第5話 うら、ばなし。

文字数 1,024文字

     *

 ミンディ弧列島嶼群のなかでも最大の島、
 ニンディ島の伝統芸能たる巨大人形劇は、
 後の世には重要無形文化財に指定され、
 末永く人々に愛され、人生に華を添える、
 心豊かな娯楽と見なされた。

      *

 もともとは。
 各村同士の争いや揉め事を仲裁する際に。
 暴力ではなく、神意をもってせよ、とて。
 諸神社寺院らがいさめて。
『 神事 』合戦とした、ことから、
 始まったものらしい…

    *

 ひとつの巨大人形につき、
 各5人が担当人形組となる。

 担ぎ師と呼ばれる大人3人がかりで動かす、
 超巨大な、着ぐるみというか、
 縫いぐるみというか…
 素材はさまざまに工夫されているが、
 基本ハリボテの、巨大な人形と。

 その人形の役の『 声 』を演ずる謡師。

 そして『 気持ち 』を表わす煙幕や火花、
 揺れる布飾り、はたまた鐘の音…などの
『 背景 』(と効果音)を、一手に担うのが、
『 めくらま師 』である。

     *

 そのほか、人気の神事演目である
『 大魔王 と 英雄神 の 闘い 』の一幕には、
 それぞれの『分身』や『雷火花』を演ずる
 子役たちや、若者たちが、仮面装束姿で。
 大勢で舞台を埋め尽くし。
 ところ狭しと踊り跳ね、飛び回る…

 これが中央の都邑群で演じられる際には。
 王立技藝院の生徒たち
(将来の謡い師や担ぎ師や、
 めくらま師を目指して、修行中の者たち)
 が、その係を演じるわけだが。

 季節ごとの地方の祭事巡業の際には、
 地元の子らや若者らが、その任に当たる。

 親戚縁戚に近所のジジババたちは、
 そうなると肝心の演目の内容も忘れ果て、
 我が子、我が孫の活躍びいきの大声援で。
 …神事の荘厳、というものとは程遠い、
 大騒ぎになる…

     *

 さて。
 人形1つに5人がかりの『演組』だが。
 しくじりひとつ無い熟達者になるには、
 相当な年月の修練を要する。

 巨大人形の中や裏で繰り広げられる、
 練習中、あるいは、準備中の大騒ぎや。
 しばしば発生する、喧嘩口論、
 時には殴り合い…などは。

 ちょっとした、笑寸劇などよりも、
 はるかに、生で、素で、面白い…

     *

 正規の演目のほかに、その、練習中の。
 『 舞台裏 』見物の参観券が、常に人気で。
 売り切れ・満員御礼が、続出で…

 むしろ王立技藝院の独立採算体制の中で。
 最も安定した収入源になっている、
 ということに。

 気がついている、当の、修練生たちは…

 あまり、いない。(らしい。)




 

 

 
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