法で裁けぬ者

文字数 2,262文字

いつもの喫茶『カミスギ』に戻って来た愛倫(アイリン)と慎之介。

――しかし、あれは……

愛倫(アイリン)はずっと、あのドス黒く腐った魂の欠片、残留思念のことが気になっていた。

――こちらの世界では珍しいぐらいに

腐って熟成された魂……
あの死神は捕まりますかね?
考えごとをしていた愛倫(アイリン)に、慎之介は尋ねる。
いや、間違いなく無理だろうね
あんな一瞬で消えるような相手

こちらの人間じゃあ、捕まえようもないだろうさ

ちょうど愛倫(アイリン)にも、尋ねてみたい疑問があった。

もし仮に捕まえたとして……
その場合どうなるんだい?
うーん、どうでしょうね
なにせ相手は神様ですから

人間の法律を適用するという訳にはいかないでしょうし

人間が、人間の法で裁けるような相手はありませんから

法で裁けぬ者、ということになりますかね
――法で裁けぬ者

慎之介のその言葉と、ずっと気になっていた腐った魂が、愛倫(アイリン)の中でつながる。

あぁ……そうか……
そういうことかい……
慎さん、すまないんだけどね

被害者のことを、もっと詳しく知りたいんだど、何とかならないかね?

生前どんな人間だったとか、出来るだけ詳細に

分かりました、警察に交渉してみます

しかし、管轄が違いますので、こちらに何処まで情報を回してもらえるかは分かりませんが……

人間の組織ってのも、随分と、面倒なもんだね
こういうのをあれだろ?
お役所仕事って言うんだろ?
いやぁ、面目ない
頭を掻きながら苦笑する慎之介。

そういうことであれば、拙者にお任せでござるよ

上の方から声がしたかと思うと、天井がパカっと開いて、ニンジャマスターが降りて来た。

(シュタッ)

あんた、勝手に天井に出入り口つくるの、やめてもらえるかい?

大丈夫でござるよ
店主殿にも、了解をいただいているでござる
アウッ……

今迄何処に居たのか、全くその気配すら感じさせなかった店長(マスター)が、カウンターの奥で、親指を立ててサムズアップしてみせている。

いや、なら、いいけどさぁ
いや、まぁ、でも

手伝ってもらえるなら助かるよ、ニンジャマスター

このニンジャマスターもまた、異世界人であり、こちらの世界からすれば、逆輸入の忍者みたいなもの。

縁があって、彼もまた現在は、愛倫(アイリン)と慎之介の協力者となっている。

ちなみに、こちらの世界で鑑賞した『忍者ハットリくん』をリスペクトし、見た目も寄せて、語尾に『ござる』をつけるなどして、口調を真似ている。

ニンジャ仲間を総動員して、至急調べて来るでござるよ

ニンジャマスターは、そう言うのとほぼ同時に、忽然と二人の前から姿を消した。

 
この短期間で、すごいですね

数日後、再び喫茶『カミスギ』に集まる愛倫(アイリン)、慎之介、そしてニンジャマスター。

これぐらい、拙者達には、朝飯前でござるよ
こんなふざけた見た目だが、ニンジャマスターの能力は非常に優れている。
しかし、これは……
さすがに酷いですね……

ニンジャマスターの報告と、自分が入手した被害者の資料を照合して、愕然とする慎之介。

この世界の警察による捜査では決して知り得ないことが、ニンジャマスターの報告にはあった。

催眠やら記憶読み取りやら、異世界人ならではの手法で集めた情報が多く、その辺はニンジャマスターも慎之介に内緒にしておくしかない。

やはり、愛倫(アイリン)殿の読み通りでござったな

まぁ、あれだけ魂が腐ってるんだから

それなりにやらかしていると、思ってはいたけどね……

(一人目)

一人目の被害者は、有力政治家の息子。

悪い仲間に女を拉致させて来ては、別荘に監禁、奴隷として弄び、挙句の果てに、勢い余って殺してしまう。

その被害にあった女性が、多数いる。

しかし闇世界とも繋がりが深い父親が、息子の不始末を闇から闇へと葬り去る為、決して表沙汰になることはなく、法的に裁かれることもない。

(二人目)

二人目の被害者は、十数人の死亡者を出した連続放火事件の容疑者であるが、精神鑑定の結果、責任追及能力がないとされ、法の裁きを免れている。


(三人目)
高齢運転による操作ミスで、多数の死亡者を出したが、法学会の重鎮、いわゆる上級国民というやつで、その権威を利用して、責任追及を有耶無耶にしようとしていた。
(四人目)
(五人目)

四人目と五人目は、人身売買シンジゲートのブローカーで、世界各国を飛び回り、まだ幼い子供達を攫っては、闇のルートに売り捌いてた、いわゆる人攫い。

こちらも決して表沙汰になることはないので、警察はまだこの事実すら知らない。

(六人目)
闇バイトのサイトで、若者を募集し、強盗殺人などを行わせていた犯罪グループの中心人物。
自らが直接手を下すことはなかったが、彼の指示により、犠牲になった命は数え切れず、やはり警察は、まだその存在すら掴めてはいなかった。
被害者はみんな
今回の事件の被害者ではあるが、別の事件の加害者

そういうことになるのさ

そしていずれも、死神とは違った意味で

『法で裁けぬ者』達ばかり

まぁ、確かに、全員殺してやりたくなる気持ちも、分からなくはないんだけどね

今回の連続突然死事件、改め魂強奪事件、その真犯人の動機に確信を持つ愛倫(アイリン)

確かに、数百年前、異世界でも似たようなことがあったよ……

根本的には力が支配する世界であり、人間の法による影響力など、たかがしれていた世界だったけど……

それでも、『法で裁けぬ者』達を、力で裁いて

その時は、人間達から感謝され、まるでヒーローのように扱われていた

まぁ、こっちの世界の判断基準で言えば
『行き過ぎた正義』
私刑ってことになるのかね
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