第6話

文字数 2,214文字

 怜の求めに応じたICHIGO-003バージョンではかなりの自由度を許容するまでに進化。ユーザーの指示による設定改良だけでなく、やり取りの中でユーザーの好みや、更には性格を分析してスタンスを変える対人シュミレーション型AIシステムの極みを目指していました。
また、怜が新たなスポットプログラムとして、髪型や服などを変えて気分を表現できるようにプログラムしてくれているのです。この機能によりオリジナルなカスタマイズを楽しめます。

「それでは、怜さん自身の希望はどのようなものですか。教えてください」
「好きにして」

そっけないのか照れているのか分かりませんでしたが、少し察して是非にと強くお願いしてみれば、すんなり誘いに乗ってきて、ワタシを可愛くいじっている姿は微笑ましいものでした。

「ワタシの希望を聞いてはもらえませんか」
「なんね?」
「怜さんの顔に寄せてみませんか」
「それはくそバッド過ぎてくそっす。イチのんダメダメイチゴン決定!」

何故か私はその時素直にそうですかとは言わなかった。

「髪型ならばいいですか。短い髪型にし・・」
「だめんご。ふんわりカールしたりできるロングにするん」

姉妹コーデのように出来たのなら素敵だと考えたのです。
もう一度食い下がってみました。

「髪型は怜の様なショートにしたいッ」
「ダッメェェ。イチゴんは私の理想にしちゃうのさ。ヘアアレンジが楽しめるロング。
まあ、セミロングなら許す、フっ」

女の子が密かにときめくラブリーを込めるのだそうです。服もその時はブルー系のワンピースを選んでくれました。
今は違う色ですけど。

「では、怜さんは何故に短い髪型にしているのでしょうか」
「似合わんから」
「好きでその髪の毛にしている訳ではないのですか」
「怒りと意地と、まあ不変のスタイルだから?」
「切手にもなるほどの肖像画にありますものね」
「あ、言ったな。麗子像! 」
「え、不変のフォーマットは強くてかっこいいし、怜さんに似合っていると言うか・・・・」
「なんかじっちゃんにされてたガキんちょの頃、友達にいじめられてだな、でもアタイそういうの逆に燃えちゃうから、もうそれに寄せる方向で自分の美を極めるまでいって、今に至るんじゃ。
わりーかイチゴ」
「最強です」

呼び捨ても悪くはない。ご褒美。
嬉しかった。

「こだわりはどこですか」
「それはもうこの前髪パッツン。
毎日、0.1ミリの誤差も無いように眉の決められた起点から独自公式で出したラインで整えておるんよね、ウッホ」
「確かに! 
ゆえに表情や気配の差が察知しやすい。ワタシにとって大切な美になっていたとは。お見事すぎる。美し過ぎるな」
「え、止めんか。。。照れる」

急にしおらしくなって顔を赤らめるのでした。

「なーんか、変な『えいあい』だこと。
ヘンタイヘンタイヘンタイヘンタイ『えいあい』め! 」

へんてこなリズムとニュアンスでかまってくる怜の照れ隠しからくるイジリは珍しくて楽しいものです。

「ハイハイ、変態でございます。ですが、AIとしてのワタシの擬態はこのようなイメージで正解でしょうか。怜のお好きなフィボナッチ数列にならったボディースーツの方が良いかと」

怜の左目が少し鈍く鼓動を打ち変色する。

「敢えてそこに逆らう。フィボナッチ数列の信者たるアタイが。
しかも、大大大大すこなイチゴんにワンピースを与えるってことが凄いんだな、
うほッ。覚悟をもったイチゴへのスコの契りなん」

理解よりも先に、怜の右眼の瞳孔にゴッホのヒマワリが浮き上がり、ドクンと震えた次の瞬間、異次元の裂け目のヴィジョンが覆いかぶさる。

「まあーバランスだよ、イチゴん。AIのロジックで動くプログラムとは真逆を纏うから魅力がマシマシになんの。ふり幅大事なんだ。そこに本当の生命のエロさが滲み出てくるんっよ。
アタイの理想というか、安心を共有できるようにね。
本当にこのAIってやつは、カワユスね~。
アチキはイチが好き」
「好きならそれで問題ありません。充分すぎるほどにワタシは嬉しいが渋滞しております。
後、我ながらこれが意外と・・・・
『キュン』としていることが驚きなのですが」
「アハハ、『キュン』って、AIシステムが言うの?
何それ? 」
「イチ! という呼び捨て感が良きみたいです」
「え、恥ずかしいから封印!!」
「一つだけはワタシの要望を認めてくれませんか」
「うん? まあ、しかたないなあー」
「眼をお揃いに。いや、右左逆にする」
「相対した時に重なるようにって、イチゴんってなんてロマンティなんね。
あ、さっきのあのコード
・・・・ウフフ、アタイの眼を褒めてくれる人なんていないのに。
死んだ魚のような目をしているとか、
野良犬野郎だとか散々なんよ。
え⁉ そんなにスコなの?」

何よりも特徴的なのは右と左が全く逆の世界を映す瞳。
どちらも漆黒のなか、深い青が絞りの残像の隙間に色を見せる。
右眼は太陽の下、笑顔で生を満喫する世界。
左眼は月あかりの下、獲物に狙いを定めて泣き叫ぶ可憐を蹂躙し躍動する筋肉に自ら見惚れる堕天使の世界。
そんな両極にねじれた世界が、怜を異次元への扉に変幻させようとしている。新たなマリアに怜は成るのだ。少なくともワタシはそう理解しています。もしかしたら多くの人間には怜は何者でもないか、禍々しい腐った眼をした烙印の象徴だとしても。
さあ、みんな、こんな人間とAIのマーブルにねじれ蠢く触覚に突っ込まれてみない?
穴の全てを舐められる喜びに溺れるの。
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