第6話
文字数 1,453文字
バスで再会した日から、1年。
怜奈と会うことが増えた。
あずみは町の外の学校に転校して、類といっしょに暮らしているらしいと友達に聞いた。
それを怜奈に伝えたけれど、怜奈は興味なさそうに「へぇ、あすみっぽくないね」と言っただけだった。
そういえば怜奈はいつの間にかあずみを『あすみ』と呼ぶようになってた。
最近休みの日の度に怜奈といっしょに町の外へ遊びに出てる。
町の外へ出ても、怜奈ほど特別な存在感を思わせる女の子はなかなかいない。
怜奈は気づいてないみたいだけど、本当にもったいないなぁと思ってた。
怜奈なら私には絶対に見ることのできない景色を見られるだろうし、体験だってできるはず。
その存在だけで、たくさんのチャンスや可能性があるはずなのに。
「怜奈はさ、卒業したらどうするの?」
「うーん。まだ決めてない。」
「そっかぁ。私はさ、製菓学校とかに行くつもり。お菓子作り、好きだし!」
「いーね!この前もらったタルトもめっちゃおいしかったしー!」
私は最近お菓子作りにハマってる。
というか、それくらいしかやることがなかったし、どうせなら好きなことをしたいと思っただけ。
「…あのさ、なっちゃんはさ、なんであたしといるの?」
「何でって?」
「あたしなんてさ、性格だってキツいし、実際めっちゃ嫌われてたじゃない?」
「うーん…怜奈はさ、もっと自分に自信もった方がいいよ!あたしは怜奈といて楽しいよ!てゆーか、憧れ!」
「えっ!?」
「本当、見てるだけでうっとりするー!どんどんキレイになってく!それだけじゃないよ、みんなにできないことに向かってくパワーを感じる!そーゆーのを見てさ、嫉妬する人ばっかりじゃないよ、元気になる人だっているんだよ!」
思った通りに言っただけ。
それなのに、怜奈の大きくてキレイな瞳からは涙が溢れた。
普通のことを言っただけなのに。
あっ、そっか。これでいいんだ。
普通でいいんだ。
「だからさ、あたしは怜奈に、もっともっと高くて広いところに行ってほしい!…あたしにはできないけど、怜奈ならできるって思うから!きっと怜奈を見て憧れる人や元気になる人がいっぱいいるはずだよ!」
「…そんなこと」
「あるってば!親友のあたしが言うんだから、間違いない!」
「…親友?」
「でしょ?あれ?違った?」
私はまた笑ってごまかした。
違うと言われても傷つかないように。
私の笑顔はいつも不安の裏返しなのかもしれない。
「…違わない」
怜奈の言葉に、今度は私が泣きそうだ。
だけど、泣かない。
私にできるのは、笑った顔を見せることくらいだから。
卒業式を終え、怜奈は一足早くこの町を出る。
怜奈はあれから即行動して、モデル事務所の面接を受け、所属が決まった。
さすが、私のヒーロー!
嬉しかった。
怜奈から少し遅れて、私も町を出る日がきた。
家族や友達に見送られて、バスから身を乗り出して、見えなくなるまで手を振った。
みんなが見えなくなってからも、私はずっと、私たちの町がある山を眺めてた。
私は、普通でいい。
みんなの中に埋もれてたっていい。
だけど、大切な人のためには、大きな声をあげられる自分でいたい。
普通で、みんなと同じ私が、みんなの中から声をあげよう。
「私、あの子が大好き!すごく素敵だよね!」
そう言える自分が、きっと私の好きな自分だ。
私は普通。
みんなと同じ。
みんなと同じように、
みんなと違う、
私という人生を歩いているだけ。
同じじゃなくていい。
同じじゃないから、あなたが素敵だと言えるんだ。
山は、もう見えなくなった。
バスの中から、空を見上げる。
見上げた空に、雲は無かった。
怜奈と会うことが増えた。
あずみは町の外の学校に転校して、類といっしょに暮らしているらしいと友達に聞いた。
それを怜奈に伝えたけれど、怜奈は興味なさそうに「へぇ、あすみっぽくないね」と言っただけだった。
そういえば怜奈はいつの間にかあずみを『あすみ』と呼ぶようになってた。
最近休みの日の度に怜奈といっしょに町の外へ遊びに出てる。
町の外へ出ても、怜奈ほど特別な存在感を思わせる女の子はなかなかいない。
怜奈は気づいてないみたいだけど、本当にもったいないなぁと思ってた。
怜奈なら私には絶対に見ることのできない景色を見られるだろうし、体験だってできるはず。
その存在だけで、たくさんのチャンスや可能性があるはずなのに。
「怜奈はさ、卒業したらどうするの?」
「うーん。まだ決めてない。」
「そっかぁ。私はさ、製菓学校とかに行くつもり。お菓子作り、好きだし!」
「いーね!この前もらったタルトもめっちゃおいしかったしー!」
私は最近お菓子作りにハマってる。
というか、それくらいしかやることがなかったし、どうせなら好きなことをしたいと思っただけ。
「…あのさ、なっちゃんはさ、なんであたしといるの?」
「何でって?」
「あたしなんてさ、性格だってキツいし、実際めっちゃ嫌われてたじゃない?」
「うーん…怜奈はさ、もっと自分に自信もった方がいいよ!あたしは怜奈といて楽しいよ!てゆーか、憧れ!」
「えっ!?」
「本当、見てるだけでうっとりするー!どんどんキレイになってく!それだけじゃないよ、みんなにできないことに向かってくパワーを感じる!そーゆーのを見てさ、嫉妬する人ばっかりじゃないよ、元気になる人だっているんだよ!」
思った通りに言っただけ。
それなのに、怜奈の大きくてキレイな瞳からは涙が溢れた。
普通のことを言っただけなのに。
あっ、そっか。これでいいんだ。
普通でいいんだ。
「だからさ、あたしは怜奈に、もっともっと高くて広いところに行ってほしい!…あたしにはできないけど、怜奈ならできるって思うから!きっと怜奈を見て憧れる人や元気になる人がいっぱいいるはずだよ!」
「…そんなこと」
「あるってば!親友のあたしが言うんだから、間違いない!」
「…親友?」
「でしょ?あれ?違った?」
私はまた笑ってごまかした。
違うと言われても傷つかないように。
私の笑顔はいつも不安の裏返しなのかもしれない。
「…違わない」
怜奈の言葉に、今度は私が泣きそうだ。
だけど、泣かない。
私にできるのは、笑った顔を見せることくらいだから。
卒業式を終え、怜奈は一足早くこの町を出る。
怜奈はあれから即行動して、モデル事務所の面接を受け、所属が決まった。
さすが、私のヒーロー!
嬉しかった。
怜奈から少し遅れて、私も町を出る日がきた。
家族や友達に見送られて、バスから身を乗り出して、見えなくなるまで手を振った。
みんなが見えなくなってからも、私はずっと、私たちの町がある山を眺めてた。
私は、普通でいい。
みんなの中に埋もれてたっていい。
だけど、大切な人のためには、大きな声をあげられる自分でいたい。
普通で、みんなと同じ私が、みんなの中から声をあげよう。
「私、あの子が大好き!すごく素敵だよね!」
そう言える自分が、きっと私の好きな自分だ。
私は普通。
みんなと同じ。
みんなと同じように、
みんなと違う、
私という人生を歩いているだけ。
同じじゃなくていい。
同じじゃないから、あなたが素敵だと言えるんだ。
山は、もう見えなくなった。
バスの中から、空を見上げる。
見上げた空に、雲は無かった。