第4話

文字数 631文字

 続いて訪れたのは大阪府にある南河内の住宅街。そこに住む専業主婦の女性であった。
 彼女は「天才いうても大したことあらへん。少しだけ未来が見えるだけやねん」と、遠慮がちに告げた。多少謙遜しながらも受話器の前で胸を張っているオバサンの姿がはっきりと目に浮かんできた。
 未来が見えるということは予知能力の一種かもしれない。これは期待を持つなという方が無理というもの。期待に胸を躍らせながら新幹線で東京から大阪まで出向いた。もちろん経費が掛かるため、スタッフは今回も高岡一人である。メールで送られた地図を頼りに彼女の自宅を見つけると、今度こそはと意気込みながらチャイムを押した。

 結果は散々だった。
 予知能力とは名ばかりで、実際のところ彼女は現在放送されているテレビコマーシャルの次を予言するという自称『CMの天才』だった。天才というよりは、ただ勘の良いだけのような気もするが、それでもランダムにチャンネルを切り替えては、次のコマーシャルをピタリと言い当てる。確かにこれはこれで凄いことであるが、実はたいしたことはない。CMというのは大体放送スケジュールが決まっている。毎日見ていれば誰だって自然と憶える程度のものであった。それにスポンサーの関係上、番組内で放送できるCMは限られているし、リアルタイムでないと意味は無いのでテレビ番組は向かない。どちらかと言えばネット番組向けのネタであった。
 せっかく大阪くんだりまで出張して来たのに、肩透かしを食らった印象は否めない。
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