第11話 「 酢漬けの骨 」

文字数 1,024文字

          ☆

 西へ西へと向かう皇族旅団が、とある街道を走って走って。
 とある大きな街都のほとりで、
 長めの二泊三日の休みをとると、言う時。

「今夜は街はずれの温泉宿に泊まりましょうね♪
 実はもう、予約は入れてあるのよ♡」

 マシカが、うきうきしながら。
 踊るように歩き、
 歌うように宣言したので。
 リツコも、とてもうきうきと、嬉しくなってきた。
「温泉?」
「川がお湯なのよ!」
「…すてき!」

 そんな素敵な街なので、街道沿いはとても賑わっていた。
「そういえば、リツコ、骨の酢漬けの油揚げは、もう食べたことある?」
 ひときわ美味しそうな匂いが沸き立つ露店の前の。
 長い長い賑やかな行列を目にとめて、
 マシカが言った。
「…骨? … 骨の、酢漬け… ?!」
 リツコは、想定外の料理に、目を丸くした。
「そぅよ~。美味しいのよ~!
 …地球(ティカース)にはたぶん無い料理だ、って。
 マーシャたちも言ってたから…
 リツコも食べたことはないわね?」
 質問は、確定形で。
 言いながらも。
 マシカはさっさと行列の最後尾に並び始めた。
「…どんな味…??」
 リツコも、興味津々で隣に並ぶ。
大型の地元の食用四脚獣(トアンテナゴ)の骨を乾燥させてから、地元特産の穀物(タマテラウ)の実から作った、むちゃくちゃ酸っぱいお酢に漬け込んで、柔らかくしたものを、輪切りにしてから、秋獲りの穀物(バタンテナウ)春獲りの樹果実(ポイテナウ)の実の油を混ぜたもので揚げたやつ。」
「……えぇぇ~???」
 リツコは大袈裟に目を丸くする。

「… 骨? 骨を酢漬け? …すると、骨が?
 … やわらかく? なる…???」

 想像力の、外側の食べものだ…。
 と、驚いている間にも。

「…うんめぇ!」
「あちっ!あちっ!」
 などと騒ぎながら。
 列の先頭を離れながら、早速に歩き食い!と、
 がぶっと前かがみに、かぶりつく人たちの、
 嬉しそうな、半悲鳴のような、歓声が聴こえる。

 露店かと思ったのは、店の前の部分の、
 揚げたてテイクアウト対応らしい、軒下の部分で。
 奥はかなり広い食堂になっていて。
 店内では、煮込み料理なども食べさせているらしい。
 卓上を囲む人たちからも。
「美味しい!」
「さすが!」
 などと。
 とても、美味しそうな騒ぎと香りが。
 沸き立っている…


 長い長い行列は、けっこう、待たされたけれど…

 その甲斐あって。

 その、短くはなかった大地世界(ダレムアス)の旅のなかでも。
 とりわけリツコの記憶に残るうちの、美味料理のひとつとなった。

 熱々の。
 美味しい、
 揚げ物でありました…。



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