日の出

文字数 662文字

 どうしてこんなにも、遅くなってしまったんだろう?
 半ば自棄糞になりながら、徐々に明るくなってきた辺りの景色を見回し、逸る気持ちを抑えて、階段を上がる。自宅の周りには鬱蒼とした雑木林が広がっていた。階段を上がると海へと出るようになっていた。そして一気に視界が開け、朝陽を拝める。
 初日の出はもう、昇ってしまった後だろうか? 正月が来るまで、心からそれを楽しみにしていた。それは無尽蔵な感情のように浮き立つ興奮のようだった。
 昨夜、年越しのライブを見たのがいけなかったのだろうか? こんな遅くまで、寝入ってしまった。何故、こんなつまらないミスばかり犯してしまうんだろう、と唇を噛んだ。
 所詮、僕にはどこにも行くことなど、できないのかもしれなかった。昨年の憂鬱を思い出し、僕はぐっと拳を握った。口の中にはまだ、苦い味が残っていた。一段一段上がる度に、その苦さが増していった。
 憂鬱が降り積もって、その瞬間に、丘の上へと辿り着いた。
 すると――。

 憂鬱は唯一の幸せへと昇華した。
 爽やかな風が吹き抜けて、僕の前髪が浮き上がった。そこから一斉に海が見渡せ、朝陽が赤くぎらぎらと輝いていた。
 突然、この世に生まれ出た命のように、魂の息吹に溢れた景色だ。僕の心の中が膨らんでいき、その瞬間に弾け飛んで、果てしない透明感が心を澄み渡らせた。
 頬が緩み、ふと僕の頭上を一羽の鳥が飛び去った。それは僕の枷を叩き壊し、海原の彼方へと消えていった。
 また、新しい一年が始まる。僕の足先がスタートラインを踏み越える。

 了
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