フランケンの慟哭、悲しみの拳

文字数 2,355文字

……う、うぉぉぉぉぉっ
フランケンシュタインが振り回す拳、愛倫(アイリン)は両の掌を前に突き出し、真っ向からこれを受け止めた。

その衝撃だけで、今は廃墟と化しているこの建物全体が揺れる。

さすがの馬鹿力

あんたのフルパワーだけあるね
……う、うぉぉぉぉぉっ
フランケンはまるでやり場のない怒りと悲しみをぶつけるかのごとく、力まかせに拳を繰り出し続ける。
打ち出された拳、それが当たる寸前、愛倫(アイリン)はバックステップでやや後ろに下がり衝撃を逃しつつ、横からフランケンの手を弾き軌道を変えて逸らす。
まるで強い風を受け流す柳のように。
あんただって、分かっているんだろ?
こんなことをしても、あの人は喜ばないってことを
……う、うぉぉぉぉぉっ
別にね、死んだ人間から体の一部をもらって移植するってえのは
こちらの世界でも悪いことじゃあないんだよ
脳死した人間から、心臓や内臓、眼球なんてえのを提供してもらって、移植手術した人間も大勢居るんだ
ただね、それには
生前に、事前にドナー本人の同意がいるんだよ
そ、そんなの
ま、待てない
お、おばあちゃんには

す、すぐにでも、他の体が必要なんだ

あぁ、そうだろうね……
愛倫(アイリン)は、フランケンの拳、その一発一発を丁寧に受け止め、受け流す。
フランケンのやり場のない慟哭がおさまるまで、最後まで付き合おうと、愛倫(アイリン)は最初からそう決めていた。
完全に避けることはせずに、必ずフランケンの拳に触れながら。
ドレイン・タッチ
他人から盗む、奪うってえのが問題なんだよ
あんただって、自分が誕生した経緯に罪悪感を感じて、苦しんで来たんだろ?

愛する人に、自分と同じ苦しみを味あわせる気なのかい?

お、俺はっ、俺はっ
ど、どうしたらいいんだぁっ!?

フランケンもまた、おそらくは、エネルギーを吸われていることに気づいていたが、それでも、自らの拳を打ち続けることを止めようとはしなかった。

あの人は、肉体の束縛から解散されて、魂が自由になろうとしているんだよ

あんたには辛いだろうけど、ここは見送っておやりよ……

ええいっ!
何をしておるのじゃあっ……
こうなれば、ワシも攻撃魔法で加勢してくれるわっ!
チッ
いいところなのに
あんたは、本当に空気の読めない、お子ちゃまだねぇ

ネクロマンサー幼女の魔法攻撃をかわしながらも、フランケンの拳を受け止め続けた愛倫(アイリン)

 
……う、うぅぅぅぅぅっ
やがてフランケンは膝をつき、その場に崩れ落ちる。
愛倫(アイリン)に、エネルギーの大半を吸い取られたためだ。
お、おばあちゃん……
涙を流し、嗚咽を漏らすフランケンシュタイン。
あんたの精気を吸ったあたしには、よく分かるよ
あんたはやっぱり人間だね
獣でも、怪物でもモンスターでもないよ
クソッ、この腐れサキュバスめっ
まぁ、あんたもね
『最先端の魔術でスマートに』なんて言うなら
こんな古臭いやり方じゃなくて、もうちょっと、なんとかならなかったのかねぇ?
少しでも情報が欲しい愛倫(アイリン)はあえて、ネクロマンサー幼女を煽る。
こっちの医療だって、移植はもちろん、クローンや再生医療なんてもんがあるんだ
あんたみたいな、古いやり方の術師が、大天才を名乗ってるようじゃあ
こっちの医療に、魔術が追いつかれちまうのも、時間の問題かもしれないねえ……
なっ、何をっ!
今回は、ワシのかってのライバル
あのベクター・フランケンシュタインと同じ方法で、人造人間を再現するというのが目的だっただけじゃっ
もっとスマートな最新のやり方なら、ワシだって、いっぱい思いついておるわぁっ!
案の定、愛倫(アイリン)の挑発に乗って、ボロを出したネクロマンサー幼女。
(ベクター・フランケンシュタイン……)
(確か、もう数百年前には死んでいるはず……)
(一体、どういうことだい?)
(その頃の著名な死霊術士と言えば……)
(……まさか、ズウォーカーの一族かい?)
フンッ、余計なおしゃべりはここまでじゃ
この腐れサキュバスめっ、覚えておれよっ
次こそは、ぎゃふんと言わせてやるからな

旗色が悪くなったと見るや、ネクロマンサー幼女は捨てゼリフを吐いて、瞬間移動でその場から姿を消した。

本当に、厄介なお子ちゃまだね、まったく
……う、うぅぅぅぅぅっ
……お、おばあちゃん
しっかりおしよ

今はまだ、ここで泣いている場合じゃないんだよ

あたしが、もう一度、あの人と話をさせてあげるから
……
手遅れにならない内に、ほらっ、行くよっ
 
フランちゃん
お、おばあちゃん……
……
病院で意識不明となっているおばあちゃんの、まだその体にとどまっている魂を、誰の目にも分かるように実体化、視覚化させて、フランケンシュタインに会わせる愛倫(アイリン)
ご、ごめんね……
お、俺……な、なにもしてあげらなかった
お、おばあちゃんを……た、助けてあげられなくて
そんなことないわ
こんなにいっぱい悲しんでくれて
こんなにいっぱい泣いてくれて
こんなにいっぱい大切にしてくれて
こんなにいっぱい愛してくれた
そして、あたしの最期を看取ってくれる
あたしにはもうそんな人はいないと思っていたから
一人寂しく死んで行くものだと思っていたから
あたしの人生の最期に、フランちゃんのお嫁さんにしてもらえて
本当によかったわ
お、おばあちゃん……
大丈夫よ、いつかきっとまた天国で会えるわ
で、でも……
お、俺は、アンデッドだから……て、天国には行けないかもしれない
そ、それに……
お、俺の寿命は……あ、あとどれぐらいあるのかも分からない
も、もしかしたら……こ、このままずっと死なないのかもしれない
それでもまた……お、おばあちゃんに会えるのかな
大丈夫よ、フランちゃん
きっとまた、会えるわ
ううん、きっとまた、会いに来るから
絶対にまた必ず、フランちゃんに会いに来るわ
お、おばあちゃん……
お、俺の……お、お嫁さん
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