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文字数 7,641文字

 そう言えばしばらく、月を見ていないな。
 首都高をレインボーブリッジに向かって走る車の助手席から、渡辺は日没したばかりの東京の空を見回した。
 この橋を渡るのは、今日これで三度目だ。
 一度目は自分の車に乗って、ビジネスジェットで羽田に到着する彼らを迎えに行った時。
 二度目は、レンタカーのトヨタアルファード一台と、大量の私物を運搬するための運転手付きハイエース二台を彼らに引き渡してその場で別れるはずが、乞われて断りきれず、笑顔でアルファードの助手席に乗り、彼らの圧倒的な存在感を背中に感じながら都心のホテルに向かっていた、ついさっき。
 三度目が、ラーの指示でまた逆方向に戻っている、今だ。

 空港を出発してすぐに、渡辺は考えた。助手席に乗せられたと言うことは、ガイド役を求められているのだろう。そう判断した渡辺は、最近の東京の気候について笑顔で話し始め、すぐにそのような振る舞いが間違いであることを察知した。
 彼らは一枚の絵のように静止していて、誰も渡辺の話に興味を持っていなかった。簡単に言えば、無視されていた。しかし、不思議なことに、怒りは感じなかった。つまらないことを喋った自分が恥ずかしいと思った。渡辺は微笑んだ表情のまま全身を耳にして、彼らからの指示をただじっと待つことにした。
 羽田からお台場までの長い沈黙は、渡辺の精神を消耗させた。
 二席ずつ三列あるシートの中列に座ったMr.HAIRとMr.MAKEのどちらか片方が「ラーの指示で行き先を変更する」と言い、もう一方が「バゲッジの車は先にホテルへ」と続けた時、渡辺は焦らされた挙句やっと頭を撫でられた犬のような気持ちになった。自分がこの車に乗っていることすら、もう忘れられているような気がしていたからだ。
「sure」と笑顔で答えて携帯電話を構え、すぐに後続のハイエースに指示を出した。
『えーっ、せっかく頑張って追っかけてたのに』
 電話に出たドライバーは、あからさまに落胆し、『その外人、めちゃくちゃ運転上手くて、後ろを付いていくの、ホントに大変だったんだよ』と笑いながら愚痴った。
 助手席側の最後部座席と運転席、対角線上に座った黒いスーツの男。二人はラーのセキュリティーで、ドライバーを兼任してハンドルを握っているラテンアメリカ系の男の名前は、ダンテだ。
 ダンテは渡辺も気付かないうちに首都高を降りていて、何の迷いもなく一般道を走っていた。
『もうUターン出来ないからまた高速乗るしかないよ。高速代はきっちりもらうからね』
 ダンテがちらりとバックミラーを見た。
 撮影専門の車両会社で手配したドライバー達は必死でアルファードの後を付いて来ていて、再び高速に乗る車列の後方に並んでいた。
 ショートドレッドのダンテの横顔がほんの少しだけ綻ぶのを見て、彼が日本人のドライバー達を気に入ってくれているような気がした。
 バックミラーに映る双子はまた静止して、それぞれの窓に流れる街を見ていた。
 また車内は無音になり、日本車の優れた静粛性が密やかに披露された。
 今日三度目のレインボーブリッジが進行方向の左手に現れた。大きな左カーブ描きながら走る車のフロントガラスで、東京の夜空がゆっくりと右にスクロールした時、渡辺は何気なく思った。
 そう言えばしばらく、月を見ていないな。

 巨大な吊り橋の上をアルファードは優しく加速していく。
 渡辺はまだ、目的地を知らされていない。
 ――この車はどこに向かっているのだろう。ラーはいつ、行き先変更の指示を出したのだろう。
 渡辺はまだ、ラーの声を聞いていない。
 渡辺の気付く限りでは、空港で会ってから今までの間、彼女は一言も言葉を発していない。ラーは屈強な二人のセキュリティーに挟まれ、握手どころか目を合わせることも叶わなかった。
 ラーを見たい。
 ひと仕事終えた今は、そのチャンスかも知れない。
 ダンテの角度に合わせて調整されたルームミラーからは、彼女の姿が見えない。
 仕事の出来る、いつも笑顔のフレンドリーな男。優秀な日本のキャスティングディレクターが、後続車の現状を確認するために後方を見る。その設定を意識した動きで振り返り、渡辺は視界の左隅に彼女を捉えた。
 月の出る幕ではない――。
 紛れもなく、疑いようもない、彼女は、完全なスターだ。
 彼女はラーであることを隠そうともせず、神々しいほどの光を放っていた。
 ハイヒールを脱ぎ捨てた裸の足が、白く輝いている。ブロンドの長い髪が紅いコートの肩に謎めいた模様を描く。――その顔は、表情が分からないほど眩く、白く、発光している。
 ラーの隣に座ったもう一人のセキュリティー、クロードが鋭い目で渡辺を見た。渡辺は目礼とも会釈ともつかないような曖昧なコンタクトを返し、視線を進行方向に戻した。クロードは長身の黒人で、黒豹を想起させる。二人のセキュリティーもまた、その体から只者ではない光を放っている。
 気がつくと、車はまた高速を降りる車線に入っていた。瞼の裏に残るラーの残像を味わいながら、渡辺はもう考えることをやめた。
 彼女の求める場所に向かう。それだけでいい。こんな経験は、滅多に出来るものではない。ネイティブには程遠い中途半端な英語力と、光らない平凡な体。どこにでもいるような東洋人の中年男が、彼らと同じ空間を共有出来ているこの状況だけでも、奇跡的な僥倖なのだ。
 ラーと、同じ車に乗っている!
 理由も知らされないまま渡米の予定がキャンセルされて手配した航空券が全部無駄になっても、自分の車を羽田の駐車場に置いて来る羽目になっても、行き先が急に知らないどこかに変更されても、何の問題もない。常に笑顔で、彼らのリクエストにイエスと応えていればいい。
 恩人の言葉が頭に浮かぶ。
 にこにこ笑って場を和ませ、いざという時には頼りになる人。そういう人間を演じるのが、キャスティングの仕事だ――。
 いっそのこと、もっと振り回されたいとすら思い始めたその時、双子から次の指示が来た。
「我々は最初の目的地をこの先にあるスタジアムに変更する」
「そこではマーシャルアーツのイベントが行われている。全員の席をブッキングして欲しい」
 Mr.HAIRとMr.MAKEが渡辺を見て、交互に言った。
「席のグレードはどんなものでも構わない」
「金額も問わない」
 渡辺は疑問を先送りにし、そのリクエストを叶えるために連絡するべき何人かの知人の顔を思い浮かべた。目的地はおそらく、有明にあるスタジアムだ。職業柄、朝刊のテレビ欄に目を通す習慣のある渡辺は、今夜エボリューションという格闘技イベントが、そこで行われることを認識していた。テレビコマーシャルの仕事で人気格闘家をキャスティングした経験も何度かあり、その時に築かれた人脈がある。九十年代の格闘技ブーム以来、テレビ局が絡むこの手の興行には、大手芸能事務所が出資をしていることも知っている。ラーと格闘技の組み合わせはミスマッチに感じるが、ありえないことでもない。ブームの頃には、エリック・クラプトンだって会場に来ていた。
 関係者席を確保するのは、それほど困難ではないだろう。問題はどこまで「こちらの情報」を伝えるかだ。
 そう考えた直後に、双子が言った。
「ブッキングのために必要であれば、ラーの名前を使っても構わない」
「客席にラーが来ていることがこの国でニュースになっても構わない」
 渡辺の心は、悦びに震えた。――まるで思考を読まれているようだ。
 双子の会話には一切、無駄がない。頭に浮かんだ疑念を質問に変換している間に、その答えが明快に示される。無能な人間が滅びて世界中が彼らのようになれば、どんなに素晴らしいだろう。
 双子からの譲歩で、ハードルは一気に下がった。プライベートのラーが東京にいて、日本のメディアに現れる。本物のラーが会場にいる効果は、主催者にとっても、主催者サイドに話を繋いでもらう知人にとっても、計り知れないほど大きい。
 渡辺はすぐに電話を操作し、三人目に繋がった関係者から座席確保の確約を取った。
 ラーと言う固有名詞を使う回数が極力少なくなるように注意して話しながら、こんな時に日本語は便利なものだと思った。お忍びで来日しているラーが実はエボリューションの大ファンで、スタッフも含めて十名ほどで今日の試合を観戦したがっている。宣伝活動には一切協力出来ないが、観客の一部として映像に映り込むことは構わないと言っている。相手方にとって都合が良いように、やや話を誇張しても、車内の外国人達から失笑されることはなかった。
 渡辺は双子を振り返って、笑顔で親指を立てた。
 ――次の心配事は、寿司屋だ。
 ブッキングが無事に完了したことを報告し終え、問題がひとつ解決するのと入れ替わりに、渡辺は会食の予約時間を心配し始めていた。ラーの泊まるホテルの高層階にあるその寿司屋は銀座にある老舗高級店の支店で、予約した時間は二十時半だ。チェックインから店に入るまで、最低三十分のシャワータイムを取るとしても、二時間後には有明を出なければ間に合わない。
 寿司屋には個室があり、そこにミコと桧森社長が同席することになっている。予約は渡辺の名前で、渡辺自身が行った。それはラー側からのリクエストではなく、具体的な指示が来ないことを自分の事務処理能力の発揮どころだと意気込んで、事前に提案した幾つかのプランの中から選ばれたものだ。
 各試合の結果にも拠るが、後半部分を生中継する構成から逆算して、イベントは二十一時ごろまでは続くと考えて良いだろう――。もしかすると、彼らは寿司屋のことなど忘れているのではないか――。
 セレブの中には少なからず直感的で奔放な、言い換えれば身勝手で我儘な人物がいる。日本の芸能界ですらそうなのだから、世界的なセレブの気儘さは、想像を遥かに超えたものであるかも知れない。
 アルファードの前方に、小さくスタジアムが光っている。
 渡辺はダンテにバックヤードへのアプローチ方法と駐車位置の説明をした。
 ダンテはショートドレッドの頭を振って頷きながら、ハンドルにかけた両手の親指を上げた。
 車内は、また静かになった。渡辺はまた指示待ちの状態になり、その沈黙は渡辺が思うよりもずっと早いタイミングで破られた。

 スシの予約時間は予定通りで問題ないわ。
 双子の片方が言った。
 ラーは日本のスシを楽しみにしているわ。
 隙間を空けずにもう一方が続けた。

 渡辺の微笑みが、照れ笑いに変わった。
 もしや額にSUSHIの文字が浮かび上がってはしないかと、ドアミラーに映る自分を盗み見た。そこにあるのはいつもと同じ、見慣れた中年男の顔だ。
 たまたまタイミングが重なっただけだろう――。心配事がそのまま顔に出てしまうほど、自分はアマチュアではない。
 渡辺は、双子を振り返って「great」と微笑んだ。

 ラーは普段ほとんど食べ物を口にしないけど、数日に一度、大量に食べるの。
 そしてそれは、今夜よ!

 モストフェイバリットなスシは、カリフォルニアロールよ。
 食後のデザートは、アイスクリームのテンプラ!

 それがないとラーは不機嫌になるの。
 絶対に必要よ。気をつけて!

 目的地が近付いたからか、双子は急に饒舌になり、口ぶりが女性的になった。面食らった渡辺は気の利いた返しの言葉を思い付けず、街灯の明かりが三本分通り過ぎた後「そのリクエストを満たす寿司屋に行くには、引き返してサンフランシスコに行かなければならない」と言って微笑んだ。

 その時、金粉が舞った。

 車内の空気の中に、無数の金粉が煌めいている。それぞれの粒子が小さく明滅しながら近付いて来て、呼吸と共にその一部を吸い込んだ。それが体の中に入り込むと、渡辺はなぜか幸せな気持ちになった。
 
 ゴールデンパウダー――、あなたには、そんな風に感じるのね。
 見た目と違って、あなたはずいぶんロマンチストなのね。

 双子は同時に片眉を上げて、興味深げに渡辺を見た。
 渡辺の心の中で、一度捨てた疑惑が確信に変わろうとしていた。
 彼らに、心を読まれている――。
 そう仮定しなければ、説明がつかない。

 大丈夫よ。
 恐れないで。

 目を閉じて、感じてみて。
 例えば、そう、耳で。

 そのパウダーに、耳を澄ませる。
 その光を、聴くの。

 光を――聴く――。

 渡辺は魅入られたように、双子の指示に従った。
 光の粒子が耳の穴から入り込み、鼓膜を透過していく。
 その時、渡辺は気がついた。
 なんということだ――。
 ラーが笑っている。
 これはラーから零れた、微笑みの光だ。

 ラーの笑みはわたしたちを幸せにするわ。
 ラーの笑みが欲しくて、わたしたちスタッフはいつもジョークを言うの。

 双子は満足気にそう言うと、再び絵のように静止した。
 いつの間にか金粉は、魔法が終わったように消えている。
 渡辺は仕事の表情に戻って、頭の中で入場の手順を反芻した。
 気紛れな彼らの予定がこのまま変わらなければ、ラーは今夜のネットニュースの主役になるだろう。格闘技イベントの客席に現れる、世界の歌姫。その隣にはミコがいる。いや、違う。ミコが合流するのは、ホテルの寿司屋からだ。

 あきれたわ。
 あなたはまだわかっていないのね。

 中途半端な微笑みを貼り付けたまま、渡辺は双子を振り返った。

 あなたはその会場にミコを呼ぶのよ。
 これはラーからのリクエストよ。

 どうしてあなたは、そんなにナーバスになっているの?
 スシの時間はノープロブレムだと言っているのに。

 日本中がミコとラーのツーショットを見る?
 それの何がネガティブなの?

 コアな格闘技ファンが、ミコを受け入れない?
 この国のアイドルには格闘技を観る自由もないの?

 そもそもあなたは、このことを予測していたはずよ。
 つまり、あなたのその困ったような笑顔は、演技にすぎない。

 演技ではない?
 じゃあどうして?

 どうしてあなたは、十人分も席をリザーブしたのかしら。
 わたしたちは、あなたを入れて六人しかいないのに。

 また、金粉が漂って来た。

 渡辺は携帯電話を握り締めたまま、身体中の穴という穴を全て開いて、美しい粒子を吸い込んだ。

 どうしたの?
 そのうっとりした顔。

 仕事の出来る、いつも笑顔のフレンドリーな男なんじゃなかったの?
 カリフォルニアの高校生が初めてマリファナ吸ったみたいな顔になっているわよ。

 ほら、ちゃんとこっちを見て。
 鈍感ね、まだ気づかないの?

 わたしたちが聞いているのは、あなたの唇からのサウンドではない。
 同じようにあなたがいま聞いているわたしたちの声も、サウンドではないわ。

 違う。
 その解釈は危険よ。

 わたしたちは神なんかじゃないわ。
 あなたが神ではないように。

 この世界はあなたの夢の中ではない。
 他の誰かの夢の中でもない。

 あなたは正気で。
 わたしたちは人間として存在している。

 さあ、ミコを呼んで。
 ラーが求めることには、必ず意味がある。

 その意味は、いずれきっと分かるわ。
 わたしたちにも。

 あなた――
 スマイルマンにも。

 猜疑心の強い自分。オカルトめいた話を一切信じなかった現実主義者の自分が、砂で作られた像のように崩れていく。左手に持った携帯電話が砂粒と共に滑り落ちないように、渡辺は指先に強く力を入れる。
 この車の中は、無音なんかじゃなかった――。
 ダンテは一ブロック先に迫ったスタジアムを指差し〈ラーはエボリューションの大ファンだ〉と言って笑った。その〈声〉は、サウンドではなかった。

 おれの心の声は全て聞かれていた。
 おれは――、彼らの心の声を聞くことが出来る。

 皮膚を覆っていた砂粒が流れ落ちた後、現れた兆候を渡辺は見逃さなかった。自分の両手が、ぼんやりと光っている。ドアミラーの中に映り込んだ笑顔の中年男が、夜光塗料が練り込まれたキン肉マンの消しゴムのように、仄かに発光している。
 おれの体が――、光っている。
 おれは、いま、覚醒した――。

〈おれは、スマイルマンだ!〉

 車内が〈笑い声〉に満たされ、金粉が舞った。
 渡辺は心から、にっこりと微笑んだ。


 収容人数一万人規模の観客席は満員札止めとまではいかないまでも、七、八割の格闘技ファンで埋まっていた。九十年代の格闘技ブームと比べれば見劣りはするが、テレビの放映権料があることを考えれば、投資額はそれなりに回収出来ているだろう。
 会場に設営された巨大モニターでは、凶暴そうな青年が吠えていて、次の試合への期待感を煽っている。横須賀のトラウマ兄弟として名が売れているその若者は、渡辺も顔と名前くらいは知っているキックボクサー吉岡兄弟の弟の方、吉岡翔馬だ。
 テレビ放送の開始時間を考えれば、この試合はディレイ中継になるだろう。運営と大多数の観客の期待通りに翔馬が勝利し、勝利者インタビューに沸く観客席の中に、ラーとミコの姿がインサート出来れば、トラウマ兄弟とこのイベントの知名度は世界的なものになるかも知れない。二人をこの場所に連れて来た自分も、結果的には運営にとって恩人ということになるかも知れない。そうなれば、今後もし彼らを何かにキャスティングすることになったとしても、交渉はある程度スムーズに進められるだろう。これは渡辺自身の仕事の幅を広げるチャンスでもある。
 携帯電話がバイブレーションし、液晶画面に吉村弥生の文字が表示されている。渡辺は左耳に電話を押し当て、右耳を指で塞いだ。
 ミコの乗った車はいま、会場のすぐ近くまで来ている。ラーの望む通り、ミコは確実にこの場所に向かっている。最初にかけた電話で桧森社長はここに向かう意味を知りたがったが、渡辺自身がそのことを知らされていないと判ると、こちら側の人数やラーの着ている服装を探るように聞いて来た。きっとミコは、メディアへの露出を計算した「私服」に見える「衣裳」を着せられて、スタジアムの外周を移動している。
 降車位置を的確に伝え、その場所に自分が立っている旨を知らせると、吉村は『分からなくなったらまた電話します』と言って通話を切った。
 あれだけ分かり易い説明を聞いて、分からなくなるようなことがあるだろうか。そう考えながら笑顔を作り階段を上りかけた時、会場がどよめきに包まれた。
 トラウマ弟の対戦相手が入場ゲートに現れた。
 黒い空手着の少年と、黒いジャージの指導者然とした男。彼らを見た瞬間に、渡辺はこの場所に来た理由が分かった。
 目的はトラウマ兄弟ではなく、対戦相手の方だった。
 スポットライトを弾き返すほど、彼らは強く発光していた。

 しかもなんだあのおやじ。――赤いぞ。
 
 渡辺は選手の影のように花道を歩く、ジャージの男に目を凝らした。
 
 照明のせいじゃない。
 光自体が色を持ち、炎のように揺らめいている。
 あれはまるで、黒いジャージを着た――赤鬼じゃないか。
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