第11話 電光石火

文字数 1,315文字

「記事を書くためには取材が大事だろ? だから、関係者を呼んだ」

 光彦先輩が告げた。

「記事って、I・Iの? 」

 久遠君が、わたしたちに歩み寄ると訊ねた。

「いったい、なんのこと? 偶然じゃないの? 」

 岩波さんがふしぎそうな顔で言った。

「あんたが時々、ここに来ることは知っていた。

あんたなら、I・Iの正体を知っているはずだと思ってね。

ぜひとも、教えてくれないか? 」

 光彦先輩が、岩波さんに詰め寄ると言った。

「正体をオレが知っている? どうして、そう思うんだい? 」

 岩波さんが、光彦先輩を横目で見ると言い返した。

「悪いけど、あんたが、白花神社にこだわる意味がずっとわからなかった。

だけど、I・Iが、岩波伊佐武だとわかって魂胆が見えた気がするわけさ」

 光彦先輩がカウンターに寄りかかると言った。

「魂胆ってなんだい? 昔から、あの神社が好きなだけだ。

それに、岩波伊佐武がなんだって言うんだい? 」

 岩波さんが気分を害したように言った。

「やっぱり、知っていたか‥‥ 」

 光彦先輩が言った。

「そのへんでやめなさい。寿彦君が困っているだろ。

どうして、パパに聞かないんだ? 」

 買い出しから戻ったマスターが飛んできた。

「教えてください。岩波伊佐武さんは、

久遠君のお父さんなんですか? 」

 わたしが、マスターに訊ねた。

「そのとおりだ。武彦君のお父さんは、寿彦君のお父さんの弟にあたる」

 マスターが答えた。

「じゃあ、この人と、いとこだってことですか? 」

 久遠君が、岩波さんを指さすと言った。

「だから何? 」

 岩波さんがそう言うと、コーヒーを口にした。

「なにって、もしかして、神社を継ぎたいんですか? 」

 久遠君が、岩波さんに訊ねた。

「へ? 君が継ぐんじゃないの? 」

 岩波さんが答えた。

「おやじが、結婚するために夢をあきらめた?

今のおやじからは想像できない。

休みの日はTV見ながらゴロゴロしているだけで、

芸術なんて、まったく、興味なさそうだぜ」

 久遠君が神妙な面持ちで言った。

その時、カウンターの奥から、ゆきえが姿を現した。

「武彦君。夢をあきらめる必要はないわ」

 ゆきえが告げた。

「はあ? 」

 久遠君があきれ顔で言った。

「わたしと結婚すれば、あなたは好きなことが続けられる」

 ゆきえが自信たっぷりに宣言した。

「何も、幼馴染だからといって、結婚する必要なんてないだろ? 」

 マスターが苦笑いすると言った。

「おまえなあ。冗談はよせ」

 光彦先輩が、ゆきえを制止しようとしたその時だった。

久遠君が、わたしの腕を強引につかむと店の外へと連れ出した。

「いったい、どうしたの? 」

 わたしが訊ねた。

「おまえにだけは誤解されたくないと思ったから‥‥ 」

 久遠君が答えた。

「え? 」

 わたしは思わず、顔から火が出そうになった。

「何か言えよ! 」

 久遠君がぶっきらぼうに言った。

「久遠君は写真を撮るのが好きなんだよね?

別に、夢をあきらめる必要はないと思う。

写真家の神主になってもいいんじゃないかな」

 わたしがそう言うと、久遠君が何を思ったか、

わたしのからだをグイっと自分の方へひき寄せた。

「おまえならそう言うと思っていた」

 久遠君が、わたしを胸に抱きよせると告げた。






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