスを取り、それを口に運んで食べた。
「え?」
 俺は困惑と同時にドキッとした。
「ふふ」
 杏果はうれしそうだ。
 少しゆっくりした後、カフェを出た。そして今日の夜ご飯のために冷凍シュウマイなどを買ったり、香織のためにテイクアウトで肉まんを買ったりした。
「この後どうするの?」
 俺はこの後の予定を杏果に聞いた。
「この後はねー赤レンガ倉庫に行く」
「おー赤レンガ倉庫って中入れるのか?」
「入れるよ、ショッピングモールになってる」
「へー」
 俺は赤レンガ倉庫を映像で見たことがあっても行ったことはない。
 中華街から海沿いを歩き、新港橋を渡ると赤レンガ倉庫が見えてくる。赤レンガ倉庫はその名の通り赤いが真っ赤ではなく、赤みのくすんだ茶色で、洋風のかなりでかい倉庫である。
「ここが赤レンガ倉庫か」
「そう、結構広そうでしょ?」
「うん、結構でかいね」
「ここは一号館と二号館があるの、一号館から行こうか」
「うん」
 中に入ってみると小物が売っているショップと食べ物が売っているところがある。ちょっと今食べ物を見ると、うってなる。小物のショップを見ていると杏果がカラフルなポーチをずっと触っていた。
「欲しいのか?」
「うん・・」
「じゃあ買ってあげるよ」
「いいの!?」
「何か一つ奢るっていう約束だからな」
「やったー!」
 杏果はとても嬉しそうだ。
 ポーチを買い、杏果に渡した。今日でどれだけお金を使ったのだろうか。
「ありがとう!」
「また次のテストの時よろしく」
「いいよ!」
 今日、杏果は今までで見た中で一番ご機嫌がいいのではなかろうか。
 他のフロアも見た後、赤レンガ倉庫を出た。
「ここから駅までは少し遠いね」
 俺はスマホで近くの駅はどこか調べた。近くの駅は桜木町駅らしい。
「そうだね、結構疲れた?」
「うん、かなり足が痛いよ」
「私も少し足が痛い、でもあと帰るだけだから」
「電車で寝そうだなー」
「ふふ、私も寝そう」
 自分達は疲れているのか、ほとんど喋らず駅に向かった。万国橋を渡り、オフィス街を通っていく。もうあたりは夕暮れで空はオレンジ色に染まっていた。
 数十分歩くと、桜木町駅に着いて電車に乗った。電車内では二人ともものすごく眠くて横浜までは耐えれたが、乗り換えて最寄りの駅までの電車は杏果が寝てしまった。俺の肩に杏果がもたれかかって気持ちよさそうに寝ている。
「もう着くよ」
 もうすぐ着くくらいに起こそうとした。呼びかけても杏果は反応しない。
「もう着くよー」
 杏果の肩をゆさった。
「ぅ、うん、何?」
「もうすぐ着くよ」
「あー着くの」
 杏果は少し寝ぼけていた。
 駅から降りると、辺りは真っ暗だ。
「今日は楽しかった?」
 微笑みながら杏果は言った。
「楽しかったよ」
「よかったー付き合わせているみたいになったら嫌だったから」
「いやいや杏果と行くところは楽しいよ」
「・・・・・・」
 なぜか杏果はそっぽを向いて黙っている。
「そう、それならよかった」
 杏果はフニャッとした声でそう言った。
 少し涼しい風が漂い、家まで歩いて帰る道は気持ちよかった。
「「ただいまー」」
「おかえりなさい」
 香織の出迎えはとても笑顔で、いつもと違った。
「なんともなかった?」
 軽い感じで俺は聞いた。
「なんともなかったですよ」
「よかったよかった」
「どこに行ってきたのですか?」
「都会の方、横浜だよ」
「横浜まで行ってきたのですか?かなり遠くまで行きましたね、時間かかったでしょう」
「そうね一時間くらいかな」
「一時間?相当早いですね、電車で行ったのですか?」
「そうだよ」
「電車はすごいですね、私がいた時代には半日かかりましたよ」
「そんなに掛かったのか!やっぱ便利なんだなーこの時代」
「電車に感謝しなきゃだね!」
 杏果がしみじみ言った。
「これ、お土産。シュウマイと焼き小籠包と豚まんと麻婆豆腐」
 俺は今日の夜ご飯でもあるお土産を机の上に並べた。シュウマイと麻婆豆腐は全員分買ってきて、小籠包と豚まんは香織の分だけ買ってきた。
「結構買ってきましたね、これはもしかしてテレビで見た中華料理ってやつですか?」
「そうだよ」
「すごく美味しそうですね!」
 香織の目はキラキラしている。
 今日は杏果が一応料理担当なので、夕ご飯の準備は任せる。杏果は買ってきたお土産を温め、チンご飯も温め、サラダを用意した。
「「「いただきます」」」
 杏果はあれだけ昼食べたというのに夜ご飯もしっかり食べるらしい。相変わらず美味しそうに食べる。
「これかわいいですね」
「かわいいよねーパンダの顔なんだよそれ」
 そう杏果は言った。
「パンダってなんですか?」
「あーパンダは中国の動物のことだね」
「なるほど中国の・・・おいしいです!これ!この食べ物なんていうのでしたっけ?」
「豚まんっていうんだよ」
「これが豚まんですか」
 香織は豚まんに夢中だ。
「これはしょうろんぽうですか?」
「それはしょうろんぽうだけど、焼き小籠包だね」
「焼いてあるのですか・・・うぁ!」
「ごめん言い忘れてた、それ熱いから少し待った方がいいよ」
 俺は香織に焼き小籠包が熱々だということを言うのを忘れた。香織は舌を火傷したらしい。
「これは少し辛くて美味しいですね!」
「それは麻婆豆腐だよ、ご飯と一緒に食べるとおいしいんだ」
 もぐもぐ・・・・
「確かに美味しいですね、これは・・・・これも美味しい!」
「それはシュウマイだね」
 香織は満足そうだ。
「「ごちそうさま」」
「ごちそうさまでした」
 今日はたくさん食べてお腹いっぱいだ。そして杏果はご満悦だし、香織はお土産に満足していたし、今日はいい日だ・・・そんなことを思いながら今日を終えた。


 翌日・・・
 今日は今学期最後の学校に行く日で、通知表が配られる。そんなに不安ではな・・い。
 朝のホームルームを終え、担任から通知表を配られる時間になった。
「・・・さん」
 あー緊張する・・・
「平賀湊さん」
「はい」
 通知表を受け取り、中身を見る。
 ・・・・・
 うんまぁまぁだな。期末に頑張った英語と数学は成績が伸びていたが、他の教科が少し落ちていた。
 今日の全部の過程が終わった。
「圭、どうだった?成績」
「まぁまぁかな」
 圭の成績表を見たらほとんどの教科の成績が良かった。
「すごいな」
「いつも通りだよ、湊はどうだったんだよ」
 成績を見せた。
「おーでも全体的に見たら成績上がってるように見えるけど」
「そうなのか?」
「うん、多分下がっているのもあるけど上がっている教科が多いからね。すごいじゃんか、やっぱ期末が良かったんだな」
「期末は頑張ったよ・・・」
「そういえばなんで期末はやる気出たんだ?いつもはギリギリでやってそうだったのに」
「教えてもらったからな」
「誰に」
「杏果に」
「ああ、この前の女の子か・・・くそ、羨ましいな!」
 そう言って、目を逸らした圭は不満げだ。
 圭とさよならした後は、うるさいセミと眩い日差しの中下校する。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
 杏果はまだ部活中でまだ帰っていないので香織だけ家にいる。
「明後日、鏡のかけらを四時くらいに探しに行こうと思ってるんだけどいい?」
「いいですけどご飯は・・・」
「朝ごはんは作るから、夜ご飯はお惣菜とか買って帰って食べよう」
「わかりました、あと洗濯はどうすれば」
「帰ってから取り込めばいいよ」
「わかりました」
「まずは家の付近の神社から探しに行く予定だよ。付近と言っても結構歩くところもあるけど大丈夫?」
「大丈夫です、頑張ります!」
 香織は笑顔で答えた。
 学校行くのも一旦今日で終わり、明日から夏休みだ。俺のゲームライフが始まるが、今年の夏休みは去年より忙しくなりそうだ。
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