顔見知りな異形の者たち
文字数 1,616文字
シュババババッ……
闇の中から聞こえる、何者かが走って来るような足音。
リーダーの少年が手に持つ懐中電灯の明かりで、闇の中を照らす。
今回もまた子供達がよく知った、学校で非常勤講師を務めている『人体解剖模型先生』だった。
彼が自らの体を使って教える人体に関する授業は、分かりやすいと子供達にも評判がいい。
しかしスケルトンと同様に、タックルされてバラバラになったところを、子供達には逃げられてしまう。
ふっフフフ……
こちらも、学校の近所によく出没する口裂け女さん。
こちらの世界に、見た目が派手な異世界人がやって来るようになってからは、すっかりただのご近所さん扱いされてしまっている。
異世界からやって来た異形の者達を見慣れて育った子供達世代にとっては、彼らはまったく恐怖の対象ではなかった。
よく知っている近所のおじさん、おばさんに、夜中に学校で出会った程度に過ぎない。
それでは、肝試しに何を求めているのか?
そういう話にもなるが、この世代の子供達にとっては、肝試しはもはや概念なのかもしれない。
そうこうしている内に子供達は、自分たちにも無意識の内に、学校の屋上へとやって来ていた。
リーダーの少年は手に持つ懐中電灯の明かりで、闇の中を照らす。
そこに居たのは、サキュバスの娘、ヤルヤン。
これまで出会った異形の者たちからすれば、はるかに可愛いらしい、普通の女の子に見える筈なのだが。
…………
互いに顔を見合わせ、知らない人だと確認する子供達。
きゃぁぁぁぁぁっ!!
そして、子供達はみな一斉に悲鳴を上げた。
今まで顔見知りばかりで、悲鳴を上げる機会がなかった子供達は、ここぞとばかりに悲鳴を上げて騒いでいる。
今の時代においては、見知らぬ人が一番コワいということなのか。
それとも、ただ単に騒ぎたかっただけなのかもしれない。
それが彼らにとっての肝試しということなのだろう。
ヤルヤンがそう言った時には、子供達はもうすでに屋上へと出てしまっていた。
空に浮かび上がる魔法陣の紋様、その中から現れて来る多数のゾンビ達。
……そして、一人の子供の姿。
その見た目は幼女ではあるが、悪魔と同じく、異世界からこの世界に数多のゾンビを召喚出来るだけの、強大な力を持つネクロマンサー。
この世界の子供達を、無意識下の内に操り、ここまでやって来させたのもまた、彼女の計画通りであった。
子供達は、この屋上に出た時から、悲鳴を上げる暇さえ無く、精神を操られて、すでに完全に支配下に置かれてしまっている。