第6話
文字数 1,709文字
「君は量子力学に興味はあるかね」
全く判りませんと正直に答えると、彼はそうだろうと半笑いしながら、ある装置をテーブルに置いた。高岡は馬鹿にされた気分であったが事実なのだからしょうがない。
出された装置は小ぶりの水槽によく判らない機械が装着しており、怪しい赤色のランプが点灯している。
「これは『イノベーション・レボリューション タイプB ver.4』といって、まだどこにも公表していない特別なマシンだ。俺が五年の歳月をかけて発明したものだよ」
イノベーション(技術革新)レボリューション(革命)とはまた大きく出たものだ。余程の自信があると見える。しかしネーミングのセンスはいただけない。これではまるで頭の悪いロックのタイトルである。
「これはどういった機械なんですか?」いかにも怪しい装置を前に気後れする高岡であった。
「簡単に言うと量子力学を応用したサイコキネシス発生装置だ。君は知らないだろうがサイコキネシスというのは……」
ここで高岡が言葉を遮る。
「それくらい知っています。確か念動力と呼ばれる現象ですよね。手を触れずに物を移動させる奴でしょう? SF映画などではよく見かけますが」
訝し気な視線を三佐樹に向ける高岡。彼はティッシュで機械の埃を払っている。それほどの革新的で革命的な装置にも関わらず、しばらく使われていないのは明白であった。
まさか本当にこの単純な装置でサイコキネシスが出来るのだろうか。しかし三佐樹の表情は真剣である。とても冗談を言っている雰囲気ではない。
「信じてないようだな。だが当然の反応だよ。これは世界中誰もが成しえなかった画期的なシステムですからな」
もし本当にそんな事が出来ればノーベル賞も夢ではない。この番組を通じて彼をバックアップできれば高岡の評価もうなぎのぼり。将来を約束されたも同然だ。
「早速見せてもらえませんか?」
三佐樹は台所からおもむろにリンゴを持って来ると、その謎の装置に入れた。ふたを閉めてスイッチを入れるとブーンという雑音と共に装置全体が僅かに揺れ出している。
しかしいくら待てどもリンゴは一向に動く気配を見せない。
「……全然動きませんね。失敗ですか?」
すると三佐樹は微笑を浮かべながら、満足そうに顔をほころばせた。
「いや、成功だよ。一見静止しているように見えるかもしれんが、これでも毎秒20ナノメートルで左へ移動している」
20ナノメートルとはどのくらいの長さなのですか、と尋ねてみたら、彼は一千万分の二メートルだと答えた。とても肉眼では見えないではないか。誰も原子レベルの話をしているのではない。これではUFOの時と同じじゃないかと呆れる高岡であった。
「あのう、もう少し早く動きませんでしょうか? これでは実際に動いているのか、自分を含め、テレビを見ている視聴者に全く伝わりませんので」
「そんな事俺の知った事ではない。心配するな、あと十年も研究を進めれば、今の二百倍は早くなる計算だ」
仮に二百倍になったところで、肉眼にて確認できる程のスピードではない。スローカメラで撮影しても結果は同じだろう。せいぜい毎日一コマずつ撮影して三年かかってようやく一ミリほど移動したのが判断できるほどの速度だった。
せっかく宮崎まで出向いたにもかかわらず、こんなインチキまがいの戯言を見せられて、情けない気持ちでいっぱいだった。
「まあそう落ち込むことは無い。俺は大天才だと言っただろう?」
「まだ何かあるんですか?」
希望の光はまだ消えていなかった。
「ああ、誰が見ても一発で凄いと判るテレビ向きの特技を用意してある」
天才では無くて特技という点が気にかかるが、一応見せてもらうこととなった。
三佐樹は台所からタバスコを持って来ると、本物かどうか高岡に舐めさせた。
「辛いですね。これをどうするんですか?」まさかと思うが、これを一気飲みする気じゃないだろうな。
「良いか、よく見ておきなさい」
案の定、三佐樹は途中で咳き込みながらもタバスコを勢いよく飲み干した。彼の顔は真っ赤になり、涙目になっている。
「全然辛くないぞ」
もはや天才としての片鱗は無く、ただのやせ我慢にしか見えなかった……。
全く判りませんと正直に答えると、彼はそうだろうと半笑いしながら、ある装置をテーブルに置いた。高岡は馬鹿にされた気分であったが事実なのだからしょうがない。
出された装置は小ぶりの水槽によく判らない機械が装着しており、怪しい赤色のランプが点灯している。
「これは『イノベーション・レボリューション タイプB ver.4』といって、まだどこにも公表していない特別なマシンだ。俺が五年の歳月をかけて発明したものだよ」
イノベーション(技術革新)レボリューション(革命)とはまた大きく出たものだ。余程の自信があると見える。しかしネーミングのセンスはいただけない。これではまるで頭の悪いロックのタイトルである。
「これはどういった機械なんですか?」いかにも怪しい装置を前に気後れする高岡であった。
「簡単に言うと量子力学を応用したサイコキネシス発生装置だ。君は知らないだろうがサイコキネシスというのは……」
ここで高岡が言葉を遮る。
「それくらい知っています。確か念動力と呼ばれる現象ですよね。手を触れずに物を移動させる奴でしょう? SF映画などではよく見かけますが」
訝し気な視線を三佐樹に向ける高岡。彼はティッシュで機械の埃を払っている。それほどの革新的で革命的な装置にも関わらず、しばらく使われていないのは明白であった。
まさか本当にこの単純な装置でサイコキネシスが出来るのだろうか。しかし三佐樹の表情は真剣である。とても冗談を言っている雰囲気ではない。
「信じてないようだな。だが当然の反応だよ。これは世界中誰もが成しえなかった画期的なシステムですからな」
もし本当にそんな事が出来ればノーベル賞も夢ではない。この番組を通じて彼をバックアップできれば高岡の評価もうなぎのぼり。将来を約束されたも同然だ。
「早速見せてもらえませんか?」
三佐樹は台所からおもむろにリンゴを持って来ると、その謎の装置に入れた。ふたを閉めてスイッチを入れるとブーンという雑音と共に装置全体が僅かに揺れ出している。
しかしいくら待てどもリンゴは一向に動く気配を見せない。
「……全然動きませんね。失敗ですか?」
すると三佐樹は微笑を浮かべながら、満足そうに顔をほころばせた。
「いや、成功だよ。一見静止しているように見えるかもしれんが、これでも毎秒20ナノメートルで左へ移動している」
20ナノメートルとはどのくらいの長さなのですか、と尋ねてみたら、彼は一千万分の二メートルだと答えた。とても肉眼では見えないではないか。誰も原子レベルの話をしているのではない。これではUFOの時と同じじゃないかと呆れる高岡であった。
「あのう、もう少し早く動きませんでしょうか? これでは実際に動いているのか、自分を含め、テレビを見ている視聴者に全く伝わりませんので」
「そんな事俺の知った事ではない。心配するな、あと十年も研究を進めれば、今の二百倍は早くなる計算だ」
仮に二百倍になったところで、肉眼にて確認できる程のスピードではない。スローカメラで撮影しても結果は同じだろう。せいぜい毎日一コマずつ撮影して三年かかってようやく一ミリほど移動したのが判断できるほどの速度だった。
せっかく宮崎まで出向いたにもかかわらず、こんなインチキまがいの戯言を見せられて、情けない気持ちでいっぱいだった。
「まあそう落ち込むことは無い。俺は大天才だと言っただろう?」
「まだ何かあるんですか?」
希望の光はまだ消えていなかった。
「ああ、誰が見ても一発で凄いと判るテレビ向きの特技を用意してある」
天才では無くて特技という点が気にかかるが、一応見せてもらうこととなった。
三佐樹は台所からタバスコを持って来ると、本物かどうか高岡に舐めさせた。
「辛いですね。これをどうするんですか?」まさかと思うが、これを一気飲みする気じゃないだろうな。
「良いか、よく見ておきなさい」
案の定、三佐樹は途中で咳き込みながらもタバスコを勢いよく飲み干した。彼の顔は真っ赤になり、涙目になっている。
「全然辛くないぞ」
もはや天才としての片鱗は無く、ただのやせ我慢にしか見えなかった……。