6.公園の花言葉

文字数 902文字

6.公園の花言葉


高校一年生の7月。僕は自転車を漕いで目的地へと向かっていた。三十五度を超える酷暑の中、肌を焼きながら前へと進んでゆく。
異常なほど勾配が急な坂を必死に漕いで昇ったあと、下りをシャーっと駆け下りる。夏にしては涼しい風が僕の全身を通り抜ける。
「んー気持ちいい〜」
思わず声が出てしまうほどの心地よさ。これが自転車に乗ることの醍醐味である。
後ろから走ってくる車などに少々怯えつつ、環状線を一人で走る。
僕が大好きなことだ。
やがて走っていると一つの平坦な道に出た。
ペダルを全力で踏んで進み続けると、交差点で赤信号に捕まってしまった。僕はブレーキを踏んで停止する。かなりスピードが出ていたため、急ブレーキのような形になってしまった。
ふと左を見ると、一つの公園。その入口付近に、一束の花束が置かれていた。赤いカーネーションだ。
事故現場なのかな?と思い見ていると、一人のおばあさんがやってきた。そのおばあさんは、一束のバラを置いた。
その後、僕に近づいてくる。
「お兄さん」
「なんですか?」
急に話しかけられ、少し驚いてしまう。
「私は悪魔でね。未来が見えるんですわ」
「はあ」
突然振られた宗教的な話に、返答に困ってしまった。
「それだけですよ。オチもありません。ほほほ。信じるか信じないかは、あなた次第ですよ」
その婆さんは不敵に笑い、信号を指差す。すると、信号は青になっていた。しかし、近くで止まっている車は一台たりとも動いていない。
おかしいな、と思って左右を確認するも、車は全く無い。先程の青信号で、すべてどこかに行ってしまったのだろう。
「そうですか。教えてくれてありがとうございます」
青信号になっていることを教えてくれたことにだけ感謝し、スタンドを蹴り上げてペダルを踏み込む。
「いえいえ。ごゆっくり」
わけのわからない言葉を無視し、交差点に進入する。
すると大きなクラクションが一つなった。左から聞こえてきたので、なんだ?と思って左を見てみる。
そこには、一台のトラックが。
僕は、あのおばあさんが悪魔なのだという事実を、受け入れざるを得なかった。
……もしかしたら、悪魔を超えて、神だったのかもしれないが。

作:KsTAIN
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