第2話 白花の巫女

文字数 2,479文字

「なんか、しょぼい神社。パワースポットって言うより、

心霊スポットの間違いじゃない」

 白花神社の境内に到着するなり、かりんが不満を爆発させた。

地元に住んでおきながら、驚いたことに、参拝するのが初めてらしい。

「市のHPによると、歴史ある神社らしいよ。

社務所で聞けば、良い話が聞けるかもしれない」

 わたしは強引に、かりんを社務所の前まで連れて行った。

社務所の中から何か人の声が聞こえたため、

入ることをためらっていると、拝殿の方から、

巫女舞の音色が風に乗って聞こえて来た。

「てきとうに、話を聞いておいて。むこう、見て来る」

 あろうことか、かりんは、わたしをその場に残すと、どこかへ行ってしまった。

社務所のドアをノックすると、

「何か用? あんた、たしか、隣のクラスの女だよな? 」

 という声が聞こえて、社務所の裏から、見覚えのある男子が出て来た。

「うん。え、もしかして、ここって、久遠君の神社なんですか? 」

 わたしは驚きのあまり声を上げた。

「なに、なに」

 するとそこへ、どこかへ行ったはずのかりんが、

わたしの声につられてやって来て、

「久遠武彦のお父さんが、神主を務める神社があるというのは本当だったんだ」

 と言い、なぜか、久遠君のまわりを1周した。

「初対面のくせに、フルネームで呼び捨てとは失礼な奴だな」

 久遠君がぶっきらぼうに言った。

「わたしは、C組の花澄真紘です。隣は、B組の‥‥ 」

 とわたしが言いかけたところで、かりんが、

わたしを押しのけるように前に出てきて、

「かりんで良いわよ」

 とだけ言うと、急に、興味を失ったらしくお守りを見に行った。

「あの子とともだち? 」

 久遠君が訊ねた。

「違います! 同じ部活だってだけです。

あの、この神社について取材させていただけますか? 」

 私は緊張気味に言った。これでも、わたしにしてはがんばったつもり。

だって、目の前にいるのは、わたしが入学してから、

ずっと、片思いしていた相手なんだから。

「いいよ。何が聞きたい? 」

 久遠君が近くにあった木製のベンチに腰を下ろすと言った。

「縁結びの御利益があるって本当ですか? 

それにまつわる伝説があると聞いたんですけど」

 私はあわてて、カバンの中を探ると、メモ帳を取り出した。

「ああ、あれ。どうだろう? 知らねえ」

 久遠君が天を仰ぐと答えた。

「え、でも‥‥ 」

「何? だいたい、同じ年なのに、敬語ってどうなの? 」

「一応、取材側ですし、そちらは‥‥ 」

「あっそ。なんなら、舞でも見て帰りなよ。10分後には始まるからさ」

 急展開! 久遠君のエスコートで、

ふだんは、御祈祷するお客さんしか出入りできない館に、

それも、関係者入口から御入場と相成ったわたしは心臓バクバク状態で、

どこをどう歩いたのか覚えていないほど、緊張しまくった。

ちょうど、拝殿の裏側にあたる場所に到着したころには、

わきの下や首筋に汗がべたついた。

「今から舞うのは、そこに書いてある伝説の舞だ」

 久遠君が、わたしが両手で持っていたメモ帳をのぞき込むと言った。

「そうなんですかあ」

 わたしは小声で言った。

巫女の舞う姿は、今まで、何度か、見たことがあるけど、

裏側から眺めるのは初めてのことだ。

巫女の中にも、ひときわ、目立つ美女に気づいたわたしは急に不安を感じた。

あれ、誰と正直、聞いてみたかったが、最悪な状況を想像してやめた。

なのに、なのに。なぜか、舞が終わるころに、

その美女が小走りで近づいて来るではないか?

どう見ても、2人は親しい間柄だ。

「その子、誰? 」

 会話が途切れた途端、その美女が、わたしに興味を示した。

「同じ学年の。誰だったっけ? 」

 久遠君が、わたしの方をふり返ると言った。

「花澄です」

 わたしは、嫌なきもちを味わいながらも声を押し出した。

「だって。じゃあ」

 あろうことか、久遠君は逃げるようにして、その場から颯爽と立ち去った。

「え、あの。ウッソー」

 わたしが右往左往しているところへ、かりんが姿を見せた。

「ずるい。そんなところにいたんだ。もう、終わったの? 」

 かりんがそう言った後、美女に気づいてわたしの後ろに隠れた。

「終わってない! 」

 わたしはムカッときて言った。

収穫なしで終わるわけには行かない。

とりあえず、今日のところは出直すことにした。

神社近くの駐輪場へ行った時だった。

背後に人の気配を感じて、おそるおそるふり返ると、

美女の巫女が仁王立ちしていた。

「何か用? 」

 わたしがそう訊ねると、かりんが驚いた様子で戻って来た。

「言っておくけど、白花神社に嫁ぐのはこのわたしだから」

 その美女の巫女はそう言い放つと踵を返した。

「え、どういう意味? 」

 わたしより先に、かりんが訊ねた。

「あなたのこと知っている。3丁目の花澄さんでしょ?

わたし、同学年の星花ゆきえっていうの。

武彦君の許嫁です。もう来ないで」

 ゆきえというのか‥‥ 黒い長い髪をなびかせた少女にはお似合いの名前だと、

ぼ~っとなっているわたしをよそに、かりんが急に態度を変えた。

「もしかして、星花先輩の妹さんですか? わたし、1年の早乙女かりんです」

 かりんが上目遣いで言った。この切り替えの早さ、なんかこわい。

「花澄真紘さん。あなたの噂はかねがね、兄から伺っています。

今度、うちの店にいらしてください。

その時にでも、白花神社についてお話しますわ」

 ゆきえがそう言った後、不敵な笑みを浮かべた。

「はあ? 」

 わたしは思わず間の抜けた返事をした。

「わかったわ。明日の午後にでも伺います。ね? 」

 かりんが急に、ともだちづらして、私に聞いて来た。

「そう、わかったわ。明日の午後、お待ちしていますわ」

 ゆきえはそう言うと、自転車を引いて坂道を下って行った。

「ちょっと、勝手に決めないでよ」

 わたしが言った。

「星花カフェでしょ? わたし知っています。なぜって、常連だから」

 かりんが自慢気に言った。

星花カフェ? そんな名前のカフェなんて町内に存在した?

「あくまでも取材だからね」

 わたしがそう念を押すと、OKですと言って、

かりんが、わたしを追い越して行った。

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