10話 それぞれの想い

文字数 1,455文字

おおよそ15機だろうか、タリンでも見たグレーのギアがフォックスの乗る『ゼロ』を取り囲んでいる。

「所属不明機に告ぐ。直ちに武装を放棄し、降伏せよ。繰り返す…… 」

 懐かしい声だ、それもあの青臭い15年前とは違い貫禄までこしらえている。それを思うと、なぜか笑いがこみ上げてくる。

「クックック………ハーハッハッハ!」

「何が可笑しい!! 」

 15年という時の長さに悲しみを覚えつつ、マイクの電源を入れる。

「これが可笑しくて何が可笑しい、なぁロバート? 」

 炎が輝く戦場に、しばしの沈黙が流れる。どうやら相手はこちらの正体が分からないらしい。

「さてはレオンから何も聞いておらんのか? 」

 どうやら部隊を二分した上での作戦らしく、レオンらしき指揮官機の姿はない。変わりにタリンから直行してきたロバートを隊長に据えたのだと推測し、フォックスはマイクに向かって叫ぶ。

「最初の爆発から27分だぞ?そんなちんたらした命令ばっかりやってるから部下を失う事になるんだよバーカ!! 」

「そうか、あなただったのか。道理でお強い訳だ…… 」

 奥の方から一際異彩を放つギアが現れた。指揮官機の特徴である軍刀を装着し、一般機よりもグレードの良い銃器を持っている。

「部下の仇を取らせて頂く。隊長だろうと容赦しませんよ」

 相変わらず義理人情に厚い男だと思いつつ、バスターソードを構え直す。ロバートの長所である射撃を封じるには、鈍器による特攻が有効となりやすい。要は『間合いを潰す』のである。

「おいおい、これだけの数を揃えてお前と決闘なのか?馬鹿馬鹿しい」

「これは所属不明機に対する安全対策だ。この数をもってすれば逃げ切れまい。あなたも大人しく…… 」

「てめぇ、馬鹿か? 」

 意表をつく形で『ゼロ』がバスターソードをぶん投げる。ロバートのギアは本能的にそれを避けた。しかしその後ろに陣取っていたアメリカ軍機に直撃し、陣形が乱れる。

「ほれ、包囲が崩れたぞ? 」

「しかしあなたも丸腰だ!! 」

 ロバートのギアが小銃を構える。その瞬間、ロバート機の手元が爆発し、CG画面が暗転する。

「貴様!まさか…… 」

 そのまさかであった。大剣の柄にワイヤーを結びつけていたのだ。構え直したのはトラップに対するブラフだったのだ

「言ったろ?私情を持ち込んだら負けるってよ」

 正しく仕事人の如く、次々とギアを細切れにしていくフォックス。ロバート機も両足を失い動けなくなっていた。

「何で!何であなたはいつも…… 」

「お前らには悪いと思ってるさ。今更許せとも思わない」

 バスターソードを引き抜き、ロバート機の胸元に突きつける。第四世代機であるロバート機は、こんな鈍器を食らえば一撃でスクラップになる。

「ただ、目の前の現実も見れずに理想を語る貴様らを許す気もない!! 」

 バスターソードが唸りを上げて地面を割る。しかしロバート機の姿はない。

「急ぎロバート機を回収せよ! 」

 凛々しい声と共に、数機のギアが現れる。どうやらロシア軍と戦っていた本隊が合流したらしい。

「少佐、後は任せて撤退の指揮を頼む」

「何を言いますか!あなたは…… 」

「私は良い、行け!! 」

「……了解しました」

 ロバートは再び、フォックスになす術もなく戦場を後にした。友軍機が去るのを見送り、レオンがフォックスに向かい合う。

「……さて、話を聞こうかフォックス」
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