かしまし幽姫と学校の怪談:其ノ一

文字数 2,785文字


「……本当にやりますのね」
 げんなりゲロゲロテンションなお露ちゃん。
 わたし達は三人揃って、夜の校舎を見上げていた。
 うん、そうよ?
 あの女の子──〝山内(やまうち)友香(ゆか)〟ちゃん──の中学校よ?
「まったく……何で、こんな面倒ばかり……」
 ブツクサ不満を(こぼ)すお露ちゃんに、わたしは凛と使命感を示した!
「だって! あの子、可哀想じゃない!」
「お菊ちゃん、本音は?」
「報酬の骨董大皿で~す ♪ 」
 屈託なく満面ホクホクの笑顔なのでした★
 だって解決したら、友香(ゆか)ちゃん()の物置に眠る大皿が貰えるんですもの ♪



「「「学校の怪談~?」」」
 打ち明けられた相談に、わたし達は顔を見合わせた。
 正直、ピンと来ない。
 だけど、思い詰めた友香(ゆか)ちゃんの表情は本物だ。心底怯えている。
「さ……最近、頻繁に起こるんです。何人も遭遇して……追われたって話もあるし……でも、先生達は信じてくれないし……大人達にも相談できないし……」
「具体的には? どんなのかな?」と、努めて明るく()き出すわたし。
「ト……トイレの花子さん……とか」
「鉄板ですわね」
「独りでトイレに入ると『赤か? 青か?』って……その声がずっと続いて……」
「あ! それなら、わたしも知ってるよ? 『赤』と答えれば〝動脈〟を切られ『青』と答えれば〝静脈〟を切られ……どちらにせよ殺されるんだよね?」
「は……はい」
「それ〈花子さん〉ではありません事よ?」
「え? で……でも、トイレに出るって……」
それ(・・)は〈トイレの怪〉ではあっても〈花子さん〉ではありませんわ」
「だね★ あのね、友香(ゆか)ちゃん? 此処最近は〈花子さん〉だけ知名度が一人(ひとり)(ある)きしているけど『トイレの怪談』って、いくつかあるの」
「そうなんですか……」
「そう、みんなして〝便所飯仲間(べんとも)〟ですわ……クスクス ♪ 」
「違うよッ?」
 何言い出したの? この外道幽霊(ビッチ)
 わたしイヤだよ?
 全国の〈トイレの怪〉から侮辱罪で訴えられるの!
「ん~? だけど、その『怪談』……確か昭和初期~中期に流布して、その後はパッタリじゃなかったかなぁ?」
「ええ、そうよ。お菊ちゃん。被害実例の無い殺人ですわ」
「……無いの?」
「ええ」
「誰も死んでないの?」
「ええ、一件も」
「……何で〝被害実例〟が赤裸々に伝わってるの?」
「それこそが『怪談』たる由縁。さっきの〈口裂(くちさ)け女〉と同じ……クスクス ♪ 」
 ああ、そっち(・・・)が『怪談』の由縁なんだ?
 怪奇事象そのものじゃないんだ?
「要するによォ」
 お岩ちゃんがピシリと拳を叩き鳴らした。
 あ、イヤな展開の前振りだ……コレ。
「そいつ、覗いてるよなぁ? 立派な変態だよなぁ?」
 ……間違ってはいない。
 ……でも、合ってはいない。
 ついでに言えば〝変態〟で片付けられる〈怪奇現象〉が不憫。
「うしっ! シメんぞ!」
 はい、キターーッ!
 新しい粗暴スイッチ入ったーーッ!
「御待ちになって、お岩ちゃん」
「あ? んだよ、お露?」
「他に、どのような変態被害があるか確かめませんと……」
 お露ちゃん、いま「変態被害」って言ったよね?
 完全に『変態案件』になっちゃってるわよね?
「他には『笑う音楽家』とか」
「あ、音楽室の肖像画が笑うってヤツだよね? ベートーベンとかモーツァルトとか」
「こ……これは体験談があります! 私の友達が! その子、縦笛が苦手で、夕方には(ひと)りで音楽室で練習していたんです! そんなある日、音楽家達が笑いだして!」
「シメんぞ」
 どうして、すぐにそこ(・・)へ着地するのかしら?
 このガサツ幽霊?
他人(ひと)のコンプレックスを覗き見して、(あざけ)(わら)うなんてよォ……最低の人間がやる事だ! ()してや〈音楽家〉が揃いも揃って音痴を笑うだァ? 自惚(うぬぼ)れてんじゃねぇ! 肩書に溺れやがって! 音楽家失格だ!」
 違うよ?
 そういう話じゃないよ?
「他にも『走る二宮金次郎』とか『てけてけ』とか『動く人体模型』とか」
「シメんぞ」
 早いよッ?
 お岩ちゃん、思考放棄に決断早いよッ?
 まだ詳細聞いてないよッ?
「御願い! お姉さん達! ウチの学校から〈怪談〉を追い出して!」
「おぅ! 任せとけ!」
「「イヤイヤイヤイヤ!」」
 考えなしに快諾する単細胞の背後で、わたしとお露ちゃんは首が取れると思えるほどブンブンブンブン!
 一番(いちばん)イヤな展開にブンブンブブブン! ブブブンブン!
 こうならないように危惧してたのに!
 常日頃から!
 あのお露ちゃんですら!
 わたしは友香(ゆか)ちゃんを正視すると、優しく諭すように(なだ)めた。
 潤む瞳は憐憫(れんびん)を抱かせるけども……ゴメン!
「あのね? 友香(ゆか)ちゃん? わたし達〈妖怪退治のヒーロー〉じゃないの。そんじょそこらにいる〝一般(いっぱん)幽霊(ゆうれい)〟なのよ?」
「お菊ちゃん、幽霊は〝一般(いっぱん)〟じゃないわ」
「とりあえず、そういう案件は何処ぞの〈妖滅戦隊〉へ★」
「メタですわね」
「で……でも! お姉さん達、強いじゃないですか! きっと『学校の怪談』にだって勝てるじゃないですか!」
「あたぼうよォ! 任せとけ!」
「「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」」
 ブンブンブブブン! ブブブンブン!
「御願いです! お皿ありますから!」
 ピキーーン!
 わたしの脳内で黄金文字が輝いた!
 『YES』という黄金文字が!
「……お皿?」
「はい! 亡くなったお爺ちゃんが趣味で〝古いもの〟を集めていたんです! 私に価値は解らないけど、結構大きいヤツでした!」
「ウフ……ウフフフフフ ♪ 」
「え? お菊ちゃん?」
「……やるよ?」
「お菊ちゃんッ? 帰って来て下さいませんッ?」
「やるよ! お岩ちゃん! お露ちゃん!」
「ちょっとーーーーッ?」
「おしっ! お菊も、ようやく()る気出したか! それでこそ、アタシの舎弟だ!」
 舎弟になった覚えは無いし、宛字が違う気がしたけど……まぁ、いいわ。
 お皿に免じて呑み込んであげる。
 そもそも乗り気の単細胞は、これで参戦確定。
 あとは……。
「フッ」
 閑雅(かんが)微笑(びしょう)に髪を鋤き流し、お露ちゃんは……駆け出した! 猛ダッシュで!
口裂(くちさ)けさ~ん! 先程のビジネスの件ですけれど~?」
 ガシリと右腕を掴むお岩ちゃん!
 そして、ちゃっかりと左腕を押さえるわたし!
「放して! 御放しになって! 御帰りはコチラで~す!」
「逃がさねぇぞ、お露!」
「うふふ……お皿……お皿…………」
「お菊ちゃん! 目、イッてますわ! 恍惚にヨダレ垂らしてますわよ!」
「お皿が一枚~……お皿が二枚~……お皿が…………」
「怖ッ? 番町皿屋敷、怖ッ? こういう怖さだったかしらッ?」
「アタシらは一蓮托生(いちれんたくしょう)だ!」
「ウフフフフ ♪  ()(にえ)~……〈お皿様〉の()(にえ)~……」
「イヤ! 放して! 婆やぁぁぁ~~~~……!」
 そのままズルズルと身柄拘束されたわ。
 またまた古典怪談から『Xファ ● ル』に推移したわ。
 うん、でも、いいのよ?
 だって、総ては〝お皿〟の(ため)ですもの ♪

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登場人物紹介

名前:お菊/更科菊花

(Okiku/Sarashina Kikka)


性格:

偏執的な皿フェチ。

温厚柔和な常識派ではあるものの、自分が可愛い事を自覚に武器とするしたたかさなブリッコ気質も内包している。


特徴:

古典怪談『番町皿屋敷/播州皿屋敷』に登場する日本三大幽霊〝お菊さん〟御本人。

理由あって閻魔大王から肉体を与えてもらい〝更科菊花〟を名乗って〝人間〟として平穏な日常を送っている。

温厚柔和な常識派で普段は腐れ縁の〝お岩〟〝お露〟に振り回されるツッコミ役ながらも、ひとたび〝お皿〟が絡むと異常な偏執愛が暴走して見境が無くなるため、実は三人の中で〝一番アブナイやつ〟かもしれない。

名前:お岩/東海林壱和

(Oiwa/Syouji Iwa)


性格:

実質的に三人組のリーダー格。

大雑把を通り越したガサツさにあり、思考力は放棄しているに近い。

あれこれと考えるよりも感情任せに即行動を起こす後先考えない豪胆さからトラブルメーカーと化しているが、反面、根は人情味に篤い姉御肌。


特徴:

古典怪談『東海道四谷怪談』に登場する日本三大幽霊〝お岩さん〟御本人。

理由あって閻魔大王から肉体を与えてもらい〝東海林壱和〟を名乗って〝人間〟として平穏な日常を送っている。

とにかく大雑把な行動派で、後先考えないトラブルメーカーとして〝お菊〟〝お露〟を振り回す。

実践的な運動能力や潜在霊力は三人組の中でも一番高く、戦闘などの物騒な局面は彼女の独壇場とも言える。

名前:お露/灯牡丹露奈

(Otuyu/Hibotan Tuyuna)



性格:

稀に見るしたたかさで他人を玩具に愉しむ小悪魔的な性格。

また同時に〝性〟に対しては非常に貪欲。

抜け目のなさでも侮れない。

三人組に於いては参謀的知恵袋のポジションでもある。



特徴:

古典怪談『牡丹灯籠』に登場する日本三大幽霊〝お露さん〟御本人。

理由あって閻魔大王から肉体を与えてもらい〝緋牡丹露奈〟を名乗って〝人間〟として平穏な日常を送っている。

他人の困惑を玩具とするしたたかさを秘めており、常に「クスクス」と悪戯心を隠し含み笑う。

また、根っから〝性〟に対して貪欲であり、お菊からは〝色情霊:ビッチ〟とも蔑称されている。

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