8話 フォックスの決意
文字数 1,912文字
西暦2519年2月13日16時27分、サンパウロ郊外廃ビル屋上
「さ〜ぁて、始めますかね」
恐らくは大型ショッピングモールだったであろう廃墟の屋上に、輸送機『リバティ1』と漆黒のギア『PNG-0δ』が待機していた。
「じゃ、いつも通り作戦連絡」
勿論ユリもいる。フォックスが機体の最終調整を行う中、淡々と作戦概要のデータをコックピット内のタッチパネルに送ってゆく。
「サンパウロ旧市街区域を囲むように三者がにらみ合いを続けています。敵の規模は覚えてますか? 」
「あぁ勿論……ってどうしましたか篠田さん? 」
今回は作戦を見学したいと篠田が自ら同行を申し出ていた。珍しく丁寧口調な二人を前に色々張り詰めていたものが切れたらしい。
「あれほど仲がよろしいのに、作戦前はいつもこうなんですか? 」
「あ〜、そういう事ぉ」
質問に驚く事もなく淡々と作業を続けながらフォックスが答える。
「よく『作戦前に私情は持ち込まない、これを破れば真っ先に死んでいくもの』と昔の部下に言い聞かせていてね。実際、俺も恋人へのプロポーズ先送りにしたまま出撃して撃墜食らってますから」
よくある『この戦いが終わったら…… 』フラグが本当に存在することを証明したからこそその経験が活きるのか、とここでも彼の強さを垣間見る篠田であった。
「さて、じゃあまず先に数だけ豊富なフランス、ドイツの連合軍からいきましょうか」
そう言うと、フォックスはギアのハッチを閉め、傍らに置いてあったスナイパーライフルを構える。これも勿論、地上に放置されていた『ヨーロッパ連合軍用の』ライフルである。
「作戦開始、コントロール1はVIPのエスコートとフォロー、データ収集を頼む」
「了解」
どちらかと言えば角が多く正にロボットというような今までのギアとは違いどんな武器でもフィットするよう作られた彼のギアは、『人体』を連想させる外見である。
本来は、ヨーロッパに市場を持つ大企業『トレック・インダストリアル』社製のギアしかにか握れないはずの持ち手も、体格が合わなければ肩が破損してしまうストックの部分も完璧に適応している。改めて人体の素晴らしさが分かるだろう。
「距離7000、南西向きに風速4m…… 」
グウゥン……、という音を響かせ、銃口を調整する。輸送機内で見守る二人をよそに、ギアは引き金に手をかけた。
「……発射」
ズドォォォン!!、と炸裂音が響き、少しの間を置いて爆発の閃光が輝く。
「初弾命中、着弾補正」
「弾道解析、右に5m」
「右5m了解」
完璧な連携である。これは他の者にはなし得ない技であろう。ボルトを引きガチャ、と小気味よい音を立てながら次弾を装填し、狙いを定める。
「そういや、このギアのコードネーム決めてねぇな」
「別に良くないですか? 」
7km先の建物を狙撃しているというのに、二人は緊張の欠片も見せない。熟練のパイロットですらかなりの集中を要すこの作業を、まるで射的程度にしか思っていないらしい。
「第二射命中、他のギア格納庫らしき建物は確認できるか? 」
「今のところは認められません」
「そうか」
すると黒塗りの巨人は突如立ち上がり、ライフルをぶん投げた。
「そうだ、こいつのコードネームは『ゼロ』な、良いだろ? 」
「……了解、以降本機を『ゼロ』と呼称します」
今度はナイフやらピストルやらをかき集め、瞬く間に武装していく。先程まではスナイパーの風格を漂わせていたのに今度はまるでゲリラ兵の様に見えた。
「いつも通り、ココアを頼む」
「了解、お気をつけて」
屋上から大きく跳躍し、『ゼロ』の姿は夕日に溶けていった。
─────────────────────
ビルの屋上に取り残された二人は、ゼロから送られてくる映像を元にフォックスの足取りを立体的に再現していた。
「凄い男だな、フォックスは」
「そう?、じゃあ本気の彼はもっと凄いよ」
どうやらあの悪魔はまだまだ強くなるらしい。もしも敵ならばどれ程恐ろしい事かと想像しつつ、篠田はあることを思い出した。
「そういえば、彼の恋人は誰なんだ? 」
「知らないの?フォックスの彼女って『女帝』レオン=アリシアだよ」
その名前を聞いて篠田は驚愕した。現アメリカ軍サンパウロ基地司令、そして今回の作戦の排除目標(ターゲット)ではないか。
「じゃ、じゃあ彼は…… 」
「そ、今回はかつて戦死した戦場で元カノを殺すのが任務よ。本当に世の中って悲しいわ…… 」
「さ〜ぁて、始めますかね」
恐らくは大型ショッピングモールだったであろう廃墟の屋上に、輸送機『リバティ1』と漆黒のギア『PNG-0δ』が待機していた。
「じゃ、いつも通り作戦連絡」
勿論ユリもいる。フォックスが機体の最終調整を行う中、淡々と作戦概要のデータをコックピット内のタッチパネルに送ってゆく。
「サンパウロ旧市街区域を囲むように三者がにらみ合いを続けています。敵の規模は覚えてますか? 」
「あぁ勿論……ってどうしましたか篠田さん? 」
今回は作戦を見学したいと篠田が自ら同行を申し出ていた。珍しく丁寧口調な二人を前に色々張り詰めていたものが切れたらしい。
「あれほど仲がよろしいのに、作戦前はいつもこうなんですか? 」
「あ〜、そういう事ぉ」
質問に驚く事もなく淡々と作業を続けながらフォックスが答える。
「よく『作戦前に私情は持ち込まない、これを破れば真っ先に死んでいくもの』と昔の部下に言い聞かせていてね。実際、俺も恋人へのプロポーズ先送りにしたまま出撃して撃墜食らってますから」
よくある『この戦いが終わったら…… 』フラグが本当に存在することを証明したからこそその経験が活きるのか、とここでも彼の強さを垣間見る篠田であった。
「さて、じゃあまず先に数だけ豊富なフランス、ドイツの連合軍からいきましょうか」
そう言うと、フォックスはギアのハッチを閉め、傍らに置いてあったスナイパーライフルを構える。これも勿論、地上に放置されていた『ヨーロッパ連合軍用の』ライフルである。
「作戦開始、コントロール1はVIPのエスコートとフォロー、データ収集を頼む」
「了解」
どちらかと言えば角が多く正にロボットというような今までのギアとは違いどんな武器でもフィットするよう作られた彼のギアは、『人体』を連想させる外見である。
本来は、ヨーロッパに市場を持つ大企業『トレック・インダストリアル』社製のギアしかにか握れないはずの持ち手も、体格が合わなければ肩が破損してしまうストックの部分も完璧に適応している。改めて人体の素晴らしさが分かるだろう。
「距離7000、南西向きに風速4m…… 」
グウゥン……、という音を響かせ、銃口を調整する。輸送機内で見守る二人をよそに、ギアは引き金に手をかけた。
「……発射」
ズドォォォン!!、と炸裂音が響き、少しの間を置いて爆発の閃光が輝く。
「初弾命中、着弾補正」
「弾道解析、右に5m」
「右5m了解」
完璧な連携である。これは他の者にはなし得ない技であろう。ボルトを引きガチャ、と小気味よい音を立てながら次弾を装填し、狙いを定める。
「そういや、このギアのコードネーム決めてねぇな」
「別に良くないですか? 」
7km先の建物を狙撃しているというのに、二人は緊張の欠片も見せない。熟練のパイロットですらかなりの集中を要すこの作業を、まるで射的程度にしか思っていないらしい。
「第二射命中、他のギア格納庫らしき建物は確認できるか? 」
「今のところは認められません」
「そうか」
すると黒塗りの巨人は突如立ち上がり、ライフルをぶん投げた。
「そうだ、こいつのコードネームは『ゼロ』な、良いだろ? 」
「……了解、以降本機を『ゼロ』と呼称します」
今度はナイフやらピストルやらをかき集め、瞬く間に武装していく。先程まではスナイパーの風格を漂わせていたのに今度はまるでゲリラ兵の様に見えた。
「いつも通り、ココアを頼む」
「了解、お気をつけて」
屋上から大きく跳躍し、『ゼロ』の姿は夕日に溶けていった。
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ビルの屋上に取り残された二人は、ゼロから送られてくる映像を元にフォックスの足取りを立体的に再現していた。
「凄い男だな、フォックスは」
「そう?、じゃあ本気の彼はもっと凄いよ」
どうやらあの悪魔はまだまだ強くなるらしい。もしも敵ならばどれ程恐ろしい事かと想像しつつ、篠田はあることを思い出した。
「そういえば、彼の恋人は誰なんだ? 」
「知らないの?フォックスの彼女って『女帝』レオン=アリシアだよ」
その名前を聞いて篠田は驚愕した。現アメリカ軍サンパウロ基地司令、そして今回の作戦の排除目標(ターゲット)ではないか。
「じゃ、じゃあ彼は…… 」
「そ、今回はかつて戦死した戦場で元カノを殺すのが任務よ。本当に世の中って悲しいわ…… 」