第6話 おもわぬアクシデント

文字数 1,614文字

  わたしたちが待つレストランへ向かうため、

祖父が横断歩道を渡ろうとしたその時、

信号無視の車が、横断歩道に突っ込んで来た。

その直前、偶然、居合わせた青年が道を聞いてきたことから、

祖父は足止めを食らうことになり、交通事故に巻き込まれずに済んだという。

「ふしぎなことがあるものですね」

 それを聞いた父親が真っ先に言った。

「もし、あのまま、渡っていたら、命はなかっただろうねえ」

 祖父が咳払いすると言った。

「ケガもしていないというのに、どうしてまた、病院に運ばれたんですか? 」

 母親が、祖父に訊ねた。

「はずかしながら、驚いて、その場で尻もちをついたわけさ。

特に、痛かったわけじゃないが、念のためだそうだ」

 祖父が苦笑いすると答えた。

「高齢者の中には、骨がもろくなっていて、

ちょっとした転倒でも骨折する人もいますから」

 どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえた。

「誰かと思えば、寿彦君じゃないか! 」

 父親が長椅子から立ち上がると言った。

驚いたことに、祖父の危機一髪を救った命の恩人は、岩波さんだった。

「おひさしぶりです」

 岩波さんが穏やかに告げた。

「父を助けてくれたのは君だったか。ありがとう」

 父親が、岩波さんに握手を求めると言った。

「ありがとうございました」

 父親の横にいた母親が、岩波さんに頭を下げたため、わたしもつられて頭を下げた。

 その後、レントゲンの結果、異状なしだったことから帰宅の許可が出た。

 翌朝。偶然、久遠君とろうかですれ違った。

「おはよう」

 すれ違いざまに、久遠君があいさつしてきた。

「え? 」

 わたしはとまどいを隠せなかった。不意打ちに、言葉が出て来ない。

「おい、あいさつしたのに無視するつもりか? 」

 久遠君が、わたしの前に立ちはだかると真顔で言って来た。

(わあ、距離が近すぎて、まともに、顔を見れない! )

「おはようございます」

 わたしはなんとかあいさつした。突然の出来事に、心臓が飛び出しそうだ。

「おまえ、写真撮るのへたそうだからやる。うちの神社の記事に使え」

 久遠君が、わたしに写真が数枚入った封筒を手渡した。

それは、白花神社の四季の情景を映した写真だった。

「ありがとうございます」

 お礼を告げた時には、すでに、久遠君の姿は遠ざかっていた。

(え、どういうこと? )

 その日の放課後。わたしは、久遠君からもらった写真を眺めていた。

どれも、よく撮れている。見とれているところに、かりんがやって来た。

「それ、おととしのフォトコンテストで入賞した作品ですよ」

 かりんが横からのぞき込むと言った。

「誰が写したか知っている? 」

 わたしが訊ねた。

「撮影者に、久遠武彦って書いてありました。

どうして、それを? 」

 かりんが身を乗り出すと言った。

「本人が、記事に使えとくれた」

 わたしが答えた。

「それって、好きってことじゃないですか? 」

 かりんが言った。

「良い記事を書いてもらいたいからじゃないの」

 わたしが否定した。

「そうですかあ? 」

 かりんがつまらなそうに言った。

その時、ドアが開いて、光彦先輩が入って来た。

「白花神社の記事はボツ。他にしなさい」

 光彦先輩が、わたしたちに向かって告げた。

「それは、いったい、どういうことですか? 」

 かりんが、光彦先輩に訊ねた。

「大人の事情だ」

 光彦先輩がそう制すと、他の部員の方へ行ってしまった。

「大人の事情ってなんですか? 」

 かりんが首をかしげると言った。

(わたしだって知りたい。だけど、聞きずらい) 

 その日の学校帰り。わたしは図書館へ向かっていた。

案の定、閉館時刻に間に合わなかった。返却口に借りた本を入れていると、

裏の方から、岩波さんが歩いて来るのが見えた。

「やっぱり、君だったか」

 岩波さんが言った。

「あの。どうして、白花神社について調べているんですか? 」

 わたしは思い切って訊ねた。

「白花神社に伝わる呪縛の謎を解きたいからさ」

 岩波さんが答えた。



 

 







 























ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み