第7話

文字数 1,830文字

 間もなくして、豪邸はリフォームに入りました。お庭も含めて、工期は一か月程度でしたが、しばらくは実家に戻り、ここへは戻らずにいるとのこと。

 工事が終わった自宅付近で、何度か美紗代さんの姿を見かけました。案じた通り、戻ってこようとしているようでしたが、当然中から応答はなく、門のロックの暗証番号も変更され、無理に入ろうとすればセキュリティーが作動します。

 そんな矢先、柚希ちゃんの妊娠が判明しました。件のこともあり、ご両親は生まれるまで実家にいることを勧めましたが、柚希ちゃんは自宅に戻ることにしたのです。

 それを聞きつけ、すぐさま美紗代さんが押しかけて来ましたが、以前とは違い、はっきりと自分の口で、今現在体調が良くないからと自宅に上がることを断り、何度しつこく食い下がって来ても、何度でもきっぱりお断りし続けた柚希ちゃん。

 やがて諦めたのか、美紗代さんが押し掛けることもなくなりました。

 数か月後には、元気な可愛い女の子が誕生し、その二年後には男の子を授かり、さらに三年後にまた男の子と、気が付けば3人のお母さんです。

 残念ながら我が家にはコウノトリは来ず、3世代続けての幼なじみは実現しませんでしたが、その後もずっと私たちの交流は続くのでした。



     **********



 さて、因縁の第一木曜日。何かの呪いでも掛けられているのか、このところ決まってその日は雨続きでした。

 葛岡さんのおばあちゃんに言われて以来、雨の日には、律儀にカーポートの軒下まで運び、子供会主催の資源回収に出すことを余儀なくされていた私。

 ですが、さすがに土砂降りの中、葛岡さん宅まで運ぶのも馬鹿らしく、この日はスルー。雷を伴うほどの大雨ですから、さすがのおばあちゃんも外まで確認には来ません。




 そして、決戦の第三金曜日。お天気は、皮肉なまでに快晴。

 やはり皆さん、雨の中資源を出すのは敬遠されるようで、ほぼすべてのお宅の前に資源ごみが出され、私も皆さんに倣い、シレッと新聞の束を出し始めた時でした。


「ちょっと、松武さん!」

「あ、葛岡さん、おはようございます」

「おはようじゃないわよ~。今日は資源回収日じゃないでしょ~!?」

「このところ、ずっと雨で出せませんでしたし、皆さんも今日は出していらっしゃいますね~」

「他人様がどうしようと、自分だけはきちんとやることを守るのが、人間として大事じゃないの~!?」


 目を吊り上げて腕組みしながら、私が出した資源ごみを睨み付けるおばあちゃんに、にっこり微笑みながら答えました。


「そうなんです~。葛岡さんはいつもきちんとしていらっしゃるから、私も間違えないように、葛岡さんと同じ日に出してましたので、今回もご一緒させて頂きました~」


 そう言って、葛岡さん宅のカーポートに置かれた大量の資源ごみの山を指差した私。それを見て、慌てふためくおばあちゃん。




 じつは先日、年2回恒例の町内清掃(おばあちゃんは不参加)の時にごみ出しの話題になり、雨の日の資源回収をどうしているかという流れになりました。

 いつも、雨の日に私が運ぶ姿を目撃していたご近所の皆さんから、葛岡さんの奥さんの知るところとなり、ならばと二人で示し合わせ、あえて葛岡さん宅でも第三金曜日に出すというパフォーマンスに出たのです。

 余程バツが悪かったのか、出された新聞紙の束を持ちあげようとするおばあちゃんに、とどめの一言。


「どうしましょう? 私から奥さんにメールして、片付けるようにおばあちゃんが言ってるって、お伝えしましょうか~?」

「そ、そんなこと、わざわざしなくてもいいわよ~!」


 そう言うと、そそくさと自宅に戻って行きました。

 とにかく、他人を自分の意のままにしたくて堪らないおばあちゃん。今後も、極力子供会主催の回収に協力はしますが、出すか出さないかの判断は、私にあって然りです。




 自宅に消えたおばあちゃんを見送って、小さくガッツポーズ。『にっこり笑って、バンパイアの胸に杭を打ち込め作戦』第二弾、勝利です。

 まあ、柚希ちゃんの小姑に比べれば、葛岡さんのおばあちゃんなんて、まだ可愛いものかも知れないと思いながら、同時に、私は彼女たちの身内ではなくて、本当に良かったと思うのでした。




 とはいえ、まだまだ元気全開の70代は、町内のあちらこちらで、今日も明日も明後日も、有難い(?)お説教を振りまいています。

 この先も、彼女が巻き起こす騒動に振り回されるのですが、それはまた、別のお話。

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