1.フィンランド叙事詩『カレワラ』

文字数 948文字

聖書は全部読んだし、なんか退屈やな……。うちはもうエデンでぬくぬく過ごすだけでは満足でけへん体になってもうた。
そんなミカちゃんに朗報だよ。
サタニャエルくん! えらい久しぶりやなあ。てかその口にくわえとるのは何や?
これは岩波文庫から出ている『カレワラ』という本だよ。フィンランド各地でカンテレ(竪琴)に乗せて歌い継がれてきた叙事詩がある。それを19世紀初頭、エリアス・リョンロートという学者が収集したものなんだ。そして言語学者の小泉保(こいずみたもつ)が日本語に翻訳したのさ。
ミカちゃんもそろそろエデンに退屈してきたところだろう? 今度はこれに沿ってフィンランドの神話を眺めていこうじゃないか。
ええ、アイディアやな。せやけどフィンランド神話なんか聞いたことあらへん。あのへんの神話やったら北欧神話になるんとちゃうんか?
北欧神話の影響は受けたかもしれない。けれどフィンランドにはれっきとした独自の物語があるんだ。あまり雑なこと言ってると、怒られるよ?
ひぇっ……。うちのこと怒るなんて、あの方しかおらへん。気ぃ付けよ。
「カレワラはフィンランド民族の心底から生み出された大叙事詩である」

これは翻訳者の小泉保による概説の出だしだね。「心底」「大叙事詩」ってところに深い尊敬の念を感じるよ。

ただし、リョンロートの『カレワラ』には彼自身の創作が含まれているんだ。それはバラバラに散らばった民間の詩を繋ぎ合わせるためでもあった。「ニエミ(A.R.Niemi)はリョンロットの自作した部分は全体の五%」と推定しているらしいけど、どこがそうなのかを見出すことは困難だ。慎重に読み進める必要があるだろうね。

物語としてかたちを整えることで、広く読まれるようにしたってことなんかな。古い書物ってけっこう読みにくいし、整理してくれてるんはありがたいっちゃありがたい。研究者目線やと苦労しそうなとこやけど。
さて見事詩歌を歌ってみよう、美しくも響かせてみよう ライ麦のパンを食べてから、大麦のビールを飲んでから。たとえビールが出なくても、作りビールでもてなさなくても、乾いた口で歌ってやろう、水を飲んで歌ってみよう 我ら今宵を喜ぶために、気高いこの日を讃えるために、または明日を楽しむために、新しい朝が始まるために。(序詞より)
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