第5話

文字数 1,488文字

 最後に向かうのは大阪よりもさらに遠い宮崎県だった。
 北奈留戸市に居住する税理士で、名前を三佐樹というらしい。彼はグラビアアイドルである大野城エイラの隠れファンだと言っていたが、彼の天才ぶりは税金ともグラビアとも関係のない、意外なものであった。

「知っているかね。本当の天才は大学には通わない。行く必要がないからだ。凡人は才能がないから大学で学ぶが、俺のような大天才はそんな無駄な時間が勿体ないのだよ。わっはっは」
 税理士の割には態度が大きい。税理士と言えば寡黙なイメージで、言葉少な気に黙々とパソコンを打ち続ける印象があるだけに、三佐樹の態度は税理士のイメージを払しょくさせるものがあった。もっとも彼だけが特別なのかもしれないが。
 しかし、天才は大学に行かないと言っているが、訊いてみると彼は地元の三流大学を二年で中退している。もっともらしいこと言いながら説得力がないと思わざるをえない。それに高卒の高岡は学力が足りなくて大学へは進学できなかった。三佐樹の言葉を借りれば凡人未満ということになる。気落ちする高岡であった。
 気を取り直して取材を進める。彼の書斎にはたくさんの専門書がうず高く積まれており、如何にも天才のオーラを漂わせていた。
「ところで三佐樹さんはどのような天才なのでしょうか?」
 メモを取る高岡に三佐樹が訂正を入れた。
「先ほども言ったように俺は天才ではない。大天才だ」
「失礼しました。その大天才ぶりを教えてもらえないでしょうか」
 実はこれまでと違い、彼はアポを入れた時にその内容を話さなかった。ウィローズの柳沢女史は彼こそが真の天才であり、今後の日本を背負って立つほどの逸材であると目を輝かせながら語っていたことを思い出す。紹介料も目玉が飛び出るほど高額であった。
 これまで微妙な天才しか現れなかったが、今度こそ本物だと期待してわざわざ宮崎まで奮発したのである。もしこれが没であれば経費は自腹となる。大阪までは取材費として交渉に成功したが、今回は放送NGとなった時点で経費としては認められそうもない。一か八かの賭けであった。
 三佐樹は高岡の目の奥を刺すような鋭い目つきで睨みつける。
「俺はUFOを呼べる。しかもいつでもどこでも誰とでもだ!」
 それはすごい。天才というよりむしろ超能力者と言っても差しつかえないくらいであるが、もし本当であればこれは特ダネであり、彼一人で特番を組めそうである。“誰とでも”というフレーズが引っかかるが、これは絶対にモノにしなくてはならないと強く意気込む高岡であった。
「早速見せてもらえますか」
「よかろう。ついて来なさい」
 そう言って三佐樹は高岡を引き連れて庭に出ると、空に手をかざした。しかし変化は見られない。雲一つない青空が広がっているだけで、それらしき物体はどこにも見えなかった。
「ふう、どうだ俺の力は?」
 手を下ろした三佐樹はぐったりした表情で疲労の色を見せた。
「そう言われましても、まったく確認できませんでしたけど……」
「そうだろう。相手は小型だからな。肉眼では見えなくて当然だ」
 それならば望遠鏡を使ってみたらと提案するが、少なくとも地上のどこの天文台でも観測するのは難しいとの話だった。
「それじゃあ意味がありません。あなたを疑っているわけではありませんが、証明できなければ何の意味もありません。テレビですから」
 落胆の色を隠せない高岡。しかし三佐樹の天才ぶりはこれだけに留まらなかった。
「これはほんのあいさつ程度だ。大天才の俺がたったこれだけの力で満足すると思うのかい?」
「それじゃあ……」
 途端に笑顔になる高岡だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み