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文字数 1,128文字

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 県主催の絵画の展覧会の常連。
 展覧会に行けば、必ず、描いた絵が展示されている。
 女子高生アーティストって肩書は伊達じゃない。

 それが……ありあ先輩。

 瞬間的に意識が飛んで、ありあ先輩のことを思い出した。
 藁人形のように釘で刺されたまま、ボクはエネルギーを吸い取られ続け、出血は止まらず、激痛が走っている。
 ボクは、魔法少女だ。
 にゃーこ会長も、ありあ先輩も、大槻弥生も、魔法少女だ。
 各々が自分の過去が生み出した〈見えない魔物〉と戦っている。
 見えない魔物は〈聞こえる〉ことがその特徴だ。
 自分の相手になる魔物は、ほかの魔法少女が生み出した〈幻獣〉と違い、〈見えない〉。
 見えずに、その〈虚妄空間〉のみがもやもやと具現化する。
〈虚妄空間〉の内部で、魔物の〈声〉は大きく反響し、魔法少女にダメージを与える。
 ありあ先輩は、なにをキャンパスに『描いていた』のであろうか。
 見えないものを見ようとして、その美術スキルを上達させていったのではないか。
 ボクはダメだ。
 全く、漫画化できていない。
 一枚の紙の中に『閉じ込め』ることができないでいる。

 あの夏の日、残像の中で弥生は「アンタはネズミに噛まれてすべてを奪われる」と、確かにそう言った。

 そのネズミとはなんだったのか。

 もしかしたら今、ボクは『ネズミ捕り』の中にいるのではないか。
 いながらにして、木乃伊取りが木乃伊になるという言葉そのものになったのでは。
 だが、ボクの血をすするのは、この〈虚妄防疫隔離室〉だった。
 釘を刺されることがネズミに噛まれることで、魔法少女の血が吸い取られていく。


 想像力の足りないボクは、この現実を殺せない。


 ボク自体がだんだんと〈幻獣〉の元になる〈呪物〉と化していく。
 一度、ボクは〈魔法少女〉として新生することで〈呪物〉というエネルギー体になるのを避けられた。
 だが、もうダメだろう、今回は。
 諦念に包まれる。


「まりん。ストーリーっていうのはね、『なにを描くか』じゃなくて『なにを描かないか』なのよ」
 意識の遠くでありあ先輩がボクに創作のアドバイスをくれる。
 いつものように。
 普段の、あの部室内での日常のように。
「でもそれは『描きづらいものを書かない』という意味ではないの。誰だって描きたくない恥部はあるわ。でも、恥部であるという理由で『描かない』のは間違いよ」
 自分の……恥部。
 もちろん体の部位のことじゃなくて、精神的な……いや、身体のことを指す場合もあるか……。


 ボクは考えなければならない。
 この現実を殺す方法を。



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