第1話 真夜中のベランダで

文字数 574文字

 最初の日は、ふたご座流星群が近づいて来ている真夜中のことだった。
 僕が住んでいるのは、2DKのさして広くはない部屋だ。二階建てのアパートの二階。小さなベランダが付いていた。僕は星に特別に興味がある訳ではなかった。けれどその日は、「今夜は天気がいいから、ふたご座流星群がよく見えるだろう」と会社で同僚達が話しているのを聞いていた。だからなんとなく、流れ星を見てみようかな、という気持ちになったのだった。

 冷蔵庫からよく冷えたビールを二本取り出して、ベランダに出る。手に持っていたビール二本のうち一本を足元に置き、夜空を見上げると、なるほどよく晴れて、星がよく見えた。
 
 「あっ」

 サッと星が流れた。
 けれど、「あっ」と声をあげたのは、僕ではない。隣の部屋の人の声だった。
 隣の部屋の人も、ふたご座流星群を見ようとベランダに立って星空を見上げているのだろう。
 ベランダの手摺りに手をかけ(でも体を乗り出すほどではなく)ちらっと隣の部屋のベランダに視線を走らせた。手摺りからはみ出た手が見えた。女の人だ、と僕が思ったとき、夜風が吹き抜けた。小さな突風だった。
「うわっ」と思わず声をあげて目を閉じてしまう寸前に、風にあおられた彼女の長い髪がさらりと宙に舞ったのが見えた。
 風呂上がりなんだろうか? シャンプーのいい香りが風に混じって、僕の鼻をくすぐった。
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