9話 悪魔駆ける

文字数 2,476文字

「あちゃー、どえらいパニックだねぇ」

 ヨーロッパ軍の基地は混沌と炎が渦巻いていた。ロシアとアメリカの起こした大戦闘の漁夫の利を得るべく待機させていた主力機を、戦闘が始まる前に失い、整備施設もろとも破壊されたのだ。

「もしかすると……お、やってるねぇ」

 この状況では通信の暗号化もへったくれもない。あっちこっちから平文の無線が飛び交う。

「第三世代、六機大破!修復不能です!! 」

「残りの機体を地下から引きずり出せ! 」

「そんなことより警戒体制の維持だろうが!第一世代機でもいいから巡回させろ!! 」

 慌てて旧式機が数体、基地から出てきて周囲の警戒にあたり始めた。この状況下ですら、フォックスの余裕は変わらない。

「まずは外堀を埋めてだな…… 」

 とりあえず、足下の空になっているマシンガン用のマガジンを放り投げる。ギイィンという気味の悪い音を立て、ゼロの隠れるビルの正面に落下した。

 相当気が立っているのだろうか、敵の旧式機が一斉に銃を構える。うち一機が確かめる様に一歩ずつ近付いてくる。

「ありがとう! 」

 マガジンに集中している敵機の背後から、コックピットをナイフで正確に貫く。画面越しにグシャァ、と何かが潰れる音がして敵機が活動を停止した。骸と化したギアを引きずり、ビルの裏へと隠れる。

「いい武器持ってんなぁ」

 なんと、ショットガンを二丁も所持していた。予備カートリッジもあった。

「しかもレバーアクションかよ、これはいい」

 銃口の下のポンプを引いてリロードするのではなく、引き金と一体化したレバーを押し倒すことによりリロードするタイプのものである。かつて、このタイプのショットガンを回転させながらリロードする方法が流行った事もある。確か、未来から来た殺人ロボットの映画だっただろうか。

「撃てるにこしたこたぁねぇがな」

 手慣れた動作で銃を構え、基地のゲート付近にたむろする一体に狙いを定めながら接近する。

「ばれねぇもんだねぇ…… 」

 ゼロ特有の漆黒のボディは、暗くなっていく辺りの景色に同化して強力な迷彩効果を発揮していた。十分な距離まで接近したのち、ゼロの持つショットガンが火を噴いた。

「完璧!! 」

 不意を突かれた敵機は散弾の前になす術もなくコックピットが蜂の巣になった。えぐれたハッチから、肉片と化したパイロットの血塗れの頭が覗いている。

 続いて真横にいたギアに銃剣を突き刺し、交戦するため近付いてきた別のギアに投げつける。二機ともされるがままに崩れ落ち、フォックスはあっという間に三機を落とした。

「やはり旧式じゃあ鈍重過ぎるんだよなぁ、装甲が堅いからまだまだ使えるけれどもよ」

 ギアは世代を重ねるごとに機動力、運動性を重視した設計をしてきたため、第三、第四世代まで来ると『当たらなければどうということはない』と言わんばかりの装甲の薄さになっている。

 それに対して、第一世代は『歩く戦車』の異名にふさわしくとてつもなく装甲が厚い。あまりの頑丈さに『後の世代は企業が材料費を削った』と揶揄されるまでになっている。そのため、第一世代を倒すためには『至近距離でショットガンをぶっ放す』か『装甲のない関節からコックピットを突き刺す』の二択しかない。

「まだ結構な数がいそうだな……、っと」

 フォックスはペダルを踏み込み、全速力で基地に突っ込んだ。敵が小銃で応戦するも、ゼロの外装には傷一つ付きはしない。

「良くできてるよなぁ、この『複合装甲』 」

 『複合装甲』 それはゼロが人間に近い体を持つ最大の理由である。

 魚類の鱗をよく見たことがあるだろうか。一枚一枚の鱗が絶妙なバランスで重なりあうことにより、体を動かしても防御力を落とさずにすんでいる。

 この原理を応用し、曲線を多用した装甲板を複数のパーツに分け、どのような関節の曲がり具合でも装甲が全身を覆うように設計してあるのだ。これにより、PNG-0δ『ゼロ』の外見はより運動性能を高めながら防御力の底上げに成功したのだ。

 しかも使用する装甲の材質は最新の合金で、従来の半分の薄さで2倍近い耐弾性能を有し、それでいて重量は従来のチタン合金と変わらない。これらを合計すると、ゼロは『第一世代に匹敵する防御力と第四世代以上の運動性能』を同時に実現させたのだ。性能の差からして、勝敗は明確である。



「そぉらよ!! 」

 弾の切れたショットガンで応戦に来たギアを殴り飛ばす。すぐさま別の機体がライフルで狙うも、ゼロは器用に建物の影を使いながら基地の内部を走り回る。

「そこぉ!! 」

 反対から回り込んできた、ギアの体長を超える巨大なバスターソードを振り回す第三世代機のコックピット部を蹴り上げると、ピストルを押し付け連射する。力なく崩れ落ちる敵からバスターソードを奪い取る。

「おぉ、これはいい」

 両手で大剣を持ち直し、バット宜しくフルスイングする。二機のギアをまとめて薙ぎ払う。両方とも、『切られた』というよりは『潰された』と言うべき衝撃で真っ二つになりながら地面に叩き潰される。辺り一帯に飛び散った油圧ポンプやモーターの破片がその武器威力を物語っていた。

「持って帰るか、これ」

 一度バスターソードを地面に突き刺し、ナイフを手にタックルをかけてくる相手を巴投げの要領で受け流す。重量40tを超えるギアが全力で地面に叩きつけられたのである、パイロットが無事で済むはずがない。

「よっこらせぇーーっの!」

 倒れ込んだ敵機を踏みつけ、コックピットに直接バスターソードを突きつける。まるで杭でも打ち込まれたかの様に足下のギアはぐちゃぐちゃに潰れた。

「ここで15……ってあれ?」

 気が付くと、明らかにヨーロッパ軍とは違うフォルムの機体に囲まれている。しかも、そのうち一つは見覚えのあるグレーのギアだ。

「ほぉ〜、ロバートも来てやがったのか…… 」
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