第5話

文字数 917文字

そんな風に思っていたのが神様にでも通じたのかな。

ある日の塾の帰りのバスで、怜奈と再会した。
声をかけると、すぐに怜奈は言った。

「なっちゃん!」

怜奈が私を覚えてくれてたなんて、涙が出そうだった。それを隠すために、私は早口で怜奈に言った。


「やっぱりー!怜奈、すっごくキレイになったね!もとから美人だったけど!」

言ってからハッとした。

怜奈がうつむいてしまったから。

怜奈にとってはきっと、いつも言われてた陰口が頭に浮かんでいるはずだ。

派手な顔とか、自信あるとか、よく言われてた陰口。


でも、違うんだよ。


私は違う。


「…あの頃…小学生の頃さ、みんな、きっと怜奈に嫉妬してたんだと思うんだ。みんなが頑張ったって手に入れることのできないものを怜奈は持ってるって…わかってたんだよ、心の中で。それを上手く表せなくって、きっと怜奈に辛く当たってたんだろうね。…ごめんね、あたしも、もっと怜奈の近くにいれば良かった。友達なのに。」

「…友達?」

「え?じゃなかった?あたしは…怜奈があたしの捨て忘れたゴミを捨てに行ってくれたときから、友達だと思ってたんだけど…あれ?」

笑いながら言ったけど、ドキドキしていた。

どうしよう、「あんたなんか友達じゃない」と言われたら。

私は怜奈に一方的に憧れていただけ。
怜奈からしたら、実際にはみんなと同じはずなんだ。

そう思いながらも、言葉を止められない。

私には、怜奈に伝えたいことがある。

そして、今だから伝えられるんだ。

「怜奈は、特別だから。きっと、私たちの手の届かない、遠くまでいける人だよ。」

「…そんなこと…」

「ある!」

そうなんだよ。

あるんだよ。

怜奈は、私の希望だったんだよ。

そこまで伝えることはできなかったけれど。

私は怜奈と、友達でいたい。
友達だと、思っている。

「ね、また時々こーやって会おうよ!」

「えっ…いいの?」

怜奈が戸惑う。

どうして。

こっちのセリフなのに。

「当たり前でしょ!」

連絡先を交換し、次のバス停で、私は降りて怜奈に手を振った。

これは、私たちの始まりだ。

怜奈に、こんな風に話ができる日が来るなんて。

憧れの存在と、対等でいられる日が来るなんて。

私はワクワクしていた。

あの、山の入口から駆け出したときよりもずっとずっと。


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