いつもの喫茶『カミスギ』に戻って来た愛倫と慎之介。
愛倫はずっと、あのドス黒く腐った魂の欠片、残留思念のことが気になっていた。
考えごとをしていた愛倫に、慎之介は尋ねる。
ちょうど愛倫にも、尋ねてみたい疑問があった。
人間の法律を適用するという訳にはいかないでしょうし
人間が、人間の法で裁けるような相手はありませんから
慎之介のその言葉と、ずっと気になっていた腐った魂が、愛倫の中でつながる。
被害者のことを、もっと詳しく知りたいんだど、何とかならないかね?
しかし、管轄が違いますので、こちらに何処まで情報を回してもらえるかは分かりませんが……
上の方から声がしたかと思うと、天井がパカっと開いて、ニンジャマスターが降りて来た。
あんた、勝手に天井に出入り口つくるの、やめてもらえるかい?
今迄何処に居たのか、全くその気配すら感じさせなかった店長が、カウンターの奥で、親指を立ててサムズアップしてみせている。
このニンジャマスターもまた、異世界人であり、こちらの世界からすれば、逆輸入の忍者みたいなもの。
縁があって、彼もまた現在は、愛倫と慎之介の協力者となっている。
ちなみに、こちらの世界で鑑賞した『忍者ハットリくん』をリスペクトし、見た目も寄せて、語尾に『ござる』をつけるなどして、口調を真似ている。
ニンジャ仲間を総動員して、至急調べて来るでござるよ
ニンジャマスターは、そう言うのとほぼ同時に、忽然と二人の前から姿を消した。
数日後、再び喫茶『カミスギ』に集まる愛倫、慎之介、そしてニンジャマスター。
こんなふざけた見た目だが、ニンジャマスターの能力は非常に優れている。
ニンジャマスターの報告と、自分が入手した被害者の資料を照合して、愕然とする慎之介。
この世界の警察による捜査では決して知り得ないことが、ニンジャマスターの報告にはあった。
催眠やら記憶読み取りやら、異世界人ならではの手法で集めた情報が多く、その辺はニンジャマスターも慎之介に内緒にしておくしかない。
それなりにやらかしていると、思ってはいたけどね……
悪い仲間に女を拉致させて来ては、別荘に監禁、奴隷として弄び、挙句の果てに、勢い余って殺してしまう。
しかし闇世界とも繋がりが深い父親が、息子の不始末を闇から闇へと葬り去る為、決して表沙汰になることはなく、法的に裁かれることもない。
二人目の被害者は、十数人の死亡者を出した連続放火事件の容疑者であるが、精神鑑定の結果、責任追及能力がないとされ、法の裁きを免れている。
高齢運転による操作ミスで、多数の死亡者を出したが、法学会の重鎮、いわゆる上級国民というやつで、その権威を利用して、責任追及を有耶無耶にしようとしていた。
四人目と五人目は、人身売買シンジゲートのブローカーで、世界各国を飛び回り、まだ幼い子供達を攫っては、闇のルートに売り捌いてた、いわゆる人攫い。
こちらも決して表沙汰になることはないので、警察はまだこの事実すら知らない。
闇バイトのサイトで、若者を募集し、強盗殺人などを行わせていた犯罪グループの中心人物。
自らが直接手を下すことはなかったが、彼の指示により、犠牲になった命は数え切れず、やはり警察は、まだその存在すら掴めてはいなかった。
まぁ、確かに、全員殺してやりたくなる気持ちも、分からなくはないんだけどね
今回の連続突然死事件、改め魂強奪事件、その真犯人の動機に確信を持つ愛倫。
確かに、数百年前、異世界でも似たようなことがあったよ……
根本的には力が支配する世界であり、人間の法による影響力など、たかがしれていた世界だったけど……
その時は、人間達から感謝され、まるでヒーローのように扱われていた