第23話 ハルとナツ

文字数 889文字

夕暮れ時、空が茜色に染まる。後ほんの数分であっという間に太陽が沈むだろう。

2人はベランダで少し肌寒い風をその身に受けている。

美しい夕日だった。この瞬間は何もかもどうでもよくなる。

枯れ果てた孤独が埋まる。頬を伝う涙が乾く。

自分のなんとちっぽけなことか。



「ずっと聞きたかったんだけどさ」

「ん?」

「いつかの続き」

「いつかの?」

「『あの時の』という顔で言われましても」

無表情じゃないと、そんなにわかりやすいものだろうか・・・・・。
いや、きっと多分、絶対に、間違いなく違う。
もう2人には言葉なんて要らないのだ。

「・・・・・・『とりあえず』、の続きでしょうか?マドモアゼル」

「よろしい」

「・・・・・・・・いつからわたしのこと好きだった?」

「嘘ついて良ければ」

「ついてもわかるよ」

「・・・・・・はじめて目が合った時」




笑顔が咲いた。

「あの時さ、ステージの上からナツだけ輝いて見えたよ」

「・・・・・・うん」


「あ、笑った」

「ん?あれ?」

ハルが嬉しそうにしている。
そうすると、自分も嬉しくなる。




「ナツさ、わたしが太陽みたいだって言ったよね?」

「・・・・・・言ったっけ?」

「それじゃ、ナツは月じゃない?」

「んー?どのへんが?」

「月って太陽を受けて光るでしょ」

「わたしを受け止めて、夜を照らしてくれたから」

「月が光る限り、そこには必ず太陽が居るんだよ・・・・目には見えないけど」




「一緒に居たいんだ」


「・・・・・・僕もだよ」


「あ、泣いた」


涙が流れた。自然と溢れ出した。
はじめて嬉しさで、喜びで、愛しさで泣くことができた。




もうすぐ冬が終わる。

ハルが来て、ナツが来る。

これからも繰り返してゆく。

誰にとっても同じことだ。



太陽もそうだ。

この世界に生きている限り、誰もがその温もりを感じることができる。

その為には重いドアを開け、外に出なければいけない。

しかし、その一歩の価値は誰よりもあなたが知っているはずだ。





水分を取り戻し、陽の光を受けた。

乾燥したガラクタは再生する。

花が咲くように、月が輝き出すみたいに、或いは人々が目覚める朝の如く。




「まだまだこれからだよ、わたしたち」

笑っているハルの目にも、涙が浮かんでいた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

・タカハシ ナツヒコ




物語の主人公。


複雑な家庭環境で育ったせいか、暗く冴えない、陰気で孤独な男。


気がつけば鬱屈した精神を抱えたまま35歳になっていた。


偶然出会ったハルがその闇を照らす。




性別:男


物語開始時の年齢:35歳


身長:172cm


体重:65kg


血液型:B型


趣味:ギター、宅録、音楽


職業:無職→プログラマ


好きな本:悪童日記、地獄変、花のノートルダム、1984年など


好きな映画:カッコーの巣の上で、ショーシャンク、ワンダラーズなど


好きな食べ物:和食


好きな飲み物:水以外飲まない

コヒナタ ハル(小日向 陽)



物語のヒロイン。


ブレイク間近の女子高生シンガーソングライター。


文武両道、明るく社交的で学校でも人気者。


その上社長令嬢という完璧超人。


と思いきや・・・・。




性別:女


物語開始時の年齢:17歳


身長:155cm


体重:43kg


血液型:B型


趣味:写真、お菓子作り(音楽は仕事だから趣味にしない)


職業:シンガーソングライター兼女子高生→シンガーソングライター兼大学生


好きな本:ゲーテやジャンコクトーの詩集、ブライトンロック、ファッション雑誌・音楽雑誌など


好きな映画:小さな恋のメロディ、アメリなど


好きな食べ物:スパゲッティ、お好み焼き、海藻のサラダ


好きな飲み物:スポーツドリンク、白湯

・ミズタニ ケンイチ




SRJストーンレコードジャパン営業部部長。


とにかく音楽好きの音楽マニア。もとい音楽バカ。


ハルとタカハシの関係を進展させる重要な役割を果たす。




性別:男


物語開始時の年齢:50代


身長:170cm


体重:70kg


血液型:AB型


趣味:ドラム、酒


職業:SRJ営業部部長






ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み