11.鉄を罵倒する呪文

文字数 1,458文字

ワイナミョイネンは膝を刃物で負傷し、血が流れ続けた。それを癒やさなければならないということで、ワイナミョイネンは癒し手となる老人に「鉄の起源の呪文」を語り始めた。
いやいや、何悠長なことしとんねん。はよ治療せんと。
悠長に見えて実はとても大事なことなんだ。ワイナミョイネンは刃物、つまり鉄によって傷を受けた。つまりまず最初に鉄を圧倒しなければならない。しかし鉄を制するには、鉄のなんたるかを知る必要がある。だからワイナミョイネンは老人に「鉄の起源」を伝えるのさ。
うーむ。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」言うからな。鉄が支配すべき敵や言うんなら、しゃあないわ。
ウッコ大気の神は、二つの掌(てのひら)を擦り合わせ、両方を握りしめた 左の膝頭で。そこから乙女が三人生まれ、みんなで自然の女精が三人 鉄の錆(さび)の母となり、青ずんだ口の産婦となった。
三人の乙女らがそれぞれ自分の乳を絞る。黒い乳は軟鉄に、白い乳は鋼鉄に、赤い乳は粗鉄となった。その後、鉄は兄弟である火に会いたがった。しかし火は恐るべきもので、焼かれそうになった鉄は逃げて隠れたんだ。
相変わらずファンタジックやな。鉄とか火が擬人化されとる。
鍛冶のイルマリネンが生まれた、生まれそして成長した。彼は炭の山で生まれ、木炭の野で成長した 銅(あかがね)の槌を手にもって、小さな火箸を握って。
その折に鍛冶イルマリネンが生まれた。彼は鉄を見て、それを火の中に入れたらどうだろうと考え始めるんだ。
えらい唐突やな。まあ、ええアイディアやと思うで。
しかし火は驚いた。そして脅えた。そりゃそうだよね。僕だっていきなり火に突っ込まれるのは勘弁だよ。
しかしイルマリネンは心配無用と豪語する。
鍛冶のイルマリネンは言った。

『何も案ずることはない! 火は知人を焼きはしない、その身内を傷つけない。お前が火の住みかへ出かけても、炎の砦へ、そこでお前は美しく育ち、さらに見事に伸びるだろう。男の立派な剣となり、女の帯の留め金となろう。』

そしてイルマリネンが鉄を火に入れ、打ち鍛えた。すると鋼は悪くなり、鉄は怒りを発し、鉄は誓いを破って「哀れな兄弟に切りつけた」。つまり、鉄は人を傷つける道具になってしまったんだよ。
そらまあ、鉄は剣にもなるからな。
老人は竈(かまど)のそばから唸った、髭男は歌い、頭を振った。

「もういま鉄の起源(おこり)がわかり、鋼の習性(ならい)を知りつくした。

「おお、お前、哀れな鉄よ、哀れな鉄よ、不幸な鉄滓(てっし)よ、呪法のかかった鋼よ! こうしてお前が生み出され、こうして恐るべきものとなり、たいそう大きくなったのか?

そして鉄を罵倒する呪文が始まった。人を傷つけるような刃も、その起源は乳から絞られたミルクに過ぎない。そんな鉄の増長を罵倒するのさ。
イルマリネンがおらんかったら火から逃げるばかりの弱虫やしな。そんな奴は恐るるに足らんてか。
老人は鉄を罵倒し尽くした後、「血止めの呪文」「軟膏の呪言」「守りの呪文」「包帯の呪文」と続けた。そしてワイナミョイネンは完全に癒やされた。
『カレワラ』第9章の最後はエリアス・リョンロートの創作で締めくくられる。
そこで老ワイナミョイネンはさらにこんな言葉を述べた。

「決して未来の民族よ、今育ちゆく世代よ、誇らしげに舟の助材を、威張って舟を造るでない! 神により生は定まり、創造主(つくりぬし)により終りが決まる。人の能力によるものでも、強者の力によるものでもない。」

このへんは完全にキリスト教の世界やな。すべては主の御心のままや。
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