第3話

文字数 1,826文字

 ところが、義母と同居を始めた頃から、俊之さんの妹の美紗代さんが、子供を連れて頻繁に来るようになったのです。

 それが徐々にエスカレートして、保育料が勿体ないからと、子供たちを預けてパートに行くようになり、お休みの日には朝から晩まで入り浸り、夕飯まで食べて行く厚かましさ。


「最初に私がお夕食を誘ってから、それが当たり前になって」

「本人が作ったり、片付けたりは?」

「ない。上げ膳据え膳のリクエスト付き」

「旦那さんのご飯はどうしてるの?」

「専ら、我が家からのテイクアウト」

「嘘っ~! じゃあ、食費は?」

「当然タダだと思ってる」

「あり得ない!! 図々しいにもほどがある!」

「こないだなんて、『いちいちアパートに帰るのも面倒だし、家賃も勿体ないから、ここに住もうかな~』って言ってたんだから」

「うっわ~、他人事ながらムカつく~! ガツンと言ってやりたい~!」

「言ってやったら、気分良いよね~!」


 とはいえ、柚希ちゃんの性格ではなかなかガツンとは言えず、さすがに引っ越し発言には、夫と義母が『冗談にも程がある』と釘を刺したものの、なぜか本人はその気になっている様子。

 兄妹にはもう一人姉がいるのですが、上のふたりと末っ子の美紗代さんとは10歳以上年齢が離れており、甘やかされて育ったためか、大人になった今でも自分勝手な性格はそのままなのだそうです。

 21歳で出来婚し、現在5歳と3歳の子供がいますが、ご主人の周志さんはフリーターで、柚希ちゃんの父親の会社へ来ないかとお声を掛けたものの、本人は定職に就くより今の方が性に合っているからと断ったのだとか。

 当然生活は厳しく、そのため美紗代さんもパートに出ているのですが、義母ではワンパク盛りの男の子二人の面倒は看きれず、結局そのしわ寄せは柚希ちゃんに来ることになるのです。

 柚希ちゃん自身、常勤ではないとはいえ会社の役員をしているため、俊之さんからこれ以上負担を掛けるなと忠告されても、


「いいじゃん、働かなくても、高いお給料貰えるんだから。こっちは安いお給料でこき使われてるんだよ? だいたいさ、私は少子化対策に貢献してるんだから、子供産んでない人がフォローするのは当然だよね!」


と、勝手な屁理屈を並べ立てるばかりです。

 そして、現在彼女のお腹には3人目の子供がいて、来月には出産予定。この数週間『産休』と称してずっと兄夫婦宅に入り浸り、その上ここで『里帰り出産』をすると宣言。

 兄夫婦、厳密には兄嫁の実家が出資している家をもって『里帰り』というのも非常識だと思うのですが、本人曰く、『母親がいるのだから、ここが自分の実家』という理屈らしく、手が掛かる上の子のお世話を含め、はなから柚希ちゃんを当てにしているのが見え見えでした。

 何人子供を産むかは個人の自由ですし、少子化対策に貢献しているといえばそうかも知れませんが、経済的にも状況的にも、自分たち夫婦だけではやって行けないような家族計画というのは、身勝手で無責任でしょう。

 ましてや、それが誰かの犠牲の上にしか成り立たないのなら、尚のこと大人としての自覚がなさ過ぎるとしか思えません。



     **********



 柚希ちゃんの惨状を聞いて、子供の頃、よく長期休暇になると母の実家へ連れて行かれたことを思い出しました。

 当時はまだ母方の祖父母共に健在で、母の長兄家族と同居していました。私や弟妹は久しぶりに従兄妹たちに会えるのが嬉しくて、ずっとここにいたいと言っていましたが、義伯母は大変だったと思います。

 実家への帰省で『娘』モードに戻った母は、上げ膳据え膳で『羽を伸ばす』だの『心の洗濯』だのといっては、ゴロゴロしていた姿が思い出され、くだらないことで兄嫁に小言を言ったり、顎で使う様子を見て、子供心に凄く嫌な気持ちになりました。

 私の父は一人っ子だったため、母は小姑の苦労を知らず、それゆえ自分のしていることが分からないのかとも思ったのですが、美紗代さんには実家に入り浸っている義姉がいて、義実家に行くたび、色々と嫌な目に遭わされるとボヤいており、そのうえで、


「柚希さんは私みたいな小姑で、本当にラッキーだよね~。何の苦労もないじゃん!」


 呆れて物も言えないとは、まさにこのこと。

 経験の有無に関わらず、自分のことは棚に上げる辺り、やはり本質的な部分が大きく歪んでいるということなのか、いずれにしても、他人ならなるべく、身内なら極力関わりたくないタイプです。


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