9.ポホヨラの魔女ロウヒ

文字数 1,326文字

乙女アイノを妻にし損ねた老ワイナミョイネンは、ポホヨラに向かうことにした。もっといい女がいると母親に教えてもらったからね。しかし、アイノの兄ヨウカハイネンはワイナミョイネンへの復讐を企てていたんだ。
ヨウカハイネンが喧嘩吹っ掛けたんがそもそもの原因やろ。じこちゅーなやっちゃな。
アイノの死を嘆いた母親も、それはやめろとヨウカハイネンを諫めた。けれど彼は聞く耳持たず、弩(いしゆみ)をもってワイナミョイネンを狙い撃ったんだ。
「すべてこの世の喜びが たとえ倍でも消えてしまえ、すべての歌も滅びてしまえ! どうしても撃ってやる、やめるものか。」
えらい気勢やな。世界を犠牲にしてでも復讐したろってか。
母親はヨウカハイネンに、ワイナミョイネンを射ればこの世から喜びが消えると忠告した。しかしヨウカハイネンはそれでもいいと言って復讐を決行した。そして矢はワイナミョイネンの肩の肉を刺し、海に叩き落した。不意打ちに、さすがの詩人もなすすべがなかったのさ。
爺さんに無理やり嫁にされそうになったアイノは可哀そうやけど、ワイナミョイネンもそんな悪いことしてへんのに……。てか、ヨウカハイネンがあかんやろ。
ロシア人イラストレーター、ニコライ・コチェルギン(Nikolai Kochergin)によるヨウカハイネンだよ。覚悟を決めた男の顔だね。
さて、海に落ちたワイナミョイネンは死にかけながらも泳ぎ続けた。そこに、かつて開墾の際、一本だけ残しておいた白樺に座った鷲が現れた。鷲は恩返しにワイナミョイネンを助けて陸地まで運んだのさ。
善行は積んどくもんやな。いつ、どんな形で返ってくるか分からへん。
助けられたワイナミョイネンは落ち着いたのか、三日間、ずっと泣きっぱなしだった。見知らぬ土地に投げ出されて辛かったらしい。
ワイナミョイネンの弱っちいとこがちょっと好きになってきたわ。
その泣き声を聞きつけたのがポホヨラの女主人、老女のロウヒだった。
「泣くでないワイナミョイネン、嘆くでないウバントラの人! ここにいるのも結構よ、滞在するのも楽しいさ、皿から鮭を食べなさい、さらにその上豚肉も。」
泣いてる子供にはとりあえず何か食わせるのが手っ取り早いわな。
ワイナミョイネンは、自分の国に帰してくれるなら金なり銀なり与えようかとロウヒに尋ねた。するとロウヒは金も銀もいらない、代わりにサンポを鍛造してほしいと言った。サンポは「白鳥の羽」「妊娠した牛のミルク」「大麦の穂」「羊の柔毛」を材料にして作るマジックアイテムなんだ。
なんやそれ。そんな材料で「鍛造」なんか出来るんか? 鍛造って、金属叩いて加工する技術のことやろ?
なんせ魔法の品物だからね。そういう不思議さがあってもいいのさ。ロウヒは、もしサンポをくれるなら、娘を差し出そうと言って来た。ワイナミョイネンは自分では無理だから、鍛冶のイルマリネンを紹介することにした。その娘もイルマリネンの妻にしようと提案してね。
ポホヨラの女主人ロウヒは、言葉を述べて、こう告げた。

「その人に娘を差し上げよう、その人に子供を約束しよう、サンポを鍛造し、飾った覆いを飾る方に、白鳥の羽の先から、孕んだ牛のミルクから、一粒の大麦の穂から、一匹の羊の柔毛から。」

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