第13話

文字数 511文字

 晴れた空の高みに、フォーミュラ1のエンジンの爆裂のような轟が起こり、その辺りが飴色に揺れて輝くと、そこから地上へと臼と杵をもった座頭市風の男女が降りてきて、二人で協力し手探りして黒焦げの死体を耐熱グローブで回収し、餅つきの要領で突き崩し粉にしはじめた。
 そこへ軍用車でやってきた軍人たち三人、車外に出てハリガネ人間と言葉を交わしたあと、座頭市風装いの男女の餅つき(餅ではないが)に合わせて手拍子をはじめた。
 オレはその意味を測りかねたが、その作業をかこんで見守る市民に動揺はないから、オレの知らぬ間に世間一般に慣習化したことらしい。オレはとにかく成り行きを見極めようとその場にとどまったが、背後からオレの肩を叩いて明らかに半グレのアクドい恰好をした二十代前半のがっしりした男が、
「奥さんが待ってるよ」とオレの耳に囁いた。
 熟女蜘蛛に会うまえ、一時間弱まえは高校生だったオレが、今ではだれかのダンナだというわけだ。世界が変化すればオレも変わるというわけか。
 半グレに案内されて道玄坂まで歩くとピンク色の蛇のような車輛が待たせてあった。
「乗ればマンションまで連れてってくれっから」とだけあっさりと云って半グレは雑踏に消えた。
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