第3話

文字数 1,283文字

学校が休みの、ある土曜日、どこへ行くでもなく歩いてると類を探すあずみと会った。

もうお昼過ぎなのに、朝早くから家を出て行方がわからないっていう。

あずみと一緒に私も類を探した。

学校で男子たちの話を聞くと、類は子どもが入っちゃいけないと言われてる『崖の山』にいるんじゃないかということがわかった。

あずみと一緒に私は走って山へ向かった。

けれど、入り口で私たちは止まってしまった。

入れない。
入っちゃいけないと言われてるし、そう言われてなくても、暗くて怖くて入れない。

どうしよう。

そう思ってたら、怜奈が後ろから叫んだ。

「…あずみ、行こう!類を助けに!」
怜奈が私を押し退けて、あずみの側へ寄った。

「えっ…」
あずみは不安そうにしてる。

「行こう、早い方がいいでしょ!二人で行けば、どっちかに何かあったら戻ってくればいい!みんなここで待ってて!あたしたちが戻ってくるまで!」

あずみは、うつむいて答えない。
どうしよう。
私が行くって言おうか。
でも…。

「何やってんの!?類に何かあってもいいの!?」

「…待って、大人を呼んできた方がいいよ…類が本当にいるのかもわからないし…」
あずみが答えた。

どうしよう。
怜奈と一緒に行こうか。
でも、私で役に立つかな。

「もういい、あたし一人で行く!」
怜奈は山の中へ飛び込んだ。

「怜奈!」
私は言ったけど、一緒に行くとは言えなかった。

やっぱり怜奈は、みんなとは違う。
私とは…違う。

ううん、そんなことより、どうしたら怜奈を助けられる?

私はハッとして
「私、誰か大人を呼んでくる!」と言って、走った。

走っている間、私は不謹慎だったけど、ワクワクしてた。

きっと、怜奈の力になれた気がしてたから。



大人を呼んできてすぐに、怜奈は類を連れて戻ってきた。


怜奈はもう、ヒーローみたいだった。

女の子だからヒロイン?

ううん、ヒーローって言葉が怜奈にはぴったり。

誰のって、私の中のヒーローだ。


みんなが怜奈のことを見直して、怜奈は少しずつみんなから受け入れられるようになった。

良かった。
やっと怜奈の良さをみんなが受け入れ始めた。

だけど、そう思ってたのは5年生まで。


5年生でクラス替えがあって、怜奈のヒーロー伝説は途絶えてしまった。

私は怜奈と同じクラス。

類もいっしょで、怜奈はいつも類のそばにいるようになった。

あずみが違うクラスになったのが大きかった。

怜奈は類といっしょにいることが多くなった。

うん、やっぱりよく似合う。

二人いっしょにいるのを、私は遠くから映画でも見るみたいにうっとりと眺めてた。


6年生までは。


6年生になってまたクラスが変わって、類はまたあずみといっしょ。

怜奈はもちろんだったろうけど、私だって不満だった。

なんで類の隣にいるのが怜奈じゃないんだろうって。


あずみのことが嫌いだったわけじゃない。


そうだな…きっと、私は怜奈のファンだったのかも。


みんながそうだったように、きっと私の中にも、誰とも違う特別な存在になりたい気持ちがあった。


ただ、みんなと違ったのは私は怜奈に自分を重ねてたこと。

私にはできない、私にはなれないものに、怜奈にはなってほしかった。



怜奈は、私の希望だったんだ。


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