第12話 六月雪

文字数 1,082文字

  わたしが応募した「校舎裏にある銅像の作者をさがせ!」という特集記事を組んだ

学校新聞がなんと、優秀賞を受賞した。

受賞作品が、市役所の1Fロビーで公開されると知り

わたしは、久遠君を誘って見に出かけた。

あれ以来、久遠君とは、友だち以上恋人未満みたいな雰囲気になっている。

「おまえ、わりと、文章力あるじゃん」

 久遠君が言った。

「そうかな」

 わたしはほめられてうれしいと同時に、はずかしさが込み上げた。

 その帰り道。わたしたちは、図書館に寄り道した。

「あの記事いいね」

 岩波さんが、わたしに気づくと近寄って来た。

どうやら、岩波さんも、取材記事のことを気にしていた様子だ。

「ありがとうございます」

 わたしがお礼を言うと、久遠君が、

「あたりまえだろ。あれ、うちのおやじのことだから」と

ぶっきらぼうに言った。

「そろそろ、白い花が満開になるころだね。

ひさしぶりに、神社に行こうかな」

 岩波さんがぼそっとつぶやいた。

「あのあと、おやじからいろいろと聞いた。

どうして、いとこ同士なのに、今まで、つきあいがなかったんだろうね」

 久遠君が、岩波さんに言った。

「うちは、親がどちらとも早死にしているし、

僕も、海外にいることが多かったから仕方がないさ」

 岩波さんが穏やかに微笑むと言った。


 翌日の午後。白花神社へ行くと、岩波さんが言っていた通り、

境内の隅に咲いていた白い花が満開の時期を迎えていた。

「なんだ、来てたの」

 巫女姿のゆきえが歩いて来るのが見えた。

「毎年、この時期、花を咲かせているなんて今まで、知りませんでした」

 わたしが言った。

「この花は、白丁花という花。別名六月雪というの。

まるで、雪が降り積もったみたいに見えるかららしいわ。

白い花伝説にちなんで、今年から、岩波さんたちが中心となって、

白い花を奉納すると恋愛にご利益があるというイベントをやることが決まったの。

あなたの受賞が、そのイベントを盛り上げるのに一役買ったことになるわ。

お礼を言います。ありがとう」

 ゆきえが頭を下げると言った。

 ゆきえの話によると、ジューンブライドという言葉もあるし、

「六月雪」というネーミングが素敵だというので庭に植える人が多いという。

「それはどうも」

 そう言い返したわたしのすぐ横を、近所の花屋から買ったと思われる

一輪の白い花を手にした女の子たちが

楽しそうにおしゃべりをしながら歩き通り過ぎた。

「あのふたり。なんか、最近、急接近しているのよ。

まるで、実の兄弟みたい」

 ゆきえが遠い目で言った。

ゆきえの視線の先には、イベント台の前に立っていた岩波さんに

話しかけている久遠君の姿が見てとれた。

おわり

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