第1話
文字数 1,351文字
あたしはいつも「その他大勢」だった。
だからずっと、わからなかった。
キレイな顔。
栗色の細い柔らかそうな髪の毛。
白くて長い手足。
みんなと違う存在感。
誰もがそれをうらやましく思っているのに、あの子はどうしてみんなを敵みたいににらみつけてるんだろう、と。
「普通がいちばん。」
山奥の田舎町で暮らす、うちのお母さんの口癖。
普通。
ふつう。
フツウ。
この田舎町では、みんなからはみ出すことは良しとされない。
なるべく目立たないように。
みんなに合わせて。
みんな同じように。
私は、普通。
みんなとおんなじ。
それはいいこと。
みんなが同じで、みんなが仲良し。
同じだから、仲良くいられる。
そんな空気に初めて異変を感じたのは、幼稚園の年長の時。
もう幼稚園も卒園というのに、秋頃になって他の町から引っ越してきた女の子は、お人形さんみたいにキレイな顔をしてた。
名前だって「怜奈 」なんて素敵な響きの名前だなぁ。
私なんて、『夏に生まれたから「なつみ」』。
ってお母さんが言ってた。
怜奈は、今まで見た誰とも違ってて、私は見てるだけでいつもドキドキした。
なのに、他のみんなは怜奈の悪口ばかり言った。
どうして?
でも、「みんな」が言うんだから、私がおかしいのかな?
けど、怜奈は負けてなかった。
どんなにイジワルされたり、仲間外れにされてても、そこであきらめたりしない。
泣いてるときもあったけど、キッとしたその目は、いつも前を向いてると私は感じてた。
私は、その目も好きだった。
あの目を見ると、私は何と闘ってるわけでもないのに、私だって負けてられない、と、体の内側から力強さが湧いた。
そう、私は何とも闘ってなかった。
闘うものなんてなかったから。
だってみんなと同じなんだから。
小学生になった。
怜奈が同級生の「あすみ」を「あずみ」って呼び始めて、みんなが怜奈のマネして「あずみ」って呼ぶようになった。
怜奈が言うんだから、「あすみ」より「あずみ」って呼ぶのがかっこいい気がした。
みんなは怜奈のこと陰では悪く言ったけど、それは憧れに違いなかった。
憧れと嫉妬は裏返し。
私はみんなを見てそう感じてた。
勉強がよくできるあずみのことをみんなが仲間外れにしたりしないのは、それがきっとみんなの求めてるものじゃなかったからだ。
あずみだってみんなと同じ。
この町の田舎の子でみんなより少し勉強が得意だというただそれだけだ。
それは個性として認められて、地味で目立たず、この街によく馴染んでる。
みんなはきっと
「誰かとは違う、特別な自分」
に憧れてた。
それは、山奥の田舎町の子どもだった私たちには、自分の努力ではどうにもならないもの。
この町で子どもには簡単に手に入れられないおしゃれな洋服や持ち物だったり、どんなに頑張っても手に入れられない素敵な名前、飛び抜けてキレイな顔。
みんなの中にとけこめなくても折れない強い心。
怜奈はその全てを持ってた。
怜奈は「普通」じゃない。
だから、いじめられる。
「普通」じゃなくて「特別」だから。
「全部持ってる」から。
「みんなと違う」と、誰が見てもわかるから。
みんなと同じように、
普通で、
と言われてきた田舎の子供達には到底手に入れることのできない圧倒的な存在感。
そう、私とは違う。
私は「普通」。
でも、それで良かったと思いきれない自分にも、なんとなく気づいていた。
★
だからずっと、わからなかった。
キレイな顔。
栗色の細い柔らかそうな髪の毛。
白くて長い手足。
みんなと違う存在感。
誰もがそれをうらやましく思っているのに、あの子はどうしてみんなを敵みたいににらみつけてるんだろう、と。
「普通がいちばん。」
山奥の田舎町で暮らす、うちのお母さんの口癖。
普通。
ふつう。
フツウ。
この田舎町では、みんなからはみ出すことは良しとされない。
なるべく目立たないように。
みんなに合わせて。
みんな同じように。
私は、普通。
みんなとおんなじ。
それはいいこと。
みんなが同じで、みんなが仲良し。
同じだから、仲良くいられる。
そんな空気に初めて異変を感じたのは、幼稚園の年長の時。
もう幼稚園も卒園というのに、秋頃になって他の町から引っ越してきた女の子は、お人形さんみたいにキレイな顔をしてた。
名前だって「
私なんて、『夏に生まれたから「なつみ」』。
ってお母さんが言ってた。
怜奈は、今まで見た誰とも違ってて、私は見てるだけでいつもドキドキした。
なのに、他のみんなは怜奈の悪口ばかり言った。
どうして?
でも、「みんな」が言うんだから、私がおかしいのかな?
けど、怜奈は負けてなかった。
どんなにイジワルされたり、仲間外れにされてても、そこであきらめたりしない。
泣いてるときもあったけど、キッとしたその目は、いつも前を向いてると私は感じてた。
私は、その目も好きだった。
あの目を見ると、私は何と闘ってるわけでもないのに、私だって負けてられない、と、体の内側から力強さが湧いた。
そう、私は何とも闘ってなかった。
闘うものなんてなかったから。
だってみんなと同じなんだから。
小学生になった。
怜奈が同級生の「あすみ」を「あずみ」って呼び始めて、みんなが怜奈のマネして「あずみ」って呼ぶようになった。
怜奈が言うんだから、「あすみ」より「あずみ」って呼ぶのがかっこいい気がした。
みんなは怜奈のこと陰では悪く言ったけど、それは憧れに違いなかった。
憧れと嫉妬は裏返し。
私はみんなを見てそう感じてた。
勉強がよくできるあずみのことをみんなが仲間外れにしたりしないのは、それがきっとみんなの求めてるものじゃなかったからだ。
あずみだってみんなと同じ。
この町の田舎の子でみんなより少し勉強が得意だというただそれだけだ。
それは個性として認められて、地味で目立たず、この街によく馴染んでる。
みんなはきっと
「誰かとは違う、特別な自分」
に憧れてた。
それは、山奥の田舎町の子どもだった私たちには、自分の努力ではどうにもならないもの。
この町で子どもには簡単に手に入れられないおしゃれな洋服や持ち物だったり、どんなに頑張っても手に入れられない素敵な名前、飛び抜けてキレイな顔。
みんなの中にとけこめなくても折れない強い心。
怜奈はその全てを持ってた。
怜奈は「普通」じゃない。
だから、いじめられる。
「普通」じゃなくて「特別」だから。
「全部持ってる」から。
「みんなと違う」と、誰が見てもわかるから。
みんなと同じように、
普通で、
と言われてきた田舎の子供達には到底手に入れることのできない圧倒的な存在感。
そう、私とは違う。
私は「普通」。
でも、それで良かったと思いきれない自分にも、なんとなく気づいていた。
★