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文字数 964文字

 遠くへと霞んで消えていく電車の姿を見つめながら、ホームにただ、立ち尽くしていた。人込みでごった返しており、たくさんの頭で溢れ返っている。その光景を、何度も目にしてきた。幾多の人生を確かめてきた。
 首にはマフラーを巻き、クリーム色のコートを身に付けたまま。
 私の時間は二年前から止まったままだ。その光景を、何度も思い出してしまった。
 何故こんなにも、彼を求めているのに、引き留められなかったのだろう?
 電車の中は満員だった。どこか、憂鬱な顔が密集している。忙しい毎日が私の瞳に焼き付く。
 彼が迎えに来てくれる、といつまでも信じていた。だから、彼と似た人を見かける度に、ベンチから立ち上がった。でも、すぐに人違いだと気付き、再び座り込んでしまう。
 いつまでベンチに座っていれば、良いのだろう?
 このホームで、ずっと時間を止めていた。本当にどこにも足を踏み出せなくなってしまった。

 でも、その日は違った。
 朝からひどい雨が降っており、こんな寒気が漂う冬に、さらに雨だなんて、本当に気の毒だった。
 マフラーに吹きかかる吐息は皆、白かった。
 腕時計を見た。日付は一月二十五日……彼と別れた日だ。
 彼の姿を探し、悉く裏切られた。振り向く人はいなかった。それは、そうだ。私の姿など、見えないからだ。
 誰かが階段を下りてくる足音が聞こえた。まっすぐ前を見据え、近づいてくる。そしてその人がふと、私へと振り向いた。

 その顔にそっと笑みが浮かんだ。

 私の目前へと歩いてきて、そっと微笑み、言った。
「私はもう、後悔なんか、してないよ。また一緒に歩き出そうか」
 その人は他ならぬ、私自身だった。
 視界がすっと白く掻き消えた。次第にその人に吸い込まれていく。今、私達は一つになるのだ。

 *

 ベンチを見下ろし、あの日の記憶を思い返した。
 ここに来る勇気はずっと出なかった。でも、過去のトラウマを捨て去ろう、と決めた。
 昔のトラウマを引き摺っていても、仕方がない。きっとまた、新しい何かが待ってる。そう、信じている。
 あの日の『後悔』を拾い集める為に、ここまで来た。新しい道を歩もう、ともう決めた。そのまま電車に乗り込み、新たな人生に一歩を踏み出した。
 本当のホームに戻ってきた気がした。

 了
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