第3話 ライバルとともだちになれる?

文字数 2,109文字

 「星花カフェ」は、駅近の路地裏にひっそりとたたずんでいる。

表通りから隠れているため、日中でも、人通りが少なめで気づかれにくい。

「こんなところに、カフェがあったんだ」

 私が言った。最寄り駅はしょっちゅう利用するが、

路地裏まで探検しようとは思わなかった。

下町の駅前商店街には似つかわしいメルヘンチックな外観。

カフェの上が住居スペースになっているらしい。

「隠れ家的雰囲気がまた良いんですよ。

どうして、光彦先輩、自分のうちが経営しているカフェがあるのに、

他の店でアルバイトしているんでしょうかね? 」

 かりんが店内を見渡すと言った。

「メルヘンって、光彦先輩のイメージじゃないじゃん」

 わたしが言った。

光彦先輩はどちらかと言うと、おしゃれ男子のイメージだからなのかなと思った。

ドアを開けると、チャイムが鳴った。

店内には、レトロ調のテーブルとソファが4客ずつあり、

カウンターの奥で、ジェントルマン風のマスターが、

サイフォンでコーヒーを入れているのが見えた。

「いらっしゃいませ」

 私たちが、マスターの近くに腰を下ろすと、

美魔女風のウェートレスが注文を取りに来た。

「あの、わたしたち、星花ゆきえさんに会いに来たんですけど‥‥ 」

 私がそう話を切り出すと、そのウェートレスが

「ちょっと待ってね」と告げて店の奥へと消えた。

その後、ウェートレスと入れ替わりに、ゆきえが店内に姿を見せた。

「店の2階が自宅なの」

 ゆきえがそう言うと、わたしたちを店の外へ追いやった。

 そして、わたしたちは、ゆきえの案内で、店の2階にある自宅を訪れた。

2階の住居スペースには、ゆきえ一家とゆきえの祖母が住んでいるという。

「日中は、両親共働きだから誰もいないってわけ」

 ゆきえが、対面式キッチンから身を乗り出すと言った。

 案内されたゆきえの部屋に入るなり、かりんが窓の外をのぞき込んだ。

窓の外には、風に吹かれてはためく青色のカーテンが見えた。

掃除機の音が聞こえるところからすると、隣の家は掃除中なのだろうと思った。

「お隣には、どんな人が住んでいるのですか? 」

 かりんが前のめりの姿勢で、ゆきえに訊ねた。

「武彦君の家よ」

 ゆきえがこれ見よがしに、わたしの方を見ると答えた。

(え、もしかして、青色のカーテンの部屋は、久遠君の部屋ってこと? )

「へえ~。神社の敷地内に家があるわけじゃないんだ」

 わたしが言った。

「実は、わたしたち、これに応募しようとしているんです」

 その直後、かりんが、「市主催の新聞コンテスト」の

チラシをテーブルの上に置くと言った。

「町おこしの一環って何? 」

 ゆきえがチラシを食い入るように眺めると、つっけんどんに訊ねた。

「え? 」

 わたしは答えに困った。

正直言って、町おこしに興味があるわけじゃない。

ただ、単に、受賞して「白花タイムズ」の名を上げたいだけなのだ。

「答えられないってわけね。いいわ。ちょっと待って」

 ゆきえはそう言うと、机の引き出しを開けてリーフレットを取り出した。

「何これ? 」

 わたしは、そのリーフレットを手に取ると訊ねた。

「白花神社に置いてあるリーフレットよ。参考にするといいわ」

 ゆきえが、わたしにそのリーフレットを手渡すと言った。

そのリーフレットには、白花神社の年間行事の他に、

神社創建にまつわるエピソードが載っていた。

「いいですね。これ」

 かりんが横からリーフレットをのぞき込むと、白花伝説の欄を指さした。

「白花伝説」

江戸時代後期。白花町が郷だったころ、

庄屋の白花家は、代々、当主が早死にするという呪縛に悩まされていた。

白花家には、跡継ぎとなる男子がいないため、

跡を継がせるためには、婿を迎え入れなければならない。

一人娘のゆきが年頃になると、当主の彦左衛門は、

親戚縁者の中から婿を選ぶことにした。

ところが、ゆきの相手になりそうな青年が見つからなかった。

そんなある日。ゆきが結婚したい人がいると、

遠い村に住む青年を家に連れて来た。

その青年の両親はすでに他界しており、親戚とも疎遠だという。

よそものならば、呪縛から解放されるのではないかと言う

大婆様の助言を受けた彦左衛門は、

その青年をゆきの婿に迎えることに決めたのだった。

祝言の前夜。庄屋の屋敷に強盗が入り、

彦左衛門が、何者かの手により殺されてしまった。

近所の人たちの間では、よそものがあやしいのではないかと噂になった。

よそものであるゆきの恋人がなぜか、彦左衛門殺しの下手人にされてしまった。

それは、2人の結婚を快く思わない親戚の差し金だった。気づいたころには時遅し。

ゆきの恋人は、たいした証拠もないまま処刑を申し渡された。

恋人の無実を信じるゆきは、もしも、夏の今に降るはずのない雪が降ったら、

死刑を取りやめてくださいと代官所に嘆願書を出した。

死刑執行の朝、驚いたことに、天から雪が舞い降りて来た。

奇跡を起こしたとして、ゆきの恋人は死刑を免れた。

それからしばらくして、、彦左衛門殺しの真犯人が見つかったことから、

冤罪だったとして、2人はめでたく結婚して、末永く幸せに暮らした。

その神話にちなんで、庄屋の屋敷跡に建てられた神社の境内には、

雪にちなんだ白い花が植えられた。








 






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