その7 凛花の嫉妬
文字数 835文字
「どうしたの?」と不意に声が聞こえてきた。
「えっ?」と俺は顔を上げた。
昼休み。俺と凛花は屋上で、昼食をとっていた。
「ぼうっとしてさ」凛花が俺の目を覗き込んで言った。どこか疑わしげに——
別に……と俺は答えて、パンを食べた。モソモソとして、まるで埃でも食べているかのような気分だった。
「昨日の人のこと、考えていたんでしょ?」と彼女は言った。
「え?」と俺は言った。
「黒いドレスの人だよ」と彼女。
そういえば、あの女——時枝のことをすっかり忘れていた。あの自称・天使のオッサンのインパクトのほうが圧倒的に強かったからだ。
「あのあと、あの人とどこに行ったの?」と凛花が俺に詰め寄ってきた。
真顔だった。彼女のこんな顔、今までに見たことがなかった。冗談の抜きで、こんな表情ができたのか……。
「どこにも行かなかったよ」と俺は嘘をついた。「あのあと、二人で喫茶店に入りました」なんて言ったら、余計に話がこじれることになるからだ。
「ウソつかないでよ」と彼女。
「ちょっと、立ち話しただけだ」と俺。
「立ち話だったら、あの場所でもできたじゃん!」と彼女は尚も、食い下がってくる。「それとも、わたしには聞かせられない話だったの?」
あー、もうッ!と俺は、パンの袋とコーヒー牛乳の空容器とをビニール袋に突っ込んだ。「そんなにあいつとの仲が知りたけりゃ、探偵でも雇ったらどうだ?!」
「『あいつ』って——」と凛花が驚いた口調で言った。「ずいぶん馴れ馴れしく呼ぶね、あの人のこと……」
「うっせぇなッ!」俺は彼女に背を向け階段室の入り、鉄の扉を閉めた。
*
彼が閉めた階段室の鉄扉を、彼女はしばらくのあいだジッと見やっていた。
やっぱり、何かあるんだ、と凛花は思った。あの人と彼とのあいだに何かが……と。
彼女は涙が込み上げてきそうになるのを、必死にこらえた。これからまだ授業があるというのに、目を真っ赤にさせているわけにもいかなかった。
そのとき、予鈴の音が屋上に鳴り響いた。
「えっ?」と俺は顔を上げた。
昼休み。俺と凛花は屋上で、昼食をとっていた。
「ぼうっとしてさ」凛花が俺の目を覗き込んで言った。どこか疑わしげに——
別に……と俺は答えて、パンを食べた。モソモソとして、まるで埃でも食べているかのような気分だった。
「昨日の人のこと、考えていたんでしょ?」と彼女は言った。
「え?」と俺は言った。
「黒いドレスの人だよ」と彼女。
そういえば、あの女——時枝のことをすっかり忘れていた。あの自称・天使のオッサンのインパクトのほうが圧倒的に強かったからだ。
「あのあと、あの人とどこに行ったの?」と凛花が俺に詰め寄ってきた。
真顔だった。彼女のこんな顔、今までに見たことがなかった。冗談の抜きで、こんな表情ができたのか……。
「どこにも行かなかったよ」と俺は嘘をついた。「あのあと、二人で喫茶店に入りました」なんて言ったら、余計に話がこじれることになるからだ。
「ウソつかないでよ」と彼女。
「ちょっと、立ち話しただけだ」と俺。
「立ち話だったら、あの場所でもできたじゃん!」と彼女は尚も、食い下がってくる。「それとも、わたしには聞かせられない話だったの?」
あー、もうッ!と俺は、パンの袋とコーヒー牛乳の空容器とをビニール袋に突っ込んだ。「そんなにあいつとの仲が知りたけりゃ、探偵でも雇ったらどうだ?!」
「『あいつ』って——」と凛花が驚いた口調で言った。「ずいぶん馴れ馴れしく呼ぶね、あの人のこと……」
「うっせぇなッ!」俺は彼女に背を向け階段室の入り、鉄の扉を閉めた。
*
彼が閉めた階段室の鉄扉を、彼女はしばらくのあいだジッと見やっていた。
やっぱり、何かあるんだ、と凛花は思った。あの人と彼とのあいだに何かが……と。
彼女は涙が込み上げてきそうになるのを、必死にこらえた。これからまだ授業があるというのに、目を真っ赤にさせているわけにもいかなかった。
そのとき、予鈴の音が屋上に鳴り響いた。
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