クソみたいなご先祖様

文字数 1,565文字

いいかい、お嬢ちゃん
あんたがあたしの術にかかってくれたおかげでね
あんたは、とんでもなく強靭な鋼鉄のメンタルを手に入れることが出来たんだ
愛倫(アイリン)の誘導により、強烈な自己暗示にかかり、隙のない強靭な鋼のメンタルと化した少女の魂。

一方、激しく動揺した際に、心の乱れ、隙を突かれたロマンジィンの魂。

両者の力関係は拮抗していた。
これまで、言いたくても言えなかった
あんたが思っていることを、思いっ切り口に出して、はき出すといいよ
……あたしは
本当に、このまま生きていてもいいの?
あぁ、もちろんだとも
そう、この世界風に言うならね
あんたには、あんたの命を生きる権利があるんだよ
素晴らしい言葉だからね
お嬢ちゃんも、嚙み締めながら、何度も口に出して言ってごらん
……あたしの命を、生きる権利
そうそう、その調子
……あたしには……あたしの命を、生きる権利がある

愛倫(アイリン)の言葉を繰り返すことによって、娘の魂の自己暗示はさらに強くなって行き、鋼のメンタルはより強固なものとなる。

そして、この言葉を何度も繰り返すことによって、ロマンジィン・ズウォーカーの言霊(ことだま)縛りを破る強い思念のこもった言霊(ことだま)にしようというのだ。
その調子で、もう一度
あたしには、あたしの命を、生きる権利がある
あたしには、あたしの命を生きる権利があるんだっ
でも……
ご先祖様の魂を犠牲にしてでも、あたしが生き残ってもいいの?
その魂の最期の葛藤に、愛倫(アイリン)はもう一押しする。
ああ、そいつはね
もうとっくの昔に、その生きる権利を使い果たしてるんだよ
なのに、他の人間から寿命を奪い続けて生きながらえてる、卑怯者に過ぎないのさ
だからね、そんな奴には、こう言ってやるといいよ
『とっとと、くたばっちまえ、このクソジジイ』
ってね
『とっとと、くたばっちまえ、このクソジジイ』?
少女の魂が、鋼のメンタルの強度を増せば増すほど、ロマンジィンの魂は追い詰められて行く。

魂の力関係、そのバランスは崩れて一気に逆転した。

ちょ、ちょっと
待て、待て、お前ら
ロマンジィンの魂は既に少女の魂と分離しはじめている。
千年以上もの長い歳月を経て蓄積された、大天才の叡智と技能じゃぞ?
それが、どれほど貴重なものか、分からぬ訳ではあるまい!?
人類の財産と言っても、過言ではないわぁっ!
それを失うということが、どれほどの損失だと思っているのだっ?
人間が神を超える、またとないチャンスなのだぞっ!?
こんなチャンスはもう二度と、無いのかもしれんのだぞっ!!
分かっておるのかっ!?
あぁ、そうかもしれないね
でもねえ、あんた

こちらの世界じゃあ、人の命より大切なものは無いって

そういうことになってるんだよ
そうだろ? 慎さん
ええ、間違いないですね
そんな、そんなのは、ただの綺麗事ではないかっ!
そんな綺麗事を真に受ける馬鹿がいるかっ!
馬鹿かっ!? お前らは馬鹿なのかっ!?
あぁ、そうだね
でもね、とんでもなく素晴らしい綺麗事じゃあないか
あたしゃね、この世界の、そういう優しいところが気に入ってるんだよっ!
人の命が軽過ぎる世界で、ずっと心を痛め続けて来た愛倫(アイリン)にとって、この世界でそれだけは絶対に譲れない。
ちょ、ちょっと、待て、待て
きょ、今日はハロウィンなのだろ?
ハロウィンってのは、先祖の霊を敬って、迎え入れる日ではないのか?
まぁ、そりゃ、仕方がないよ
あんたが、クソみたいなご先祖様だったって
ただそれだけのことなんだから
ハロウィンには不手際はないさね
いや、待て、待て
少女の魂と、ご先祖様の魂、それが完全に二つに分かれた時。
よしっ
死神の大鎌が、ロマンジィンの魂だけを、少女の肉体から切り離す。
な、なんということを!!
……
ご先祖様、ごめんなさい
それでも、私は、生きてみたいのです
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