泡沫のドライブ

文字数 369文字

 私はふと雨の音に気付いて、目を覚ました。視線を横へと向けると、そこには、彼の穏やかな笑顔があった。彼はハンドルを握ったまま、湾岸線を進み続けていたけれどこちらへとふと振り返り、唇を柔らかく微笑ませてみせた。
「ぐっすり、眠っていたね。もう少し先までドライブしようか?」
 彼の言葉に、私はうなずいてみせて、もう一度シートに身をもたせかける。するとまた、心地良い脱力感に襲われてきた。
 今の夢は、どんなものだった? そして、これから見る夢はどんなものだ?
「まだ眠ってていいよ。後で起こすから」
 彼にそう囁きかけられて、私は自然と瞼を閉じてしまう。白い靄に体を放り込まれて、物語の泉へと吸い込まれていった。そこに再現されるドラマは誰かの涙、誰かの笑顔、誰かの人生そのものだった。
 やはり、湾岸線のドライブは、誰かの夢を私に見させた。
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